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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第二章 王都への旅 VS 古民家改修
50/60

side ミノル 団欒

すっかり雨が上がり、澄み渡った空気が森や草原を満たしていた。

遥か北の方に見える高い山々がオレンジ色に染まり始め、古民家の上の空もしだいに明るさを落としていき、夜に向かうグラデーションをまとい始めた。


あまりに長く外でステータスの検証をし過ぎたようだ。


二人は慌てて古民家の鍵を開け、中に入ってみた。


外から見てわかっていた通り、玄関横のリビングには大木が、無粋な客として突っ込んできている。

奥の台所はまだ侵略されていないが、前の住人の残置物がそのままになっている。あの大木さえなければ、昨日まで、誰かがここで生活していたみたいだ。


「あっちが寝室だと思うのよね」


リノがそう言い残して、西側の部屋を見に行ったので、ミノルは見ているだけで落ち着かない木のお客さんに退場してもらうことにした。


「俺は、この木を何とかするわ」


そう奥に向かって叫ぶと、リノが「わかった、任せるね。私は寝る場所をなんとかするー」と返してきたので、こっちも「おう」と返事をしておいた。


さてと、お客さん、不法侵入してもらっちゃあ困りますな。

どこから片付けるべきか……。


魔法は想像力だってリノが言ってたな。

ミノルも数えきれないほどたくさんの魔法が出てくる作品を読んできたので、そのあたりはよくわかっている。

ただ、リノほど自由に想像魔法を使えない、というか野放図に想像できない。


これは性格もあるのだろう。

ミノルは長男特有のおっとりとした性格で、用心深いというか、石橋があっても叩いて確かめて渡るタイプだと家族に言われている。


ある意味、頭の中が凝り固まってるんだろうな。

まあ、そういう人間にはそういう人間なりの魔法の使い方があるさ。


ミノルは家の外に出て、風魔法を使った。


「鋭い風の刃よ、この木の幹を切れ【ウィンドカッター】」


結構、太い幹だったが、小気味いいぐらいスパーンと音を立てて、幹が真っ二つになった。


へぇー、うまくいくと気持ちいいな。


調子に乗ったミノルは、土魔法で木を根元ごとゴッソリ掘り出すと、身体強化を使って木の下部分をリノが集めた草山の近くまで運んでいった。

そしてまた家の中に入り、内部侵入をしている上部を、天井の穴を広げないように慎重に抜き出した。


やれやれ、これだけ伸びてたら屋根も突き抜けてたんじゃないか?

後からするだろう補修の手順を考えて、ミノルはうんざりした。


大木を軽々と肩に担ぎ、すっかり暗くなった外に出てきたミノルは、頭上を覆い始めたまばゆいほどの星々に驚きの声を上げた。


「こんなたくさんの星、見たことねぇ……」



「兄貴、何やってんの? 寝るとこは確保できたよー」


玄関から顔をのぞかせたリノに、ミノルが声をかける。


「外へ出て来いよ。星がすげーぞ!」


「ん?……うわあ、ホントだぁ。雨上がりだから、余計に綺麗に見えるね」


リノも外に出てきて、兄と妹は二人そろって異世界の夜空を見上げた。

人工的な光がほとんどない未開発の地では、ここまでのうずめくような星空が見えるのかと、感動してしまう。


身体強化って、視力も強化されるのかな?

星々の間にたなびく星雲のようなものも見えている。


「この宇宙のどこかに、銀河系があるのかなぁ」


リノかポツリとそう言った。


「意外と近いところにあるかもしれないぞ。ほら、あそこの円盤状の渦巻きとかさ」


ミノルが指し示す天空には、いくつかの銀河が連なり、時を刻みながらゆったりと回転している。それはあたかも夜空で追いかけっこをしているかのようだった。






二人で家に入った時のことだ。

リノは穴の開いた壁と天井をチラリと見て、「巻き戻れ、元の状態へ【時の逆転】」と魔法を唱えた。


すると映像を逆再生するかのように、崩れた壁が元に戻り、ちゃんとガラス窓までついた木の壁になっていった。天井の方も同じで、クルクルと木くずが巻き上がりながら元に戻っていき、太い黒光りした梁がある、いい雰囲気の古民家の天井が出来上がった。


ミノルは膝をつきたくなるぐらい脱力した。


こうすればよかったのかー。


どうも魔法に関しては、リノには天性の勘があるらしい。

今まで使ってきた魔法の種類を書き出してもらって、最初は真似していくしかないなとミノルは思った。



ただ夕食に関しては、ミノルにも活躍できる場があった。


リノは、ばあばによくくっついていたので、そこそこ料理はできる。けれど大雑把なところがあるので、調味料の使い方が、地元の言葉で言うと「おおげん」だ。()体の()当でみりんや醬油をぶち込むので、その時によって味が変わる。

ばあばもそんなところがあり、「美味しけりゃいいのよ」とよく言っていた。師匠がこれだから、弟子のリノにも改善の余地がない。


ミノルの場合は、料理本に大さじ一杯と書かれていたら、必ず大さじを使う。

そのため、安定した味が期待できる。


今回は、鮎の塩焼きで、ミノルは実力を発揮した。

魚をさばくのは、漁師のミノルにとってお手の物だし、焼く前に魚の少し上から満遍なく振りかけた塩加減が絶妙だった。


魚の塩焼きに合わせて、リノはご飯を炊いてくれた。

異世界に米があることにも驚いたが、リノが米のとぎ汁をガラス瓶に入れていたので、何をしているのかと聞くと、「ここいらの店には化粧水を売ってない」のだと言う。ヘチマ水用の瓶を買っていたが、ヘチマを見かけなかったので、急場しのぎに米のとぎ汁を使うことを思いついたらしい。


なるほどな。異世界でも使える、ばあちゃんの知恵袋ってやつか。


「そういえば、野菜もおんなじ名前だな。このサラダのキュウリとトマトもだし、みそ汁のカボチャと玉ねぎも食べ慣れた味がするぞ。出汁はちょっと薄いが……」


「私も最初は、キュウリっぽいものとか言ってたんだけど、店で売ってるのを見たら異世界文字が『キュウリ』と翻訳して読めるから、もうキュウリでいいじゃんと納得したわ。出汁の方は、トメばあさんに聞くつもり。今日のは干し魚の骨を使ってみたけど、やっぱり鰹節かだし昆布が必要だね」


我が家は食いしん坊が多いので、食に関してはみんな妥協しない。

こうして、二人で話をしながら自分たちで作ったものを食べていると、異世界に転移したとは思えない。


どうなることかと思ったが、やっぱりこの家を譲ってもらって正解だったな。

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