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転生しても俺は魔法が使えない  作者: 佐佑左右
廃部の危機と退部の時期

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第34話「ワシの波動球は百八式まであるぞ」

「やばい遅刻した!」


 人間とは別に言わなくてもいいことをやたらと口にする生き物である。


 例えば「うわ俺二時間しか寝てないわ。きっつー、マジきっつー」


 あるいは「ワシの波動球は百八式まであるぞ」


 ちょっと変化球で「ククク、奴は四天王の中でも最弱の存在。降格予定だったアレに勝ったくらいでいい気になるなよ」


 ……いずれにせよ、他人からすれば特に知りたくもないような情報を、尋ねてもいないのにべらべらとそれはもうウザったいくらい告白する。効力と弱点を逐一教えてくれる能力漫画の敵キャラも驚きである。もはや独白に近いが、なんであれいちいちリアクションを求めるなと俺は言いたい。そういった手合いほど適当な相槌を返せば逆ギレされるし、ならどうしろと。お前直属のカウンセラーじゃないんだよこっちは。


 そうそう、冒頭の独白はつい口をついて出てしまっただけで特にリアクションが欲しかった訳ではない。人にされて嫌なことは他人にするなというアレである。地で御仏の精神を貫く俺はそんなことを他の人間には強要しないのだ。


 さて前置きが長くなってしまったが、現在の俺は走っていた。肉体と精神を学校へと向け、全速前進だ。自転車のギアでいったら三段階はあるぞ——なんてボケてる場合じゃなかった。


 遠くから我が学舎の鐘の音が聞こえてくる。

 急げよ俺、心のBボタンダッシュだ!


 ◆


「あ、綾村くん遅いっ」

「すみません、寝坊しました」


 遅れて到着しても俺に注目する人間は僅かなのが幸いだった。これぞ、失うものは何もないぼっちの成せる技である。いずれ尊厳すら失うだろう。それだけは勘弁願いたいが。


 とりあえず、その中の一人である担任の先生に軽く頭を下げつつ、在籍するクラスの元へと向かった。もちろん遅れて来たので列の最後尾に。今日は講堂で集会があった。


「えー、であるからして本校は生徒の自主性を重んじて……」


 壇上では、教師が取り止めのない話をしている。来たばかりで申し訳ないのだが、さっそく睡魔が襲ってきた。ここまで全速力で走って疲れたせいもあるのだろう、徒然さも相まって俺の目蓋はどんどん重くなって——。


「私が今年の生徒会長に決まったティエリア=エヴァンスだ」


 それは泣く子も黙らせるような凛とした声だった。どうやら俺が寝落ちしかけた間に教師の話は終わっていたらしい。


 霞がかった目を擦り、改めて壇上に顔を向けた俺は、そこでハッと息を飲んだ。


 その女生徒はどのように形容すればいいのか分からないほどの美人だった。


 黒いリボンで分けられた艶髪と切れ長の瞳には紅蓮を宿している。整った鼻梁に熟れた果実のような唇は正中線を的確に捉えており、コンパスで一ミリもずらさないように描かれた輪郭には余分な肉がついてはいない。だというのに、痩せぎすという程ではない。


 粉雪のようにきめ細やかで白い肌はそれでも健康的な色合いに留められている。整然と着こなした制服には一切のけがれもよれもなく、まるで不可侵な聖域のように麗しく見えた。


 やべぇ形容出来ないとか言いながらちゃっかり出来てるじゃん。


 実の所、俺の好みのタイプだった。


「はぁ、おれもあんな美人と付き合いてー。つか、突き合いてぇ」

「うわ出たよ下ネタ(笑)」

「今日も相変わらず美しいです、お姉さま……」


 小声だがざわめきが生じ始める。男子は当然のこと、意外なことに女子からもあった。


 てっきり美人生徒会長というだけで羨望よりも嫉妬が先行するものだと思っていたんだが、そういうのは逆に同年代じゃない方があるのだろうか?


「諸君らも知っての通り今月末には例の『精霊起こし』がある。我々生徒会はこれに尽力する形となるが、どうか諸君らも一丸となって盛り上げて欲しい。中でも私は火の妖精に選ばれた身。我欲ではあるが、個人としても思い入れが強いため、精霊起こしは絶対に成功させたい。そのためにも粉骨砕身でこの行事に挑むつもりだが、成功を収めるには生徒一人一人の協力が必要不可欠だ。そこで皆が協力し、全校生徒の力でその偉業を果たそうではないか!」


 ——パチパチパチパチ。泰然自若と演説を述べてみせた生徒会長に、割れんばかりの盛大な拍手が注がれる。何となく彼女の志は立派だったので、俺も目立たない程度に手を叩いた。

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