再びオータムの町へ
「あの魚、うまかったけど、ちょっと気味悪くね?」
リノが見つけた二匹の魚に鑑定をかけてみたら、「毒なし、食用可」の文言があったので、お昼ごはんに煮つけにして食べてしまった。
兄が言うように、薄気味悪いものも感じるが、食べ物をくれる人なんだから、そんなに悪い人でもないのかな、と思っている。
美味しかったしね。
しかし買っていた米がなくなってしまった。
あの魚をムニエルにでもすれば、主食をパンにして洋風の献立にしたのだが、いかんせんバターの持ち合わせがなかった。お米もリノ一人で四日は持つだろうと思っていたが、大食漢の兄が合流したので、そらぁなくなるわな。
これは食料の補充も考えて、買い物をするべきだろう。
ちなみに今日の昼食は、ご飯、インゲンとナスの焼きびたし、不思議魚の煮物、でした。
食材のほとんどが、もらい物。ありがたいねぇ。
リノとミノルは自身に身体強化をかけ、走ってオータムの町に向かっている。
拠点になった古民家がセンガル村の東の外れにあるので、東にあるオータムの町に行くのには都合がいい。走りながら、昼ごはんや買い物の話をしているうちに、高原を高速で通り抜け、町の近くにある森を抜けると、あっという間に街道近くの食料品店に着いてしまった。
「へー、ここがオータムの町か。あ、獣人だけじゃなくて外人もいる!」
「外人って、考えたらうちらの方が外人なんじゃ……いや、私と兄貴は宇宙人枠かな?」
「なるー、宇宙人か。ちょっとあがる~」
おかしな兄妹である。
「兄貴、この店が食料品を買いに行ってた店。こんにちは~」
リノとミノルが店に入っていくと、いつもの店員さんがすぐに出てきてくれた。
「……いらっしゃいませ、いつもありがとうございます。今日は、何にいたしましょう?」
昨日、旅人用グッズを買ったリノが、男連れでやって来たことで、少し不思議そうな顔をされたが、そのあたりはプロ、すぐににこやかな顔に戻って対応を始めた。
リノもスルーして、買いたいものを言っていく。
「お米って、一俵がおいくらですか?」
「500バルです」
「じゃあ、小麦粉も同じ値段ですね。米と小麦粉を一俵ずつください。ちなみに、料理に使う薄力粉っておいてます? あったら、それをこのガラス瓶に、2枡ください」
「はい、ございますよ。ご用意しますね」
店員さんは、店の他の人に倉庫から俵を運ぶように言い、自分で薄力粉を2枡量ると、いつもの紙袋ではなく、リノが持参したガラス瓶の中に入れてくれた。
「後は、牛乳をこの瓶に2リットルと、バターをこちらの入れ物に二塊。それに、ニンニクとショウガとワサビがあったら、六個ずつお願いします」
リットルなどの単位は自動翻訳されるようで、リノが思っていた分量の品物が揃った。ニンニクなどは、ナスと同じくらいの値段かな、と思って、偶数で注文してみたのだが、それでよかったようだ。ワサビは、思いのほか高かったけどね。
米・一俵 500バル、小麦粉・一俵 500バル、薄力粉・二桝 20バル、牛乳・2リットル 40バル、バター・二塊 160バル、ニンニク・6個 30バル、ショウガ・6個 30バル、ワサビ・6個 60バル。しめて1340バル也~。
合計金額を聞いた時に、兄がビクリと身体を震わせたが、自分の所持金が1300バルしかなかったからだろう。
大丈夫だよ、兄貴。ここはお金持ちのリノさんがおごってしんぜよう。オ~ホッホ。
この後は、分かれて行動することになった。
リノは家に足りないものを買いに行く。ミノルは領事館に行き、異世界人保護基金の申請をし、その後はギルドで冒険者登録だ。
「じゃあ、ギルドの登録が済んだら、オタケ古着店の辺りにいてね」
「わかった。すぐそばに靴屋と武器屋もあるんだよな」
「うん」
兄のことだから、保護基金のお金をもらったら、最初に武器屋に突撃しそうだ。
ところがそううまくは、いかなかったのである。二人とも忘れているが、トトマス男爵がまだ領地視察中のため、領事館にはいなかった。つまり、ミノルの持ち金は1300バルのままだ。
それからリノは家具屋に行き、ミノルの椅子(1800バル)と自分のベッド(2500バル)を買った。
布を扱っている店では、カーテン生地・2.6メートル(1400バル)とティッシュの代わりに使うためにガーゼ生地・1メートル(300バル)を買った。
てまり屋では、布巾三枚(210バル)、蒸し器(900バル)と大布巾(280バル)、漉し布(150バル)、手拭きタオル二枚(200バル)、ランプの油・一瓶(400バル)、ランプの芯・一巻き(100バル)を買った。
食料を買った後の所持金、53710バル-家具屋、4300バル-布屋、1700バル-てまり屋、2240バル=45470バル←これが現在のリノの所持金になる。
ちょっと買いすぎたかな?
さて、領事館に向かったミノルだが、そこで思わぬ出会いをすることになったのだった。




