巣づくり
オータムの町から帰ってきてすぐに、リノは自分の部屋を整えることにした。
まず、買ってきたベッドを壁際に置き、マイ布団を敷く。
「うーん、いいねぇ。一気に部屋らしくなったよ」
今度はカーテンだ。
部屋には作業台がないので、ダイニングのテーブルまで移動したリノは、買ってきた布を取り出してテーブルに広げた。
「そういえば、ものさしがなかった」
前にパンツの尻尾穴を縫う時に買った裁縫道具は、糸と針とハサミだけだったので、ばあばの裁縫箱に入っていたようなもろもろの細かい道具はここにはない。
ないなら作ればいいだけだね。
リノは裏庭に出ると竹藪まで歩いて行って、適当な大きさの竹を一本、魔法で切った。それを1メートルザシと30センチザシぐらいの長さに切った後で竹を8等分に割り、少し丸みが残ったものさしもどきを作り上げた。
ふんふん、後は端っこの皮を剥いで、節のいらない部分を削って、ボールペンで目盛りを刻むだけだね。
この世界には基準が存在しないので、リノが決めた幅が一センチメートルの基準値になる。
こうして「リノセンチ」の刻まれたものさしができあがった。
「できた! さっそく使ってみよう」
メーターザシで窓の大きさを測ってくると、鉛筆で布に印をつける。
「上下は5センチ折り返して……あ、縫い代を1センチ入れとかないと。ということは、両脇の縫い代は折り返すから2センチ必要か。横幅は二倍くらいの長さが欲しいけど、倹約して1.5倍くらいにしとくか」
一人でブツブツ言いながら布を切っていくリノは、自分の作業にのめり込んでいった。
「リノ、リーノ!」
「うおっ、びっくりした~」
そばに立って、リノに声をかけていたのは、兄のミノルだった。
「木を切って、戻ってきてみたら飯ができてねーじゃん。外を見てみろよ、暗くなってきてるぞ」
ミノルに言われて、窓から外を見てみれば、本当に陽が落ちてきている。
オータムの町から帰る時に、ミノルは高原の辺りの方が檜があるかもしれないと、リノと分かれて森に入っていったのだ。
やっぱり、お風呂は檜風呂だよねぇ。
「檜、あった?」
「ああ、バッチリ確保した。しかし、魔法って便利だなぁ。ウィンドカッターでスパンと切って、収納にストンと入れたらおしまいだもんなー」
「じゃあ、少し外作業をしてきて。その間にご飯を作っとくから。今日は、唐揚げだよ~」
「やったー! よし、木の皮を剥いで、建屋の骨組みだけ建てとくか」
単純なミノルである。
カーテンを作っていた道具をササっと収納に入れたリノは、ショウガとニンニク、それにみりんと醤油でぶつ切りの鶏肉を漬け込んだ。
ご飯を仕掛け、キュウリは塩もみして、浅漬けにする。二分の一残っていた玉ねぎを薄くスライスして水にさらしておく、トマトは一個使って、半分に切り半月状に薄くスライスする。
「後は、ドレッシングだねー。そういえば、庭に大葉が生えてたな」
大葉を採ってきて、サッと洗い細切りにしたリノは、醤油、酢、みりん、大葉でドレッシングを作った。できたものをなめてみたら、ちょっと旨味が足りなかったので、干し魚を削って入れてみた。
「よし、これならいける。じゃあ、鶏を揚げていきますか」
下味が付いているので、小麦粉と片栗粉で作った衣で揚げていく鶏肉は、暴力的な匂いをあたりに放っていた。
「くー、ニンニクのいい匂い! お腹すいた~」
折しも、ご飯の炊けるクツクツという音がしてきたので、鍋を火からおろして蒸らしておく。
大量にあった肉がすべて揚げあがったので、外にいるミノルに声をかけることにした。
「兄貴、ご飯よ~」
「おう、この梯子をしまったらすぐ行く!」
どうやら物置小屋にあったものは、収納にしまわないで物置に戻しておくのがミノルのルールのようだ。
久しぶりの肉肉しい夕食は、とても美味しかった。
ミノルなどはご飯を大盛り三杯食べていた。さっぱりしたキュウリの浅漬けや、玉ねぎとトマトの大葉ドレッシングあえサラダも、揚げ物の箸休めによかったようだ。
その夜、ステータスを確認してみたリノは、またサービスポイントが370増えていたので、170と200に分けて、スキルに振り分けておいた。
<ステータス>
スキル 異世界人パック 437, 魔法全般対応 525
レベル 9 New
あれ? レベル9? ずいぶんと上がった感じがするなぁ。
二日分あるとはいえ、スキルポイントもずいぶん溜まっていた。
もしかしたら、「転移」や「時の逆転」、それに「クリーン」に付くポイントが高いのかもしれない。
そんなことを考えながら、リノは新しいベッドで安らかな眠りについたのだった。




