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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第二章 王都への旅 VS 古民家改修
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王都 対 古民家

事態は急転直下した。

警察が真犯人ではないかと怪しんでいた男が、騎士団のブラン副官が張り巡らしていた罠にかかったのだ。

そう、リノが通報したお茶屋にいた犯人らしき男は、やはり真犯人だったようだ。ブランが何件かの罠を仕掛けていて、警察もそこで張り込みをしていたらしい。


「詐欺師がオータムの町で活動するとしたらどこに仕掛けるか……と考えただけですよ」


ブランは事もなげにそう言っていたが、頭がいい人が考え出す悪事というのは、同種の性質を持つ人間にはわかりやすいものなのかもしれない。

ま、ブランさんが良い人側でよかったよ。あの人は、あの冷徹な見た目からして、あちら側に転んだらとんでもない悪党になっていたかもしれない。



事件が解決したことで困っているのが、リノとミノルの兄妹だ。


「武器も手に入ったし、いよいよ王都に向けて、冒険の旅の始まりだな!」


ミノルは冒険者登録をして、武器屋のヤマジのオヤジに大剣、丸盾、軽皮鎧、脚絆、ヘッドウォーマーを用意してもらうと、だんぜん冒険の旅に出る心境になったようだ。

どうもRPGの主人公にでもなった気でいるように見える。


「そんなことを言うんなら、お風呂はもうできているのよね」


異世界で生活をし始めて、リノが一番、不便に思っていたのがお風呂の問題だ。

タライではどうにも風呂に入った気にならない。手足を伸ばして入れる風呂があれば、リノのQOL(クォリティー・オブ・ライフ)は一段階も二段階も上がるのだ。


「いくら魔法が使えるからといって、そんなに直ぐにできるかよ。今は基礎を作ったところ。材木がないと小屋は建てられないから、森に入って木を切ってこないとなぁ」


「ガーン、まだその段階か」


「風呂なんてクリーン、一発じゃん。リノもそうしろよ」


「嫌! お風呂に入ると一日の疲れが取れるの。こういうのは効率じゃなくて、気分の問題なんです」


そんなこんなで、二人の意見が一致しない。


「けどよ、結局ピエールさんに押し切られて、俺があそこの会社の臨時社員として、犯人たちが溜め込んでた荷物を王都まで運ぶことになったろ? 古民家の改修にも後ろ髪を引かれるものもあるが、まずは請け負った仕事を優先しないとな」


ミノルが言っていることはもっともなことだ。

リノはピエールがミノルを取り込もうとしているのではないかと疑っているが、ここから先は、ミノルとピエールの間のことなので、リノが口をはさむのもなにか違う気もする。

まぁこれは、本人の判断に任せるしかないのかな。



結論として、二人が無い知恵を絞って考えだしたのが、半日、旅に出て、半日、古民家の改修をする、という折衷案だ。

これも転移ができる魔法使いならではの解決策かもしれない。

リノとしてはホクホク顔になれる結果になったが、ミノルとしては「冒険の醍醐味」というのが薄れるらしく、いつまでもブツブツ言っていた。


この仕事が終わって、拠点がしっかりと整備された後なら、ミノル一人で、めくるめく冒険に向かって旅立ってもらって構わない。

リノはリノで、料理を習ったり、近場で冒険者活動をして、お金を稼いだりできるしね。

そういう意味では、他人とは違い家族としての繋がりがあるからか、気も使わないし干渉し過ぎることもない。それでいて、お互いの存在があることで、限りない安心感を覚える。

家族というのは便利なものだ。






これからのことが決まったので、武器屋の次にオタケ古着店にお邪魔することにした。

となりの靴屋さんは申し訳ないけど、今回はスルーです。

リノが聞いたところによると、ミノルはボートに作業靴、長靴、スニーカー二足、サンダルを転がしていたらしく、靴は当分必要ないらしい。

羨ましいことで。



オタケさんは雄叫びをあげて、リノとミノルを迎えてくれた。


「あらあらまあまあ、リノちゃん、彼氏ができたの?!」


「違いますー、兄貴のミノルです」


「なぁんだ、がっかり。リノちゃんの名声やお金目当てに寄ってきたやからだったら、あたしが見定めてやろうと思ってたのにぃ~」


オタケさんの勢いに圧倒されてミノルが半歩下がったのが面白かったらしく、オタケさんはケラケラ笑っていた。


「オタケさん、サル人族の服が大量に手に入ったんですが、買い取りで見てもらえますか?」


「いいわよぉ、この台に出してちょうだい。お兄さんの方は、何か欲しい服があるのかしらん?」


「あ、リノが買ったっていう、長袖のアウトドアジャケットのようなものがあればお願いします」


ミノルもさすがに、旅に出た時に夜に着るような服を持っていなかったので、それを買いたいと言っていた。


「ふぅん、一緒に旅に出るのね。じゃあ、こういうマントがあると便利よ。剣を腰に下げるとあちこちにぶつけることもあるし、マントがあればワンクッションあるから安心よ」


「おおーー、マント! いいな、じゃあそれもお願いします」


すっかり手玉に取られているミノルである。


「それに偉い人に会う時に着るフォーマルスーツも必要ね。大丈夫、リノちゃんのドレスに合わせてあげるから」


「はぁ、そうですね。じゃあ、それも」


「うふふ、これは選びがいがあるわぁ~」


さすがオタケさん、一着ぐらいの購入では帰してもらえない。

そして、結局はフォーマル用の靴を買いに隣の靴屋に寄るハメになったのだった。


でも今回は、買い取りをしてもらえたので、双方がウィンウィンの関係だった。


リノは懐が温かくなったので、この後、ナスカ茶房に行き、念願のお茶を買うことができた。

そこには、緑茶、ほうじ茶、玄米茶があり、なんとコーヒーと紅茶まで揃ってしまった。


そして、なんとなんと、ナスカ茶房の女将さんがリノに冒険者としての心づけをくれただけではなく、一番高かったコーヒーをお礼だと言ってタダにしてくれた。

うん、善意の行為はしておくべきだね。

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― 新着の感想 ―
そうかΣ(゜Д゜)マントにはそういう意味もあったのね!
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