第23話「……今のは趣味の吐血」
「ところで綾村くん、目障りだから消えてくれない、——この世から」
……え、酷くね?
なんかナチュラルに今の言葉に引いたんですけど。
だいたい目障りも何も、まずこっちを視界に入れてないよね。
それなのにこの世から消えろとか俺の存在全否定ですか。
うん、話はそこからだ。
それとも棚町さんにはエア綾村くんが見えているのかな?
だとしたら大変だ、すぐに治療薬を処方してもらわないと。あーりーまーせーん。
「……全く、少しは私のように空気を読んでほしいものだわ。だからいつまで経っても貴方はひとりぼっちなのよ」
「なんかリアル空気さんにダメ出しされた!? 流石、空気を読むことに関しては右に出る者がいないだけのことはあるな!」
「ありがとう。いい賛辞だわ」
「なんでありがたがってんの?」
神経ずぶてぇ。
もしかして皮肉が通じないのだろうか。
スターを手にしたマ○オかこいつ。
俺と棚町が他人も憐れむような和気藹々とした雰囲気で会話に勤しんでいると、突如として鮮血が宙を舞う。
何か火山の噴火みたいだな。
「……こぷっ」
そしてまたしても俺にかかった。
あーもう、このワイシャツはもう駄目だな。
すっかり頸野の臭いも血も染みついちまった。
「だ、大丈夫か頸野! 例の、ええと特技の吐血か!?」
「……今のは趣味の吐血」
「そうか、違いが分からん!」
心配して損した。趣味で吐血するってどうなのよ。同好の士が集まらなそうだな。
あと俺に血をぶっかけるのは止めてくれないかな。綺麗な赤色だなってつい観察しちまったよ。
しかも故意に出来るとかもうね、そりゃ確かに趣味であり特技だわな。
見ているこっちがびっくりするので勘弁願いたいが。寿命が一万年と二千年くらい縮んだっての。
「つーかなんで今のタイミングで吐血したんだ?」
「……なんとなくノリで?」
「俺に聞かれても」
「可哀想に、きっと綾村くんの不景気フェイスのせいね」
「どさくさに紛れて人を悪意百%のあだ名で呼ぶんじゃねえよ。俺の残り少ない魂がオーバーソウルすんぞ」
「このように彼が喜んでくれるから是非頸野さんもそう呼ぶといいわ」
「どのように俺を見てるんだよ」
「……ん」
頷いちゃった! 悪意を伝播させるのは上手いなあ棚町さんは。
くそっ、覚えとけ。
◆
そんなこんなで本日の総括的なものを。
部活動に初参加して死体を発見したと思ったら、それは魔法使えない部のメンバーである頸野哭で、更に目を覚ました彼女に鮮血をぶっかけられてワイシャツがおじゃん。
そして強○魔と間違われたり棚町に冷遇されたり面罵されたりといった工程を経て、ようやっと解散へと至るのであった(現在ここ)。
よくよく振り返ってみれば部活動らしいことを何一つしていなかった気もするが、というか確実にしていないが、まあそこは初日だからと思いたい。
これが日常風景ならばそれはそれで問題だからな。
きっと今日は新キャラ登場回だったんだ、なら大したこと出来なくても仕方がないよな。
うん、そういうことにしておこう。
自分を無理やり納得させるとか情けないことこの上ないだろうが、しかし部内における俺の地位はロリ先輩の紅茶にすら劣るもので。
つまり発言権がないに等しい。これについては追い追い直願する所存だ。どうせ却下されるけども。




