お片付け
明るい日差しの中でこの家を見ると、最初の印象より立派に感じる。
南面の真ん中に玄関があり、東側にリビングダイニングが、西側に寝室と小部屋がある。
小部屋は物置にしていたらしく、足の踏み場がないくらい物がいっぱいあった。
普通は、うわー、と顔をしかめるところだが、極貧生活街道を楽しんでいるリノにとって、宝の山にみえる。
ここを午前中に何とか片付けて、リノの部屋にする予定だ。
兄には、井戸を使えるようにしてもらい、家から離れたところにあるトイレの側に、お風呂を作ってもらうつもりだ。
その間、リノはこの小部屋と台所の片付け、それに昼食を担当する。
まずは残置物の選別から始める。
⒈ 使えるもの→リノの収納に入れる。
⒉ 捨てるかどうするか迷うもの→これもタグ付けして、リノの収納に入れる。
⒊ 捨てるもの→外の草山と切り株の側に持っていく。(燃えるゴミ)
→裏の物置小屋の側に持っていく。(燃えないゴミ)
⒋ 売れそうなもの→あるかどうか疑わしいが、これもタグ付けして、リノの収納に入れる。
この部屋には北側に窓があったので、その窓の下に裏の物置小屋から猫車を持ってきて、窓の下に置いておいた。ここは、捨てるものを放り込むところだ。
「さあ、やるよー!」
掛け声に合わせて、リノは動き出した。
壊れた花瓶(3)、タイドの服(4)、ひざ掛け(1)、棚(1)、機織り機(2)、糸巻き機(2)、雪用の靴(2)、本(1)、裁縫道具(1)、めっちゃ重たいアイロン(2)、破れたスリッパ(3)、布団(2)、お酒の瓶多数(1)、壊れたランプ(2)、金庫?!のような木の箱(2)、ロウソクの束(1)、穴の開いた農作業用帽子(3)、ゲーム盤?(2)、タオルの成れの果ての雑巾(1)
このようなものが、主な発掘品だった。意外と捨てるものが少ない。
場所をとっていたのは、タイドの服と機織り機関連のものだった。
「よし、さっぱりした」
リノは二つあった棚を使いやすいように移動して、水拭きしておいた。
さあ今度は台所だ。
分類方法は同じで、捨てる物入れの猫車は裏口に置いておいた。
まずは、一番大きな鍋に魔法でお湯を沸かしておく。
出窓に並んでいた食品や調味料の瓶の中身を、ことごとく猫車にうつしていき、残った瓶は【煮沸消毒】するために鍋に入れていく。クリーンはかかっているけど、気持ちの問題だ。
瓶を綺麗にしたら次々と収納に入れていき、今度は食器やフォークなども煮沸消毒しておく。
そうやって綺麗にしている間に、かまどの灰を掻き出して、裏の物置から持ってきた麻袋の中に灰を入れておく。
ランプも油を足して芯を切ってみたら、まだ使えるようだったので、キッチンの釘に掛けて吊るしておいた。昨夜は、リノのライトで部屋を明るくしていたので、これがあると魔力枯渇になっても明るい場所で料理ができる。
後は、腐ったりしなびたりしていた元野菜たちを猫車に積んだら、掃除の完成だ。
「やっぱ、魔法があると大掃除が簡単だ」
埃や油汚れがどこにもないので、擦ったり掃いたりしなくていい。リノは棚を拭いたが、もちろん本来は拭き掃除も必要ない。主婦にとっては夢のような魔法だね。
思ったよりも早く片付けができたので、猫車に積んだゴミを片した後、しまいに行くついでに裏の物置小屋になにがあるのか覗いてみた。
小屋の天井は、半分だけが中二階になっており、そこには藁が積まれている。
鍬、備中ぐわっぽい鍬、レーキ、フォーク、スコップ、鎌、大鎌、鉈、箒、塵取り、箕、如雨露、リヤカー、背負子、カゴはいろんな形と大きさのものがある、農業用帽子など、山仕事や農作業に使うものがほとんど揃っていた。
それだけではなく、釣り竿、バケツ、魚籠などの漁に使うもの、木材、のこぎり、ノミ、金づち、釘など、大工仕事に使うものもあるようだ。
大工仕事に使うものは今、兄が使っているためか、全部揃ってはいないようだ。
「へー、ここは本当に宝の山だったね」
さっき見たら、裏の湖にうちのボートが浮かんでいたので、リノは自分のカバンや服を回収しに行くことにした。
桟橋と木のボートが酷く痛んでいたので、ついでに【時の逆転】をかけておく。
うん、この魔法も便利だねぇ。ちょっと燃費が悪そうだけど。
桟橋を渡り、兄のボートに乗り込んだリノは、久しぶりに会った友達のように、自分のカバンをギュッと抱きしめた。
このカバンがあの時、手元にあったら、異世界生活のスタートがどんなに楽だったことだろう。
「あるある。あ、お菓子とドリンクも入れてたか」
バスタオル、タオル、ビニール袋、リノの服、帽子、靴、普段持ち歩いている財布や携帯、メモ帳、ボールペン、ハンカチにティッシュ、英単語帳。
あー、こんなことになるんだったら、もっといろいろと入れとくんだった。
リノが家に残してきた自分の物に思いをはせていると、ボートの外で、ピチャンと魚が跳ねる音がした。
昼ごはんに、魚の煮物なんてどうだろう。
鮎の塩焼きも美味しかったが、リノは魚の煮物も好きなのだ。
外に出ると、桟橋の上に見たことのない魚が二匹おいてあった。
獲れたてなのか、まだピクピクと動いている。
……………………ん? さっき、こんなのあったっけ?




