6 レイエアちゃんの核物理講座(初級)
「あれ?誰もいない」
なんやかんやで、リクと共に教室に戻ると、そこはもぬけの殻であった。
「多分、入学式に参加しに行ったのだな」
「えっ!?私たちもいかなきゃ不味くない?」
「…一応、自由参加…まぁ普通は参加するが」
「だよね!?」
「だが、おすすめはしない」
「なんで?」
「学園の学長の話は非常に長いと評判だ」
「げげっ」
「ということで、そんな生産性のないことをするより、俺たちにはまず、するべきことがある」
そうして、リクは机に座る、行儀が悪いね。
「するべきこと?」
「お前がさっき言っていた核エネルギー?とやらの詳細を教えてくれ」
「えーと…長くなるよ?」
「構わない、何たって時間はあるからな」
「そうだね…」
というわけでリクに対して元落ちこぼれ大学院生、現伯爵令嬢による講義が始まった。
「…まずリク、この世界の物質がなにで構成されているか知ってる?」
するとリクが懐から折りたたまれた古びた紙を取り出す。
これは…周期表!?しかも原子番号92、ウランまで!?
「これを、どこで」
明らかにこの世界ではオーパーツだ。
「どこかの遺跡から発見されたものでな、俺の師匠がこれについて研究していた。
「…なんとまぁ」
「だから俺は知っている、この世界の物質は魔素関係以外、この表に乗っている原子なるものから、共有結合、イオン結合、金属結合などによって結合され構成されていることを」
「…共有結合、イオン結合、を知っているということは、電荷も電子の存在も…」
「ああ、原子がさらに陽子、中性子、電子から構成されることも知っているといえるが…」
「なに?」
「古代の遺物を解読した結果の産物であり、ひどく断片的で、偏った知識となってしまっていることは否めない、さらにこれらに魔素に関する知見がないことも問題だ」
…うーむ魔素に関しては私もまったくわからない。
「ところでその師匠は」
「この解読結果が学会に受け入れられず、失望して…失踪した」
「なんとまぁ」
「で、俺が核エネルギーとやらについて知っている基礎知識はこれくらいだ」
…なるほど、部分的には20世紀初期ぐらいの知識をリクは持っていると。恐らくひどく断片的だと…まあそれに関しては落ちこぼれ修士の私も似たようなものか。
…大丈夫?これ?ホントに原子炉造れる?上位存在さん、人選間違ってない???
「とりあえず、魔素についてはおいておこうね、率直に言って私もよくわからない」
「おい、初っ端から不安になる情報だな」
ホントだよ、なんやねん、魔素って…
「こほん、今回はあくまでさらっとわかりやすさを重視するから、細かいところはおいおい…ね」
「わかった…それでいい」
というわけで私も対面の机に座る。
「まずは原子の構造ね、中心に陽子、中性子からなる原子核、その周りを電子雲が覆っているの」
「…まて、原子核は分かった、だがその電子雲とはなんだ⁇」
「…正直、量子力学については私もわからんので、取り敢えずその電子雲の中のどこかに電子は存在するってイメージね」
「よくわからんが…」
「そう、よくわからなくていいよ…多分、この知識がなくとも原子炉は造れるはず」
「多分か…はぁ、で、その原子炉とやらは?」
「質量を熱エネルギーに変換するリアクター、後に詳しく説明するよ」
「わかった」
「続きね、取り敢えず、原子はそのようにできているわけだけど、ねぇリク」
「…なんだ」
「あなたが将来なるとしたら、その日稼ぎのEランク冒険者か、冒険者ギルドの受付、どちらがいい」
「ふーむ…それは…受付かな、俺は」
「なぜ?」
「なぜって、受付の方が安定しているからな」
「そう、そうよね!…それは原子も一緒なの」
「…ふむ?」
「生活をエネルギーに置き換えたらわかりやすい、つまり、この周期表に乗っている原子たちはより安定したエネルギー状態に原子は常時なりたがっているの」
「そのエネルギー的に安定している基準はなんだ?」
「安定、つまりここでは原子核の結合エネルギーが高い状態」
「うーむ、よくわからん」
「…そうね、さっきエネルギーと質量は変換できるって言ったでしょ」
「…ほう、なるほど、わかった」
「…え、なにが?」
「要は、質量をエネルギーという形で放出するのだろう?その原子炉とやらは、その放出されたエネルギーを利用すると」
「随分先回りしたね…まあいいか、ちなみに最も安定した原子は、大体、Feつまり鉄ね、原子たちは鉄を目指して頑張る」
「頑張る、とは?」
「鉄の質量数は大体60、つまり質量数がこれより軽い原子は他の原子と融合して、重い原子は分裂して、鉄に近づくの、これを、それぞれ核融合反応、核分裂反応というのよ」
「核融合、核分裂」
「その時の質量欠損がエネルギーとして放出される、まあここはリクが言ったとおりね」
「ほう、で原子炉はどちらの反応を利用するんだ?」
「核分裂反応ね、原子炉の場合は」
「そうか、核分裂反応都やらを」
「それで…うん、疲れた」
「おいおい、どうした」
「嫌だって私、SA解析とかが専門だったから、正直、こう、物理学的なものは必要なこと以外うろ覚えなのよ…」
「…最早、お前が何者だったのかは聞かないが、なんというか、人選ミス感がある…」
ホントそれ、上位存在さん、せめて炉物理に詳しい工学博士持ちを転生させるべきだったでしょう!なぜポンコツ修士である私を!!!
と、遠くから大勢の人の声が聞こえてきた。
「どうやら、入学式が終わったみたいだな」
「じゃあ、丁度いいね、続きはまた今度で」
「…了解した」
というわけで第一回、レイエアちゃんのクソ雑核物理講座は終了です☆
…うん、ほんとに疲れた。