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転生しても俺は魔法が使えない  作者: 佐佑左右
僕は友達がいない
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第10話「実は俺、魔法が使えないんだ」

 さざめに連れられる形で、これから俺が通うこととなる聖マルアハ魔法学校に辿り着いた。自宅からさほど歩いた風でもなく、体感時間的には十分もかからなかった気がするので、通学にはさして苦労しなさそうだ。

 時間に多少融通が利きそうなのはありがたい。 


「今日からここが俺の学舎かあ……」


 実物を見るまではそこらの私立と同じぐらいの大きさだと勝手に思っていたのだが、しかし俺の目の前にある校舎は途方もなく広大であり、とてもじゃないが比べるまでもない。

 あれは恐らく校門だろうか、何十メートルはあろうかというアーチがある。その下を大多数の人間が通り抜けていくのが見て取れた。別に普通の登校風景なのだが、違和感がすごい。


「ということであたしの案内はここまで。さ、もう行った行った。そうそう、転校初日は初めの挨拶が肝心だからね、ちゃんとはきはきとした声で自己紹介するんだよ!」


 さざめとはここでお別れだ。保護者ばりの気遣いを見せる彼女に手を振って、俺は意気揚々とその異様な校内に足を踏み入れたのだった。


 ◆


「き、きょきょきょ今日は、皆さんにててて転入生を紹介しまふっ。そ、それじゃあ綾村君、入って来てください!」


 このクラスの担任に促され、俺はこれから在籍することとなる二年一組の扉を開けた。何故に担任の方が俺よりも緊張しているのか分からないが、それはまあいい。


 教室の敷いを跨いだ俺は、つかつかと教卓の前まで赴き、前方を見遣った。そこには期待に満ちた女子の目と失意に落ちた男子の目とで見事半々に別れていた。全くもって分かりやすい反応である。がっかりさせてすまなかったな男子諸君。


「そ、そそそうそれれれじゃ、あやっ、あやむらっ、あやむらくぅん、じ、じこっ、じこここ障害、自己紹介をしてくれるかな、してくれるよねっ?」


 ラップ調になる理由は定かではないが、ともあれ自己紹介は最初が肝心。俺はなるべく最良の笑顔を浮かべて口を開いた。


「綾村圭といいます。転入したばかりでまだ右も左も分かりませんが(というか異世界だし)、仲よくしてください」


 下手に笑いを取ろうとして意味不明なギャグを織り混ぜるよりかはこっちのシンプルな方がいい。

 面白みのない奴と思われるかもしれないが、初対面ではこんなものだろうし、そういうキャラはなあにこれから作っていけばいいのさ。


 女子一堂から歓声が上がる様子は特になかったが、逆に反感を買った様子もないので、まあ結果は上々としておこう。


「ええと、じゃあ、あ、綾村君のせ、席は森田宮さんの前が、あ、空いてるかなー……なんて」


 担任が指差す先は教卓から向かって右側、つまり窓際の列から後ろ二番目の席だった。指示されるままに俺は自席へと歩を刻み、緩やかに椅子に引いて腰を降ろした。


 するとちょうどよくそこでチャイムが鳴り、担任である女教師は「こ、これでホームルームを終わりましゅっ」と盛大に噛んでそそくさと退去なさった。  

 そして僅かに出来た時間を有効活用するかのように俺の周囲をクラスメートが囲った。


 ははあん、これはいわゆるアレだな。転入生が初日に体感する伝統的なイベントである質問攻めというやつに違いない。ある程度想定はしていたので驚きこそしなかったものの、しかし実際に体験してみるとなかなかどうして圧迫感がある。失言せず切り抜けられるだろうか。


「綾村君ってさ何処に住んでるの?」

「ええと、ペネリコ北区だよ」

「あー、あたしもペネリコ北区なんだー。地味に住み心地いいんだよ、あそこ」


 さざめに事前に尋ねていたのが功を奏した。地名的な質問がくることは充分予想出来たし、ともすれば致命的な懐疑を産みかねないので答えられてよかった。しかし質問はその他にも、


「この時期に転入とか珍しいな。親の仕事の都合とか?」

「趣味とかある? あたしは魔法ジャグリング!」

「ずばり好きな娘のタイプは? アイドルグループ『マジ娘。』の中なら誰が好み?」


 などと、やはり定形の質問ばかりされたので安堵したのだが、しかしそこは魔法が存在する異世界である。

 この世界において無知蒙昧たる俺は次の質問をてんで予期していなかった。


「綾村君が得意な魔法は何?」


 正に盲点だった。そういえばさざめから魔法仕様の有無について一切の説明を受けなかったことを今更ながらに思い出す。魔法を使える世界だからといって、なら誰でも魔法を使えるかといえば、果たしてそれはどうだろうか。言語が当たり前のコミュニケーションツールとして定着している世の中でも、読み書きが不充分な人はたくさんいる。

 それと同じでいくら魔法が発展していたとしても人によって不自由があったとしても不思議じゃないはず。というよりもそうであってほしい。しかしここは魔法学校で、魔法使いが通う場所だ。果たしてこのような言い訳は通用するものか。


「ええと……」


 いつまでも返答を言い淀んでいてはいけない。なんだコイツと思われてしまう。仕方ない、不承不承ではあるが、いっそ本当のことをカミングアウトしてみよう。もしかしたら「転入生なんてそんなもんだよ」だの「大丈夫、俺なんか魔法テストで赤点だし」だのと慰めてくれるかもしれない。いやむしろ「じゃあ放課後に私と一緒に魔法の勉強しよ? ……二人きりで」という直球ど真ん中のラブコメ展開に突入するかもな! 

 よし、そうと決まったら——、


「実は俺、魔法が使えないんだ」

「えっ、なにそれキモい」


 駄目でした。

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