第28話「何なら私がこれで両目とも潰してあげるけど、どうかしら?」
「しっかし担任の先生が顧問ねぇ……」
誰それとなく呟くも、やはり誰かに向けた言葉でもないので返答はなかった。
肝心の先生はといえば結局大した用事もなかったようで、ただふらーっと顧問のそれらしい視察をしたっきりすぐに帰ってしまった。もっとも棚町の冷たい双眸に射竦められては無理もないことだが。俺だって出来ることなら忌避したいくらいである。気の弱いあの先生なら尚更そうだったろう。それだけ棚町の眼力は凄い威力を秘めているのだ。
「もうちょっと先生に優しくしてやれよ棚町。それと他の人間にもな。でないと心労が祟って床に伏すことになるぞこの俺が」
「言葉にさりげなく自分を混ぜるのが上手いね、キミは」
「や、そんなにほめないでくださいロリ先輩」
「綾村くんに興味なんてこれっぽちもないですけどね」
「うるせえよ」
「それに私、綾村くんはともかく先生には感謝してるつもりよ」
「あれでか」
「理由はどうであれ、魔法使えない部の顧問を引き受けてくれたんだから。貴方は知らないと思うけどこの部は教師からも評判が芳しくないの」
「だろうな」
「それなのにあの、その、なんて名前だったかしら、まあいいわ、とにかく担任の先生は嫌な顔もせずに一生懸命やってくれているわ」
「おいおい」
「だからこれでも先生には優しくしている方なのよ」
「ありえん」
「……さっきから私の言葉に茶々をいれないでくれるかしら?」
これ以上は平手が飛んできそうな勢いだったので、俺は慌てて口を噤んだ。べ、別に棚町が怖かった訳じゃないんだからねっ! そんな風に俺がツンデレっぽい独白を述べていると棚町にジト目で睨まれた。ごめん嘘ですやっぱり怖い。
「つーかそういうことはちゃんと本人に言ってやれよ。あの先生ならきっと泣いて喜ぶぞ」
「いやよ。……恥ずかしいわ」
ほんのり顔を赤くしつつ俺に向かってそう言った。どうでもいいがこいつ意外と可愛い所があるんだな、顔以外にも。
「止めてくれないかしら、そのいやらしい目付きで私を見るの」
「別に見てねぇ。自意識過剰じゃないの?」
ごめんなさいばっちり見てました! けどいやらしい目じゃなく微笑ましい物を見る目つきだったのでセーフっすよね?
「何なら私がこれで両目とも潰してあげるけど、どうかしら?」
「どうかしらじゃねーよ、さらりとグロいことしようとすんな! とりあえずその手に持ったコンパスを置くんだ、話はそこから!」
あ、あぶねぇぇぇ! なんでナチュラルにそんな考えに至るのこいつ? そこらの安っぽいヤンデレと同じ考えじゃねぇか! おかげで俺の思考回路はショート完了だよ!
それはさておき、棚町のことを少々誤解していたのかもしれない。刺々しい態度や物言いは何のことはない。こいつはただ、素直になれないだけなんだと俺は思う。
そりゃあ正直に言えば初邂逅の時点であまりお近づきになりたくない相手だとは感懐したさ。したけども、それは言い換えれば棚町が壁を作っていたから俺も倣っただけに過ぎない。
だけどそれはつまらない虚栄心から来る作用だ。まるで自分の領域に踏み込まれるのが怖いと言わんばかりに他者を否定し、自分の世界から疎外する。一つ覚えで悪辣を繰り返し敵意を撒き散らす。少なくとも俺を拒絶する程度には彼女の打診を感じ取れた。
けど、違ったんだな。今確信した。こいつはどこまでも不器用でどこまでも実直、ある意味救えないそんな奴。
そして寡少の優しさと多寡の厳しさを履き違えた、ちょっと頭足らずで残念な美少女。
それでこそ棚町季節なのだと。
願わくば俺に対してもう少し態度を和らげてもらいたいものである。ま、無理だろうけど。




