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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第二章 王都への旅 VS 古民家改修
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side ミノル 初めての夜と朝

夕食が済み、リノがあとを片付けているのを横から見ていると、自分で前もって収納していたバケツの水で、使った皿や調理器具を手際よく下洗いをし、念がいったことに軽く除菌の【クリーン】までかけて収納にしまっている。

まあ、それはわかる。


けれど、歯磨きや風呂に入る面倒を、クリーン魔法一発で回避できるというのに、こちらはわざわざ、手に歯磨き粉をつけて歯を磨いているし、ミノルがいない部屋に入り、魔法でお湯を沸かしてまでして、タライで身体を洗っているようだ。


あいつの魔法はどういう基準で使っているんだろう?


ミノルは【クリーン】を使って、歯磨きと風呂を済ませた。


すげー、楽ちん。


頭のてっぺんから足の先まで、スッキリしている。

これなら服も洗い替えを買わなくていいし、着たきりスズメで何日も過ごせそうだ。



リノが風呂に入っている間に、ミノルは外へ出て魔力を使ってしまうことにした。


まずは明かりが必要か。

頭の上に外仕事用の電球をイメージして……。


「闇を照らせ【ライト】! うおっ」


イカ釣り漁船の灯りが頭をよぎったからか、ずらりと並んだ眩い光の列が空に灯った。


明るくなったからよくわかるが、家の横や裏庭はまだ手付かずのため、草ボーボーだ。

できたら湖まで歩けるようにすっきりさせて、収納に入れているボートを水に浮かべておいてやりたい。

収納の容量もよくわかっていないので、ミノルとしては大型の物は、どこかに出しておきたい気分だった。


ミノルは、リノがやっていたように【ウィンドカッター】や【ウィンディホルダー】を使いながら草を刈り、家の周りをすっきりさせていった。



「お、古いボートと桟橋がある」


ここに住んでたタイドさんは湖で漁をしてたんだな。


朽ちかけている板を踏まないように気をつけながら桟橋の端に行ったミノルは、収納からヤマバのボートを取り出して、夜の湖にそっと浮かべた。

船は多少揺らぎはしたものの、海とは違うこの山間の湖の水を気に入ったようだった。


「やっぱり、船は水の上に浮かんでる方がいいな」


親父から払い下げてもらった自分の愛船をしみじみと眺めながら、ミノルはそう独りごとを言った。


どれ、この古い桟橋とあそこの木のボートを、リノがさっきやってた巻き戻し魔法で直しとくか?

いや、待てよ。そろそろ魔力量を調べた方がいいな。さっき燃費が悪そうな【クリーン】も使ったし。


ミノルがステータスを見てみると、魔力量は「5/90」となっていた。


ひゅ~、あぶねぇ。これ、使ってたら魔力欠乏になってたな。


ミノルはステータスを開いたついでに、「35」付いていたスキルポイントをパックと魔法全般対応に「20・15」にして割り振っておいた。


こういうところが、リノとは違う用心深いところなのだろう。


船に入り錨を下ろした後、とも綱を桟橋の杭に繋いだミノルは、一仕事終えた気分で古民家に帰っていった。


その様子を隠れて見ていた者がいるのだが、ミノルは全然気づいていなかった。






リノが自分の布団をわざわざ買っていたのには驚いた。

おかげでミノルはタイドが使っていたベッドに悠々と一人で寝れるので、文句がありはしないのだが。

リノはミノルに故人のベッドを使わせることを、申し訳なさそうにしていた。


「そんなに気に病まなくても【クリーン】をかけてるんだから、布団の繊維まで真っ(さら)で綺麗なもんじゃないか。お前こそ床でいいのかよ」


「いいの、ここで。んじゃ兄貴、おやすみ~」


よくわからん。ま、本人がいいならいいんだろう。


「ああ、今日は一日ご苦労さん。おやすみ」


久しぶりに兄妹で枕を並べて寝るのだが、小さい頃は四人兄弟が一部屋に押し込まれていたので、そんなに違和感はない。

まあでも、家の中を片付けたら、個室を設けるべきだな。


そんなことを考えているうちに、ミノルも眠ってしまった。

二人でいる安心感があるのか、異世界初日の夜、などということは、頭の片隅にも浮かばなかった。






朝が来たことがわかった。


鳥の声が聞こえる。

あ、そうか、俺たち異世界にいるんだな。


家で起きるのはまだ暗いうちなので、鳥など鳴いていない。だから台所で母親がみそ汁を作っている音や弟の寝言で起こされることが多い。

朝飯をかっこんだ後は、港の船が競うように動き出すので、朝の港には威勢のいい掛け声が飛び交う。早出の船はもう魚を組合に卸しに戻ってくるし、自分も早く支度をしないと親父にどやされる。

漁師の朝は早いのだ。


こんな静かな朝は、久しぶりだな。

ミノルは落ち着いた朝を、たっぷりと楽しんだ。


「兄貴、ご飯よー!」


リノが朝飯を作ってくれたみたいだ。

ミノルは顔と口の中に【クリーン】をかけると、手櫛で髪を撫でつけながら台所に出ていった。


「今日は、家の中をザッと片付けて、足りないものを町まで買いに行くよ」


「うぉーい」


飯台につくと、目の前に具沢山のみそ汁と握り飯が置かれた。

まず、みそ汁に口をつける。

ほぉ、昨日より出汁が利いてるな。

ミノルの顔色をうかがっていたのだろう、リノも安心したように食べ始めた。


「昨日の夜、干し魚を水に浸けといたのよ。出汁が少しは出てるでしょ?」


「さすがだな。それに野菜がたくさん入っているけど、こんなにハスミさんにもらってたのか?」


みそ汁には、カボチャ、ニンジン、ナス、玉ねぎ、だけでなく、インゲンまで入っている。


「今、使ってるのはタヌキ人族のラクーさんにもらったやつ。ありがいたよねぇ、野菜も買うと高いから」


まるで主婦みたいな物言いだ。

リノも何日間か一人で暮らしてみて、経済観念が出てきたらしい。


よし、俺もしっかり働いて、リノを食わせてやれるぐらいにならないとな。


美味しいものを腹いっぱい食べて、ミノルにも気合が入ったようだ。

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四人兄妹だった(*´艸`*) めっちゃ賑やかそう。 >よし、俺もしっかり働いて、リノを食わせてやれるぐらいにならないとな。 お兄ちゃーん!!(*´艸`*)
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