第18話「いやなんでもない。また部活でな」
「というわけでまずは自己紹介しようか。ボクの名前は瑚雛炉璃、キミも気軽にロリ先輩と呼んでくれるといい」
それ名前だったのか! てっきり俺はニックネームか何かだと思ってたんだが。
しかし名は体を表すというが、いくら何でもロリ先輩はまんま過ぎるだろ。
いやまあイメージに合致してるといえばしてるので問題はないけども。
「……私は棚町季節。よろしくしないでくれていいわ。お互い外でばったり出くわしても見て見ぬ振りをする健全で良好な関係を築きましょう」
やっぱり憎まれ口を叩く部長もとい棚町。
俺から視線を逸らしツンと澄まし顔。
これが照れ隠しとかならばまだ微笑ましいものの、残念ながらそうではなくむしろ好感度がマイナスを突っ切って冥界の淵まで下降してさえある。
今この場にいるのは俺を含めて三人なので、これで彼女たちの自己紹介は終わりか。となれば残す所は自分だけである。さっさと終わらせてしまおう。
「俺は——」
「綾村圭くん、でしょ?」
名乗ろうとした矢先、いきなり発せられた棚町の声によって遮られた。出鼻を挫かれた俺は「え? あ、うん」と、しどろもどろになってしまう。
「おや、二人は知り合いだったのかな?」
とはロリ先輩。いやいやそんなはずはない。だって棚町とは今さっき出会ったばかりだし、よって知り合いなどでは断じてない、よな?
「まあ知り合いではないと断言出来ます。何故なら彼は私のことを路傍に転がる石ころ程度にしか思っていないようですので」
えらく険呑な物言いだな。
そりゃ確かに、俺には棚町という名前を聞いても思い当たる節はないぞ。
だが有名人である俺(魔法が使えないという点で)のことを事前に知っていただけかもしれない。
そんな風に思案に耽っていると棚町は然もありなんとばかりに言った。
「もっとも、私を知らないのも無理ないかもしれないわね。私は教室では空気だし、浮いてるし。貴方にも言えることだけど」
「それはその通りなんだけど、なんで俺がクラスで浮いていることを知ってるんだ?」
「……嫌でも分かるわよ。だって私、教室で貴方の後ろの席にいるのだもの」
次の日のことである。
今日も今日とて、決して晴れることのない憂鬱な心境を引っ提げてえっちらほっちら学校に登校する。
無駄に高鳴りつつある鼓動を抑え、教室の自席に着くなり後ろを確認してみた。
「…………」
いた。
ぶすっとしたしかめっ面で俺を含む他のクラスメートを睥睨する残念系美少女、棚町季節の姿が確かにあった。
椅子を浅く引きまずは座る。
これは言い訳になってしまうが、俺と彼女がまさか同じクラスだとは知らなかったのだ。思ってもみなかった。
それもそのはず。
俺にはクラスメートの面を拝んだ回数も人数もどちらもすっぽり片手に収まってしまうほどしかなくすぐにクラス連中から爪弾きにされてしまったので、周囲に誰がいるだとか確認するような心の余裕が無かったのだ。
ただそれでも、彼女が真後ろの人間だとすぐに気づかなかったのは自分でも鈍感だと思う。なので俺は棚町の方へと身体の向きを変える。
「なあ」
「……何かしら?」
ちらほらと視界のはじっこでクラスメートがざわついているのが見てとれた。
恐らくはぶれ者(自分で言ってて悲しいが)であるこの俺が同じような境遇である棚町に話しかけているのが驚きなのだろう。
ええい注目するな沈黙するな、話しにくいだろうがおのれら。
「いやなんでもない。また部活でな」
こんな空気の中ではそれだけを言うのが精一杯だった。変態、と冷めた声で返された。
——さて。
これは後々分かることなのだが、この時点の俺は盛大にある思い違いをしていた。
何だかんだで魔法使えない部に歓迎されているものだと、当時青かった俺はそんな自意識過剰も甚だしい恥部を晒していたのである。
しかし現実はギブアンドテイク。
当然とばかりに若輩者たる自分にも一端の貢献を求められていたのだ。
とある日のとある出来事。
それが俺の学校生活のターニングポイントだったりする。
語るべくんばその時の活躍も事細かに一条したいなんて考えたり。
まあ、いや、そんなわけで。
俺の転生物語はこの時をもって再始動したのであった。
あるいは変動したのかもしれない。
一筆啓上。