2 緑魔石と英雄スキル
無事屋敷に付き、そのまま今まで籠っていた自室ではなく食堂に顔を出す。
「お兄様!」
ベル・フォン・パウル、パウル伯爵家の跡取りだ。現在10歳
「なっ!?レイエア!??病気は?!」
「治りました!」
「治った…?」
とそこに遅れて現れた使用人が言う
「ベル様、お嬢様はどうやら流れの仙人にあって…」
あ、その設定で行くのね。
「流れの…仙人」
とその瞬間、お兄様は私のほっぺをつまむ。
「ふみゅっ!?」
「確かに…俺の英雄スキルで見ても…治っているな」
なんと、お兄様は英雄スキル持ちらしい。
「でしょ、お兄様!」
「そうか…そうか…!」
「ふみゅっ!?」
お兄様、今度は私を全力で抱きしめた。
ちょ、ぎぶ、ぎぶ!
「よかった…本当に良かった…」
お兄様、ガチ泣き。
…それもそうか、普通の家族なら、こういう反応にもなるはずだ。
お兄様が落ち着くまでこのまま耐えようかね。
暫くして、お兄様も落ち着いてきて、私を開放する。
「レイエア、父上と母上への連絡は?」
「え、使用人に任せ」
「だめだよ、それは自分でやりなさい」
それもそうか…でも
「どうやって?」
この世界、前世で流行っていた中世ヨーロッパのような何かなんでしょ?
「手紙を書いて、魔法鳥に伝書させるのだよ…そうか引きこもっていたから、そこら辺の常識もないのか…」
なるほど、伝書鳩みたいな?
「どれくらいで届くの?」
「王都まで300kmだから、一時間くらいじゃないかな」
…km?1時間?もしかしてこの世界はSI単位系なの!?
「お兄様、重力加速度はいくつですか?」
「なにを突然、しかも高学年時に倣うものを…たしか9.8m/s^2だよ」
この惑星の寸法もほぼ地球と同じもの…
わーお、これは…ガチでSI単位系っぽい、これは…楽が出来そう!
しかし300k/mを一時間…か。
「魔法鳥って早いのですね!」
「そうだね、まあ」
「まあ?」
「俺がスキルを使って直接走って届けたほうが断然早いけどね」
「えぇ(困惑)」
さすが英雄スキルとやら、シンプルにヤバそうです。
「兎に角、手紙を書いて早く送ろう」
「そうですね」
その後は手紙を書き、封をして、魔法鳥…なんかクリスタルでできた鳥に渡した。
魔法鳥は一度頭を下げるとそのまま、王都の方へ飛んで行った。
「…よし、レイエア、病み上がりなのだからもう寝なさい」
「わかりました」
そうして私は自室に戻り、魔法で身を清め、慣れているようで慣れてないベッドに入った。
…正直未だ何がどうだかよくわからないが…もう考えてもなんか怖くなってくるし、もう徒然なるままに生きようかなぁ…
そんなことを考えていたら私はいつの間にか眠りに落ちていた。
それから数日は屋敷回り中心にリハビリを兼ねて散歩していた。
「…お兄様」
「…なんだい?」
「暇です」
「学園の入学前課題は」
「簡単すぎましたね」
こちとら一応工学修士様だぞ、単位系すら一緒でさらにアラビア数字まで使われているこの世界の初等教育なんぞ簡単すぎて…流石に言語は違ったけどね…。
…ところで、そう学園、なんでもこの世界、というかこの国、義務教育が存在する、齢10から16まで、まあ、義務なのは貴族、王像限定で平民はペーパーテスト上位者のみが入れる感じらしい。ちなみに学園の場所は王都…貴族の子を王都に集めるって…人質かなんかですかね、これ(困惑)。
因みにお兄様は学園3回生だ。長期休暇なので帰省している。
「お兄様、屋敷の周りを来る日も来る日もグールグル、これじゃあ、あまりリハビリになってないのではないでしょうか?」
「いやでも、君はまだ病み上がりで」
「聞くところによると学園にも対魔物実習とかあるらしいじゃないですか」
「…よく知っているね」
「あそこの森に入りましょう!」
「だめだ!あそこには魔物が」
「魔物といってもほとんど、低級の…子供でも倒せるくらいのものしかでないと、聞きましたよ?」
「…でもな」
「それに、お兄様…お強いのでしょ?」
「…かなりね」
「あとあと、」
「…はー、もういい、わかったよ、行こう、あの森に…でも約束して、絶対俺から離れないこと!」
「はい!」
「…全く、元気になりすぎだよ、誰に似たのだか」
というわけで私はお兄さんにつられ、屋敷から一番近い森の中に入っていた。
森の中は薄暗いが、9歳の少女でも難なく歩けるほどちゃんとした道があった。
ここが、異世界の森かぁ。
…なんか前世の近所の自然公園とあまり差がないね。
「ああ、そうだ!一つ言い忘れていたのだけどね!?道端に…」
む、なんこれ?
私の足元には変わった石、表面に緑色の結晶が張り付いている。
…ん?
それを拾ってみる。と同時にお兄様の声が聞こえてくる。
「緑色の石があっても絶対にさわる、え…クソ!」
お兄様が私の手元からその石をはじき飛ばす。
「なにんですかっ!?」
「クソッ言うのが遅かった、まさかこんな浅瀬に緑魔石が!」
緑魔石…たしか教科書にそんな記述が…
「あの、お兄様、状況が」
「レイエア、僕の後ろに!」
―ガァァアア!
咆哮、と同時に現れる異形。
端的に言うと緑目のラプトル。
「グリーンモンスター…緑魔石に触れると現れるって…」
「そうだよ、正解!さすが俺の妹!石に触れる前に気が付いていたら完璧だった!」
お兄様がやけくそ気味にそう言う。
と、ラプトルは姿勢を低くしこちらへ突撃する構えを取る。
…なら最初から咆哮とかせず不意打ちしてくればよかったのでは?
「英雄スキル【ヘラクレス】起動!」
そう言った、お兄様の姿形には特に変化はなかった。
と同時にラプトルが物凄い速度、弾丸の如くの速度で突っ込んできた。
それに対してお兄様はタイミングをあわせてラプトルの顎をパリィの如くで蹴り上げて粉砕した。
絶命したラプトルはどこかへ飛んで行ってしまった。
「お兄様すごい!あの速さの相手に顎を狙って弾き返すなんて!!!」
これが…英雄スキル!
と私がひとり興奮していると。
「…まて、レイエア、今…なんと?」
「へ?だからあの速さの相手に顎を狙って弾き返す…」
「…なぜ、そこまでよく見えている!?常人でも…いやコモンスキル持ちでも不可能だぞ!」
あー、うーん、そーね。
「…偶々?」
「そんなわけあるか!!!」
まあそうなるよね…かくなる上は。
「…実は私も、もっているの、スキルを」
「…そうか…そのスキル名は?」
ここまで来たらしょうがない。
そう、私の持つ、あの
「英雄スキル【カドゥケウス】です」
…そういえば説明し忘れていたね、一つ上のスキルを持つものは、下のスキルをすべて使うことができるのだよ?私の【プロメテウス】はイデアスキルだからね、英雄スキルは使いたい放題…まあ、ちょっと、いやかなり制約あるのだけどね。
「なるほど、【カドゥゲウス】と言えば治癒系の、その能力によって君自身の病気を治したと」
「そうです」
違うがこっちの方が都合いい。
「しかし、一伯爵家に英雄スキル持ちが2人、か」
「お兄様?」
お兄様がなにやら考え事を始めてしまったので、私も先ほどの緑魔石への違和感について考える。
緑魔石…これは、どう見ても…ウラン鉱石だ。
ウラン鉱石が森の中とは言え、道端に?この世界一体どれほどのウラン資源が存在するのか?
そう言えばこの世界の万能エネルギー源である魔素は枯渇しそうだと。そしてこれ見よがしに大量にあるウラン資源、そしてなぜかウラン鉱石を拾おうとした者にのみ、襲い掛かるグリーンモンスターとやら、最後に原子力プラントについてある程度の知識がある転生者私…うーむ色々と複雑で、一枚岩とならなさそうね。
…とりま、落ちこぼれ修士の私じゃなくて、もっといい人材があったのでは?