第26話「じゃあ俺はぼっち属性かな?」
挨拶もそこそこに魔法使『えな』い部の部室の扉を開けると、そこには棚町、頸野、そして昨日は姿が見えなかったロリ先輩がいた。今の所俺が知るフルメンバーである。
「もう姿も顔も声も綾村君の存在を感じさせる何もかもを見せに来なくていいのに」
「……こんにちわ、圭。今日もいい不景気フェイスだね」
「やあいらっしゃい。お茶菓子程度には歓迎するよ」
三者三様のお返事、そして相変わらず俺に対する棚町の― ―毒舌。それでもなんかいい加減慣れてきてしまったのが負けた気がしてなんともなあ……。
「そんな所にぽけーと突っ立ってないでさっさと扉を閉めてくれないかしら?」
位置的に考えて、暗に俺は部室に入って来るなと言ってるんだろ。
「おっと、悪い」
言いつつ部室に足を踏み入れ扉を閉める。棚町から「ちっ」と舌打ちされたが無視だ無視。へへ、一矢ならぬ一歩報いてやったぞどうだ。鬼の形相で俺を睨みつける棚町から遠い場所にパイプ椅子を引っ張って座った。
「そういえばロリ先輩、昨日どうして来なかったんですか?」
「うん、実は紅茶を切らしてしまってね、隣町まで買い物に出けていたんだよ」
「隣町まで? 別に近場でも同じの売ってるんじゃ……」
ロリ先輩は「これが違うんだよ」と小さく頭を振って答えてくれた。
「隣町のはいい茶葉を使ってるんだ。あんな上物ここいらでは売ってなくてね。いい物は多少の手間がかかっても揃えるべきなのさ」
「はあ、そういうものですかね」
「そういうものだよ。キミにも何かこだわりはないのかな?」
こだわり、こだわりねぇ。うーん、これといってないかなぁ。
「……先輩、わたしもこだわりには一家言あります」
「キミの場合はどうせ吐血のことについてじゃないかな?」
「……ん」
「図星のようだ。前々から思っていたのだけれど頸野さん、キミはずばり吐血属性だね」
「……そういう先輩は紅茶属性」
「じゃあ俺はぼっち属性かな?」
自分で言って悲しくなるが、事実なので仕方がない。誰でもいいとまではいかないがせめて友達の一人は欲しい。切実な問題だ。うら若き男子高校生の悲痛な叫びがここにあった。
完璧超人な親友の異世界召喚に巻き込まれる脇役でもいいから熟考してくれないかな、運命とやら。その前にまず親友がいないけどな。
「そういえば綾村くん」
「な、なんだよ、俺が何かしたってのか!? ししし、してねーよ、おかしなことは何にもしてねーよ! 言いがかりはよせ!」
「どうして私が話しかけただけでそんなにびくついてるのかしら」
だってそりゃあ、ねぇ? 棚町が俺に話しかけてくる時点で既に裏があるようなものだし、そうでなくても単純に罵詈雑言を俺に浴びせてくるかの二択しかないだろ、なんてことを本人にぶっちゃけようものなら、それこそ現実のものとなってしまうので言わないが。
「じ、じゃあ何だよ……?」
「別に大したことじゃないわ。さっき入部届けがどうとか教室で言ってたけど、アレは何?」
「魔法使えない部に在籍する以上、入部届けは提出した方がいいと思ったんだよ。ほら」
昨日頸野の吐血で滲んでしまった鞄から用紙を取り出し、そのまま棚町に手渡した。怪訝な顔をしながらも、彼女はとりあえず受け取った。いやーよかった、向こうから話を切り出してくれて。
実はこの学校の入部届けは担任とは別に、部長からも許可をもらう必要があるのだ。だから棚町に頼んで記入してもらうつもりではあったのだが、何分こいつのことだ、カスミならぬ俺のお願いなんざ渋るか難癖を付けてくるに違いない。なので話を切り出すタイミングがなかなか見つからなくて頭を悩ませていた所だった訳で。しかしそれもたったの今解決した。




