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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第二章 王都への旅 VS 古民家改修
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犯人

欲しかったものはだいたい買えたかな、と思っていたリノだったが、夕飯の献立を考えていた時に買い忘れていた物があったことに気づいた。


「そうか、片栗粉がいるわ」


鮎の塩焼き、不思議魚の煮物と、魚料理が続いたので、今日は肉が食べたいなぁ、兄貴の好きな鶏のから揚げでもするかな、と考えていた。でもから揚げをするには片栗粉がいる。

小麦粉に片栗粉を混ぜて衣にするのがうちの定番だ。衣に片栗粉を混ぜるとべたつかずにパリッと揚がるのよね。

それに肝心の鶏肉もない。


「やれやれ、一から食材を揃えるのって大変だ」


実家を出て一人暮らしを始めた人とか、新しく家を構えた人たちは、皆こういう苦労をしているんだろうな。 


確か町の中にも食料品店があった。あれは、ええっと……ナスカ茶房に行く道沿いだったかな。


「そうだ、ついでに紅茶や緑茶も買っていこう」


食事の後や休憩時には、お茶は必須だ。ここのところ、なにか物足りないと思っていたのは、お茶がなかったからだろう。






食料品店で鶏のもも肉と片栗粉を買ったリノは、ナスカ茶房に来ていた。


先客がいたので、接客の手があくまで、どんなお茶があるのか店の中をぶらぶら見て歩いていると、女将さんが大きな声を上げた。


「ホンマにそないな薬があるんですか? せやけど……高こうおますなぁ。もう少し、まかりまへんか?」


「ちょっと奥さん、薬っちゅうのは高いのが常識ですよ。その上、こちらの息子さんに効くような特殊な薬は数が少ないですからねぇ。ま、無理に買ってくれとは申しませんわ。それでは、またご縁がありましたら……」


「ちょっ、ちょっと待っておくれやす。主人に相談しますさかい、こっちの部屋でお茶でも飲んで待っといておくれやす」


女将さんは、薬を売りに来たらしい男を引き留めると、奥の部屋に連れていき、すぐにその部屋から出てくるとリノがいるところに早足で歩いてきた。


「えっと、お忙しいようなら、また来ますけど……」


女将さんの顔元が歪んでいたので、リノがそう言うと、女将さんは首を振って口の前に指を立て、リノに声を出さないようにさせると、とても小さな声でささやいた。


「警察が捜しているて言うてた人に、よう似とる人が来とるんどす。冒険者はん、すみませんが、頼まれておくれやす。警察署に行って、そう言うて届けてくれまへんか?」


うへっ、さっきの人、犯罪者だったのかな。

リノは女将さんに黙ったまま頷くと、すぐに騎士課に転移した。


ブラン副官と話をした会議室に転移したので、ドアを開けて廊下に出ると、誰かにぶつかりそうになった。


「「うわっ!」」


「リノさん?! どこから湧いて出てきたんですか?」


「ああちょうどよかった。ブランさん、ナスカ茶房というお茶屋さんに、警察が捜している犯人らしい人が今、来ているんですって! 警察署がどこか知らないので、こっちに来ました。伝えてもらえますか?」


リノが早口で話していくに従い、ブランはたちまち顔を厳しくさせていった。けれど、リノの話を聞き終えたブランの顔の中には高まる興奮と、どこかしてやったりというような笑みもあった。


「それはよく伝えてくれました。その件は騎士課でも把握していますので、私がすぐに対応します。この廊下の突き当りに騎士課長の部屋があるので、リノさんはそのことを課長に伝えてもらえませんか?」


「え、課長さん? なんで?」


「ちょうど、ピエールさんとリノさんのお兄さんもいらしてますから、話が早いと思います。それでは、私はこれで」


自分が言いたいことだけ言い終えると、ブランはどこかへ早足で歩き去ってしまった。


え、え、なんで兄貴とピエールさんがここにいるんだろう??



リノが仕方なく課長さんの部屋に向かっていると、部屋のドアが開き、中から人がぞろぞろ出てきた。


あ、レトさんもいたんだ。いったいどういう集まりなの?


リノも疑問を感じたのだろうが、リノを見つけた人たちもびっくりしていた。


「リノ?! 何でここにいるんだ。買い物は?」


「それはこっちのセリフだよ、兄貴。異世界人保護基金の手続きは済んだの?」


「それがさぁ、男爵さまがいなかったんだ。まだ西の村にいるんじゃないか?」


ああ、そういえば前にレトさんが、トトマス男爵は、三つか四つの村が担当だって言ってたっけ。じゃあまだ帰ってこないな。


リノは覚えていないようだが、トトマス男爵の担当区域は、センガル村、フュータ村、ブタ村の三か所である。順調にいけば明日には帰ってくるのかもしれない。


そんな兄妹の話に口をはさんできたのはピエールだった。


「保護基金の手続きなら、ここにいるレトさんが代理でしてくれますよ。レトさん、あなたなら内情をご存じだ。お願いできますよね」


「も、もちろんです!」


本来なら、責任者不在でそのようなことはできないのだろうが、基金の発案者であるピエールと、その人に心酔しているレトにかかれば、こんなゴリ押しも通るのだろう。


ピエールとレトがなんとかしてくれそうなのを感じて、ミノルは心の底からホッとしていた。

1300バルという金額がこの世界でどのくらいの価値があるのかはわからないが、リノが一軒の店ですぐに使い切るくらいの金額だ。どうにも、心もとない。


それに基金の金があれば、武器が買えるんだよな!


騎士たちが訓練で使っていた大剣が、早くもミノルの頭の中で輝き始めていた。

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