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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第二章 王都への旅 VS 古民家改修
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なんかスゲーことになった

兄の異世界人登録をしに来たハズなのだが、何かおかしな話の流れになっている。


えっと、今はセンガル村の村役場に来ている。

リノにとっては、もはや懐かしさのようなものを感じる場所だが、兄のミノルにとっては初めての場所だ。


まずゴンゾ村長の身体の大きさにビビり、サル人族のレオナさんに笑いかけられて、愛想笑いをしていた。

だいぶ緊張しているようだ。


例の異世界人の登録の諸々を済ませた後、トメばあさんの宿屋の宿泊状況を聞いた時に、話の流れが変わった。



「それがなぁ、今日は満室だ。だよな、レオナ」


「ええ、トトマス男爵の奥様とお嬢様、それにおつきの方が残られてます」


昨日、トトマス男爵はセンガル村に来て、ここの仕事を片付けた後、今日はフュータ村に行っているらしい。

その仕事についてきた家族の人達は、トメばあさんの料理を楽しみにしていたらしく、領事館の分館を閉めた後、隣の宿屋に移っているそうだ。


本来ならその人たちは貴族の館に泊まっているハズだが、タイミングが悪かったようだ。


「うー、今からオータムの町まで行くには時間がかかるし、どうしたもんか。仕方がねぇ、わしが奥様に頼んでみるか……」


ゴンゾ村長が決死の覚悟をした時、ついてきていたハスミさんが口を挟んだ。


「村長、タイド爺さんの家が使えるんじゃないか? あそこに泊まってもらえばいい。食料はうちで出すし」


リノは宿がないなら、村の浜辺か港の一角を貸してもらえば、兄の船を海に出して、漁船基地化計画の第一歩を踏み出そうとしていたのだが、ハスミさんの押しは強かった。

よほど、リノたちに恩義を感じているのだろう。


「この人たちが異世界人だと知ってびっくりしたが、ワシはこのセンガル村にとって朗報だと思っとる。ピエールさんはフュータ村にいるのに、このセンガルには異世界人がいない。村長、この人たちにこの村に住んでもらえば、ええじゃないか」


ハスミさんのその主張は、オータム領や王都の決まりごとでいっぱいになっていたゴンゾ村長の頭の中を揺さぶったようだ。


「ふーむ、それはいい考えかも知れんぞ、ハスミ。わしも若いリノさんを一人で王都に送り出したはええが、盗賊が出た話を聞いて、心配しとったんじゃ。用があるなら、王都の人間がこっちに来ればええんだからの。よし、ちょうどタイドの家の処分にも困っとったことじゃし、そうするか」


リノとミノルがまごまごしている間に、話の流れで断りにくい雰囲気になってしまった。


「どうする?」


兄が小声で聞いてきたが、リノとしては悪い話ではないと思っている。

転移が使えるようになった今、オータムの町に住んでセンガル村に料理を習いに通うのか、センガル村に住んでたまにオータムの町に買い物に行くのか、という二つの選択は、あまり重要な意味をなさなくなってきた。つまり、どっちでもいい。


「いいんじゃない。そういえば兄貴は、古民家改修のユーツベをよく観てたじゃん。ちょっと、その気になってるんじゃない?」


「おう、なんかワクワクしてる。それにリノの話を聞いてたら、最初は極貧生活になるんだろ? それなら古くても拠点があった方がいい。住居費が一番家計を圧迫するからな」


19歳になっている兄は、実家から出て一人暮らしを始めている友達もいる。そういう話を聞く機会もあったのだろう。



リノたち兄妹の話を聞いていたのだろう。ゴンゾ村長は嬉しそうに、話題になっている家のことについて話してくれた。


「タイドはなサル人族の男で、マンキ国から一旗揚げようと町に出てきたんだが、結局、アサヤ系の人族が創った制度が肌に合わんかったらしくて、生涯、結婚もせずにこの村の山奥で一人暮らしをしておった。そんなことで、土地の後を継ぐ者がおらんのよ。やつがくたばった後、同年代だったからという理由で家を託されて、わしも困っておったのよ」


「山奥というと、どの辺りなんですか?」


リノは<地図>を開いて、村長に教えてもらった。村長は地図の見方に慣れていないのか戸惑っていたが、リノがオータムの町に行く主要街道を教えると、「この辺りだ」と指で押さえてくれた。


そこは村の東の外れにある森の近くから、北の高原の方へ向かう道の途中にあった。


「へー、こんな山道があるとは気づかなかったな」


無理もない、あの辺りを通った時、リノは初めての魔法に興奮して、光の玉を連発していたからね。


リノが指で地図上をズームすると、広い範囲が囲われて灰色の字で「タイドの遺産」と書いてあった。


「おっ、広い湖が庭にある。ここ、俺の船が浮かべられるんじゃね?」


兄のいう庭は大げさだが、タイドの家の裏手に大きな湖があって、自由に使えそうな雰囲気があった。


「おお、そこは昔『ニンフの泉』という名前だったが、村のみんなはタイドの池って言ってたな」


キャー、妖精きたよ! ゴンゾ村長、タイドの池なんて、そんな無味乾燥な呼称じゃなくて、ニンフの泉でいきましょうよ!



リノがそう思った途端、湖に「ニンフの泉」の名称が加わった。

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