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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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センガル村

声をかけてくれたお百姓さんは、タヌキ人族のラクーさんというそうだ。話好きで、役場の人たちのことも面白おかしく教えてくれた。


「そいで役場の紅一点が、隣村から出てきたサル人族のレオナよ。まだ独身だで、ネコルの奴が分不相応にも狙ってるようだが、てんで相手にされておらんな」


「そうなんですね」


リノに対しては「お前」だの「失礼な奴」だのと上から目線だったネコルだが、同じ村に住む大人から見ると、彼もまだひよっこだったらしい。


村長のゴンゾさんは、ネコルが言っていたほど怖くないそうだ。

「そりゃあ、ネコルの奴がどんくさいから、いつもゴンゾに叱られてんのさ」とバッサリだ。立場や人によって、その人の印象って変わるもんだよね。


じゃあ、そんなにビクビクしなくてもいいのかな。



「ほれ、ここが役場だぁ。用向きが済んだら、すぐにトメばあさんちに行くんだぞ。トメばあさんちは、はす向かいのあの家だから、すぐだ」


ラクーさんが教えてくれた役場もトメばあさんの家も、茅葺きの木の家だった。周りを見ても瓦屋根の家は数えるほどしかない。

村役場の向かいには、レンガ造りになっている立派な二階建ての建物があったが、そこはたまに貴族が泊まる出張所らしい。


センガル村は、思っていたよりずっとのんびりした田舎の村だった。




さて、億劫がってちゃ始まらない。面倒なことはサッサと済ませますか。


「こんにちは~」


重い開き戸をノックして開けると、中にいた人が一斉にドアの方へ顔を上げた。


「はい、なんでしょう?」


一番手前の机に座っていた女の人が、笑顔でリノに声をかけてくれる。


「お仕事中にすみません。私、ええっと、リノというものですが、ネコルさんに言われてこちらに来さしてもらったんです」


「うちのネコルにですかぁ? 彼は今日はちょっと用事があって休みを取ってるんです」


「あ、その、知ってます。『出会いヶ浜』の近くでお会いしたので」


「「出会いヶ浜?!!」」


話をしていた若い女のサル人と、奥の大きな机に座っていた迫力のあるゴリラっぽいお爺さんが、声をそろえて叫びながらリノの方をガン見してきた。


お爺さんの方が立ち上がって近くまでやってくると、リノを頭のてっぺんから足先までなめるように見た後で、大きなため息をついた。


「あの野郎、『よそ者』を見つけたら丁寧に役場にご同行願えとあれほど言い聞かせておいたのに!」


うわっ、怒ってる。この人、村長のゴンゾさんで決定だね。


「あ、ネコルさんは悪くないんですよ。私を連れてこようとはしてくれてましたから。ただ、用事がありそうに見えたので、私が一人でこちらに伺うと言ったんです」


「それは、何も知らない『よそ者』を無責任にも放りだしたのとそう変わらんな。はぁ、まったく。あいつはいつもどこか詰めが甘いんだ」


「まあまあ、途中でラクーさんに会って色々とこの村の様子も教えてもらえましたし、私も無事ここまでたどり着けました。あまり怒らないであげてください」


「……リノさんといったか? あんたもたいがいお人よしだな。まぁいい、ネコルのことは後だ。まずは……飯だな。『よそ者』はたいていみんな腹が減っている状態だと聞いている」


おおっ、そんな言い伝えがあるんですね!

異世界人諸先輩の方々、ありがとうございます。何か食べさせてもらえそうです。



「レオナ、今日、トメばあさんとこは空いてるのか?」


「町から二人泊まり客が来るそうです。リノさんお一人なら、なんとかなるんじゃないでしょうか」


「ん、ならお嬢さんを連れて先に行ってるから、必要な書類をまとめて、後から来てくれ」


「わかりました」


あー良かった。こんなゆるい感じでいいんだね。

ネコルから聞いた時には、警察の尋問のようなものがあるのかと思ってたよ。


ラクーさんが教えてくれたとおり、トメばあさんの宿屋は役場の目の前にあったので、何歩も歩かないうちに到着した。

窓辺に置いてある鉢にピンクの日々草が咲き乱れている。

こういう出迎えの花があると、やっぱり気持ちが和みますねぇ。


リノが花を眺めているうちに、ゴンゾは宿屋の扉を開けて、勝手知ったる様子でずかずかと中に入っていった。


「ごめんよ、ばあさんいるかい?」


「は~い。あら、なんだゴンゾじゃない。お昼の弁当でも忘れたの?」


小柄なアライグマがちょこちょこと出てきて、ガタイのいいゴリラを子どものようにあしらっているのを見ると、何か違和感を感じてしまう。

そのアライグマのおばあさんが、村長の後ろにいたリノに気づいて笑いかけてきた。


「まぁ、お客さんだったのね。いらっしゃい、お泊りかしら、それともお食事?」


「あ、食事を! それと、できたらここに泊めてください!」


「まぁ、元気なお嬢さんだこと。はいはい、わかりましたよ。今日、お部屋が空いてて良かったわ。三号室を使ってね」


「ありがとうございます」


やった、当座の宿を確保できた!

知らない浜辺に泳ぎ着いてから、ずっと不安だった気持ちが、やっと少し落ち着けた気がする。後はお金の問題だね。役場に前借りできるといいんだけど……。


ゴンゾさんと二人で今日、宿泊する部屋に向かいながら、リノは村長に仕事を紹介してもらって、給料の前借を頼んで、なんとかしてこの世界で生きていく足場をつくらなきゃ、と決意を新たにしていた。



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