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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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買い物

これからすることが見えてきて、リノが気持ち的にもひと段落した時、書類を抱えたレオナが宿屋の部屋までやって来た。


「さっきぶりです、リノさん。村長、お金と書類は持ってきましたけど、お話は済みました?」


リノとゴンゾそれぞれに声をかけると、レオナは何枚か重なったわら半紙の束と皮袋に入ったお金らしきものを、机の上にどさりと置いた。


「おう、ご苦労さん」


ゴンゾは皮袋を開き、中に入ったお金をわら半紙の上に並べながら、リノにバンデロール王国の通貨について教えてくれた。


「お嬢さん、これがうちの国で流通している硬貨になる。まずは、一番よく使うのがこれだ。10鉄貨(バル)、50鉄貨(バル)、100鉄貨(バル)、500鉄貨(バル)だな。食料品を買う時や、屋台で食事をするときなんかは、この鉄貨で支払いをすることが多い」


ずらりと並べられた鉄貨は、小さい塊からから大きな塊へと、四種類の大きさがあったので、これが10円、50円、100円、500円にあたるのかな?


「鉄貨のことを『バル』って言うんですか?」


「いや、金の単位は全部バルだ。1000の単位は銀貨で、この銀貨は一つで1000バルの価値がある。万の単位は金貨だ。これが10000バルだな。銀貨は靴や服を買う時に使う。家を建てたりする時は金貨が必要だ」


「わかりました。大きな買い物をするときに銀貨や金貨が必要なんですね」


ゴンゾ村長の説明はとても分かりやすい。

銀貨が1000円、金貨が10000円と覚えておけばいいか。

でも、ゴンゾ村長の口ぶりから、リノがいた令和時代の地球よりだいぶ物価が安そうな感じがした。


「ほい、これがお嬢さんの当座の資金になる」


そう言って、村長が渡してくれたのは、銀貨が一つと、500バル鉄貨が一つ、そして100バル鉄貨が五つだった。合計、2000円……いや、2000バルなり~。


これだけぇ?

いやいや、一文無しじゃなくなっただけマシなのか?


「それじゃあリノさんに、この書類のここと、ここにサインをしてもらって。村長、私はリノさんと服や靴を買いに行ってきますね。村長はこの書類を仕上げて、ハスミさんとこの陳情書を確認してから帰ってくださいね」


「うー、わかった。ハスミは今度はなんだって?」


「上の川の橋が古くなったから架け替えてほしいそうです」


「ったく、あいつは何でもかんでも村の金をあてにしやがって!」


……私のこれ、も村のお金から出てるんだよね。

リノは身を縮めながら、レオナさんが印をつけておいてくれた場所に、日本語で『リノ』とサインをしていった。


やべー、2000バルぽっちぃ?なんて贅沢言ってたら叱られそう。


書類は、「異世界人入国管理書」と「異世界人支援金受け取り証」の二種類で、内容は読むことができたのだが、残念ながらこちらの文字は書けなかった。

これからの仕事のことを思うと、文字が書けるように勉強しなくてはならないようだ。



「すまんな、こういう公的な文書は読みづらいだろ? わからないところはなかったか?」


やっぱり村長は、紳士だ。ネコルが言っていたような怖ろしいところは一つもない。


「大丈夫です。文は読めて内容の理解もできるんですが、こっちの言葉が書けないみたいで……サインは、これでいいでしょうか?」


「ああ、わしらはなんて書いてあるのか読めんが、本人が書いたとわかりゃあいい。これがお嬢さんの名前なんだろ?」


「はい、リノと書いてあります」


「よし。じゃあ、必要なものを買いに行ってくれ。レオナ、案内を頼むぞ」


「わかりました。じゃ、それが済んだらそのまま帰りますね」


「ん、任せた」



ゴンゾ村長をリノの部屋に残したまま、レオナはリノを伴って、宿屋から二軒先にある雑貨屋にやってきた。


雑貨屋の中はもう薄暗くなっており、猫の姿をした店主が、店じまいをしようと腰を上げかけたところだったようだ。


「なんだい、もう閉めるよ。いるもんがあるんならサッサと買っていっとくれ」


「ごめんね、ニッさん。この人の靴と服が欲しいんだけど。それと……リノさん、下着もいりますよね」


「はい、でもあのぅ、2000バルしかないんですけど……」


「あ、500バルは取っておいてね。トメばあさんちの支払いもあるから。ニッさん1200バルでなんとかならない?なるよね!」


強気だ。レオナさんは真面目でおとなしそうに見えたけど、猫のおばさんにグイグイ迫っている。


「まったく、1200バルで揃えろって? たいしたタマだよあんたは。うーん、服はこれ。靴はアサヤ人用のは、うちにゃあ、おいてないからねぇ。観光客が買っていく浜辺用のサンダルならあるんだけど」


「じゃ、そのサンダルね。下着はサル人族用のが入るんじゃないかしら」


「そうだね。じゃあ、これとこれだね」


夏でよかった、というべきだろうか。

レオナさんと猫のおばさんが選んでくれたのは、こんなひと揃えだった。


服はたぶん売れ残りなんだろう、なんとも派手な赤色をした半袖のワンピースだ。ウエストの切り替えもないタイプのストンとしたホームドレスである。田舎のおばあちゃんが夏に着ている感じのやつ、と言ったらわかりやすいかな。

下着は日本のようにビニールの袋に個別包装されている、なんていうことはなく、店の棚にそのまま重ねておいてあるところから、サイズが合いそうなものを猫のおばさんが引っ張り出してきてくれた。パンツは腰紐の付いたトランクス型で、上の下着はランニングシャツ。デザインは泣きたくなるぐらい野暮ったい。

サンダルは、植物を編んで作られていることがわかるつっかけサンダルだ。これも、近所に買い物に行く田舎のばぁちゃんが履いているようなやつ。


つまり、田舎のばあさま風リノの出来上がりである。


この上から下まで異世界デザインで揃えた服で、パリコレにでも出てみようか。



けど、最低限の物でもあるだけマシだ。なんとか人間らしい生活ができそうになったな。

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