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転生しても俺は魔法が使えない  作者: 佐佑左右
担任の先生はネームレス権兵衛

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第29話「か、仮入部でもちゃんと届けは出さないとね」

 ——てなことを考えていると、再び部室の扉がノックされた。


「どうぞ」


 さっきみたいに棚町がそう告げると扉は今度はのろのろと開かれ、なんとあの担任の先生が二度目の来訪に参じたではないか。


「何か忘れ物ですか?」

「ち、ちち違います。えとえと、綾村くん、これっ」


 何やら用紙が手渡された。まさか辞表届け、……じゃないよな。なんだ?


 見るとそれは棚町に切り裂かれた入部届けだった。いや正確には新品の入部届けだけど。


「か、仮入部でもちゃんと届けは出さないとね」


 ということらしい。いやしかし、俺は問題ないのだが棚町はどうだろうか。


「もちろん私は許可しませんよ」


 案の定というべきか、棚町はそう言ってそっぽを向く。


 くそっ、いちいち部長の許可も必要だなんて面倒くさい制度だな。


「こ、こーら、そんな寂しいこと言わないの棚町さん。せっかく先生が持ってきたんだから」


 見かねた先生が無理やりペンを棚町に握らせる。普段の先生からは信じられない強引さだ。これが授業でも生かせればいいのにな、もったいない。


「頼んでません」


 それでも渋る彼女に先生は何やら耳打ちをした。言ってる内容までは聞き取れないが、棚町の表情が渋面に染まったことから恐らく面白い話ではないのだろう。


 けれども辛抱強く先生が耳打ちしていると、流石に辟易してきたのか棚町も「……そこまで言うのなら」と頷いた。前のロリ先輩の時もそうだったが、あれで結構押しに弱いんだな。


「億劫だわ」


 乱雑な筆致で許可の文言を書き連ねる棚町。ガリガリとおおよそ紙の上でペンを滑らすには似つかわしくない音を掻き鳴らしながら達筆……に見えなくもない字を書く。


「はあ……」


 端から見ても投げ遣りな様相だった。とりあえずため息を止めろ。


 しばらくして棚町はペンを走らせる手を止め、先生に渡す。今度は先生がさらさらとペンを動かし始めた。こっちは記述する要項が少ないのか、すぐに終わった。


「は、はい、綾村くん」


 最後は俺にパス。回す順番が明らかにおかしいのだがあえてスルーする。俺が書くのは入部の意志とその理由。意志確認だけならいざ知らず、理由まで書かなきゃいけないのか。


 軽く悩んだ末に俺はペンを取った。理由は下記の通りである。


『同じ境遇の部員がいるから』


 簡潔にまとめるならこれ以上の言葉はいらないだろう。理由としてはやや薄いかもしれないが、しかしそれ以外にはないのだから仕方がない。


「出来ました」


 入部届けを先生に返却すると、すぐさま文面を確認された。誤字脱字はもちろんのこと内容に問題はないか見ているのだろう。


 しかしながら一つ注釈を加えさせてもらうならば、俺は素行のよさに自信がある(と思いたい)ので、そんな分かりやすい行動は慎むのである。言っておくが断じてチキンではないので覚えておくように。一通り確認した先生はほうと息を吐き、改めて入部届けを受け取った。


「うん、じゃあこれは先生が預りましゅっ」


 何故そこで噛む……。


「せせ、先生はこれで帰るけど、棚町さんは綾村くんをあまり邪険にしちゃ駄目よ?」

「綾村くんが私の邪魔をして、私が綾村くんを邪険にする、持ちつ持たれつで良好な関係ですから、ご心配には及びません」

「もうっ!」


 棚町の天の邪鬼な発言に苦笑いした先生は、もう一度念押ししてから部室を後にした。


 すると棚町も頃合いと思ったのか、「今日はこれで終わりにします」と終了の合図。


 結局、今日も今日とて部活動らしいことをしないまま解散に至るのであった。そういえば、という前置きで申し訳ないのだが、先生の名前を聞きそびれてしまった。本人に面と向かって名前を聞くのもはばかれるので、とりあえず誰かに聞いてみようか。おーい、誰かー。


 だが予想に反して部員の誰からもあの先生の名前は分からないとの答えが返ってきた。


 今後の課題として先生の本名を調べる手間が増えてしまった。


 が、今の所はまだ担任の先生でいい。

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