表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第二章 王都への旅 VS 古民家改修
46/60

新しい橋

リノは空を飛んで目当ての山沿いの家に行ってみたのだが、そこには誰もいなかった。


「おかしいなぁ、この家だと思ったんだけど」


その時、「おーい、リノ、こっちだ」という兄の声と、「す、すまんが、この木をなんとかしてくれ~」という情けない声が聞こえてきた。


あら、川の方から聞こえるみたい。あっちだったかー。


ここの農家がいつも使っている小道なのだろう。

家の前から畑のそばを通り、川のところまで来てみると、兄が身体強化でもかけているのか、大ジャンプをして川を飛び越えたのが見えた。


スゴ~イ、あれ、私もやってみたい。


リノはジャンプどころか空を飛んでいるのだが、隣の芝生は青く見える、理論なんだろうか。


兄が向かった先には、山のように木が積まれており、その木の一部が崩れて誰かを押しつぶしてしまったようだ。


「おい、リノ、あっちを持て! 【身体強化】をかけとけよ。丸太の重さを感じないから」


兄が持ち上げた丸太の下から、黒い毛並みのチーターかヒョウみたいな頭が見える。リノは兄の反対側に回り込んで、丸太の端に手をかけた。


「了解……【身体強化】かけたよー」


「ようし、いっせいのぉで、「せっ!」」


おー、身体強化って便利だな。

ものすごく大きな丸太なのに、物干しざおでも移動しているみたいに軽々と持ち上げられる。これだと一人でも動かせられそうだけど、下でつぶれている人にもしものことがあってもいけないので、リノは兄と二人で次々と丸太を持ち上げ、邪魔にならない場所に運んでいった。



「た、助かった~、ありがとな。いやぁ、これはダメかと思ったよ。この辺りにはあまり人も来ないし、雨も降り出すしで、何とかしたいけど身動きが取れない状態でな」


「これだけ大きな木が何本も乗っかってたのに、よく無事でしたね」


「ああ、一番下の木が斜めになって支えてくれたおかげで、地面との間に隙間があったんだ」


この人はスリムな身体なので、そんな隙間の下にいられたんだろう。太った人やガタイのいい人だと大けがをしているところだ。



「なんで、こんなことになったんです?」


「それが、今日は珍しく曇りだっただろ? だから暑くならないうちに、新しい橋の仕事を始めようと思って、川の側に木を運んでたんだよ。こっちまで、次に運ぶ木を取りに来て、何の気なしに振り返ったら、急に川の水が増えて流れが速くなったのが見えたんだよ。川に渡したばかりの木が気になって、慌てて戻ろうとした時に、そこのロープに足を引っ掛けてね。それで、丸太の山が転がってきて、押しつぶされたってわけさ」


「あー」


「あれか……」


リノとミノルは顔を見合わせて、残念な顔をした。

たぶん、この(しも)で、リノたちが渡ったばかりの橋を壊したのが、その丸太だろう。


二人の様子を見ていた、男は慌てて川に確かめに行こうと足を出した途端、「痛てっ」とうめき声をあげて、足首を押さえたままうずくまってしまった。


「ほら、やっぱり怪我をしてるんじゃないですか。ちょっと、診せてください」


リノが男の足を【診断】すると、足首が圧迫骨折していた。


「あーあ、痛そう。治しますよ~、【ハイヒール】」


魔法の言葉とともに、男の足首がキラキラと光を放ち始めた。しばらくしてその光が落ち着いてくると、男の顔に驚きと畏敬の念が浮かんできた。


「すごいぞ、治った! 姉ちゃん、ナニモンだ? 聖女さまなのか?」


「リノ、お前、ハイヒールまでマスターしてたのか」


二人は驚いているが、リノとしては、そこまで言われるほどのことではない。どちらかというと、ひやひやもんだった。


「ううん、初めて使った。結構、上手くいくもんだねぇ」


そのセリフに、リノをよく知る兄はズッコケていた。

だが男の方は、ただの謙遜だと思ったらしく、急にリノたちに対する態度が丁寧になった。


無理もない。【ハイヒール】なんていう魔法は、田舎に住む者にとって、長い年月の修行を要するレジェンド級の魔術師が行う御業だ。

それを若くして行使できるのだから、リノのことを聖女だと思ってしまうのも致し方ないことである。






リノたちは丁重に男の家へ向かい入れられ、挨拶を済ました後、昼食まで出してもらい接待されている。ちなみに家は、リノが勘違いして最初に行った農家だった。


男はハスミという名前で、ヒョウ人族なのだそうだ。


「ヒョウ人族の中でも、黒ヒョウ族は特に、祖先より戦士の魂を持つ誇り高い部族なんです」


リノがセンガル村では、ゴンゾ村長、レオナさん、トメばあさん、ニッさん、ラクーさんが知り合いだと言ったら、ハスミはそんな話を始めた。


ちなみに、ネコルの名前が抜けているが、リノは気づいていない。



どうやら、ハスミにとって他の人族らと自分は一線を画した存在だとでも言いたいのだろう。

その言いようを聞いて、リノは何となくだがその名前を思い出した。

トメばあさんの宿屋で、ゴンゾ村長に「異世界人保護基金」の2000バルをもらった時に、川の橋を架け替えろとかなんとか言ってるクレーマーがいたよね。


あれって、ハスミさんじゃね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ