第11話「えっ、それって魔力量がゼロってことだよね?」
「おいおい、まさか本当に魔法が使えないのかよ?」
「冗談でしょ。じゃあなんでこの学校に来たの?」
「んなもん、初等科にもいないつっーの」
「つか、それってアイツらと一緒じゃね?」
などと、四方八方から罵詈雑言を浴びせられる。
おかしいなぁ、つい数秒前までは何も問題なかったのにどこで俺は間違えた?
言葉を発せずにいると、クラスメートの一人が教卓に駆け寄り、何やら石のような物を携えて再び俺の所へ戻って来た。
「使ってみなよ」
これは何? と俺が訊ねると、クラスメートの一人が小馬鹿にしたような口調で「魔力量を測る計石だよ、知らないの?」と質問したことを後悔するような説明をしてくれた。
それでも一応「……どうやって使うんだ?」と謙って問いかけると「手で少しの間軽く握るだけだよ、知らないの?」とやはり腹立たしくなるような口調で答えてくれましたともええ。
懇切丁寧過ぎて涙が出そうだね、畜生め。
それでも俺は言われた通り計石とやらを握ってみる。
決して周囲のプレッシャーに圧されたからじゃないぞ。
ただあまりにも多勢に無礼、違った無勢だったので仕方なくだ、仕方なく。
ともあれ、計石を握った辺りからほんのりと手の平が熱を帯び始めた。
だいだいこんなもんだろうと握りを解いて机上に計石を転がすが、特になんの変哲もなさそうだった。
どこか変わったようにも思えない。
しかし見つめていた周囲の視線は酷く冷ややかで、意味の分からない俺はひたすら当惑するばかりである。
勝手に納得してないで第三者にも分かる説明をしろ!
「マジかよ……。色が全く変化してねぇぞ」
「えっ、それって魔力量がゼロってことだよね?」
「うわ、それって劣等生じゃん」
「流石にないよねー」
どうやらお気に召さなかったらしい。
いくら計石を握っても結果は同じで、焦ってその行為を繰り返す度に嘲りの言葉が増えていく模様。
なに、石なだけに意志が固いって? やかましいわ。
「俺は魔法が使えません! ……だってよ(笑)」
「やべっ、おまっ、転入生の物真似上手すぎだろ(笑)」
「ホント、マジウケる(笑)」
集合が早いなら解散も早い。
ついさっきまで俺の周りは実に賑やかだった訳だが、今やモーゼかっつー程に開けている。
残酷な天使のモーゼ。
……言ってみただけだ。それとお前ら笑いすぎ。口で「(笑)」「(笑)」うるさいんだよ。昔懐かしの笑い袋か、新手のサウンドエフェクトか。
そも人間というものはちょっとした失敗如何で瞬く間に卑下の対象とされてしまうものだ。
見限るのがいささか早計な気がしないでもないが、それは異世界でも変わらないようだ。
にしてもまさか転入初日からやらかしてしまうだなんてあり得ないだろ。それもわずかホームルームの直後だとは予想もしなかった。
そんなわけでさっそくとスクールカースト最底辺に位置付けされてしまった俺の魔法学校生活は暗澹としたものになりそうだった。
◆
やはりというか、そこからの転落っぷりはかのウォール街大暴落よりも酷かった。
授業が終わろうが(よく分からないけど)誰も俺に構うもんでもなし、ともすれば嘲弄目的であまり素行のよくなさそうな野郎が含み笑いしながら声をかけてきたり。なので当然友達など出来るはずもなく、俺はその権利を獲得するに至っていない。というより取り付く島もない。
こんな事態になってしまったのは、そもそも俺に魔法の素質がないからだろう。
てっきり転生した際にそういった諸々を含めて適応させてくれるものとばかり思っていた。しかし実際には毛ほどにも順応した気配がなく、案の定この有様である。
一体どうなっているんだと帰りしなさざめに詰問するも、彼女はただこう言うだけだった。
「ごめーん。ステュクスちんが忘れたみたい。この通り許してっ! ……ね?」
もはや怒る気力も削がれてしまった。
そうだよな、忘れてしまったんだから仕方ないよな、——なんてそんな訳あるか!
結局の所、死神はあくまで死神であり人間にはなれやしない。だから根本的な面で致命的な齟齬が発生してしまったのもある意味規定事項だったのだろう。だけど、まさかこうなるとは思わなかった。
いやはや、これでは何のための異世界なのか分からなくなるじゃないか。
ああもう、認めたくはないが認めざるを得ないのだろうな。
転生しても俺は魔法が使えない。
正にその通りだった。