表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第二章 王都への旅 VS 古民家改修
45/60

魔法って

センガル村への街道を一緒に歩きながら、リノたちは話をしていた。


「兄貴と私がこっちに来ちゃったら、残った皆は心配してるんじゃないかなぁ。特に親はさ。母さんとは進路のことで、もめてたけど、やっぱ子どもが二人も一度にいなくなったら、ショックを受けてるよねぇ」


「まあな。俺も親父の後を継いで漁師になるって言ってたからなぁ……。でも、それを考えても仕方がないじゃんか。まだ拓也(たくや)海斗(かいと)がいるから、気がまぎれるんじゃね?」


弟、二人は、まだ中坊だから、確かに手はかかるけど……。


「そう思うしかないよねー」


「そ、せっかく異世界くんだりまで来たんだ。前向きに行こうぜ」



この辺りは、まだ親になったことのない若い二人には、想像できない気持ちだろう。

ただ、親たちも二人が元気で楽しく生きていてほしいと願っていることは確かだ。この二人なら、その期待には充分応えられるのではないだろうか。



二人の話が終わるのを待っていたかのように、雨脚が一段と激しくなってきた。


「しかしこの【防雨結界】使えるな。少し雨が強くなってきたけど、まだ大丈夫そうだぞ。リノのカエルの合羽(かっぱ)はいらねぇんじゃね?」


「カエルじゃないですー。ビッグフロッグって、言ったでしょ!」


ここのところの晴天続きが嘘のように、今日は雲天からの土砂降りの雨になっている。街道を歩きだした時に、リノは雨合羽の性能を試したくなって、防雨結界を解除したのだが、失敗だった。


合羽で覆われている部分には雨が染み込んでいないのだから、この雨合羽は、雨具としては優秀なのだろう。けれど、合羽がない顔や手、靴のあたりはずぶ濡れだ。

「魔物の皮なんだよー」と兄に自慢した手前、頑張ってそのまま歩いていたが、雨が酷くなってきたことでさすがにリノも根を上げた。


「やめた。やっぱり魔法にする」


リノはそう宣言して、防雨結界に切り替え、ついでに【乾燥(ドライヤー)】魔法で、濡れたところも乾かした。


「リノ、お前の魔法って、おかしくね?」


「どこが? ちゃんと使えてるじゃない」


ミノルはリノに再会してからずっと指摘したかったのだが、他に話すことが多すぎてツッコム機会がなかった。


「今やったのも、複数の魔法を同時並行だろ? 難易度、たけーし。それにそのドライヤー魔法を使った時、本当にドライヤーを使った時の音までしたぞ」


「だって、ドライヤーの音がしないと乾燥してる気がしないんだもん」


「それだよ。お前の魔法には、魔法理論がない! なんか使い方も大雑把なんだよなー」


ミノルとしては、魔法体系とか理論とかをこねくり回すのも異世界オタクの醍醐味だと思うのだが、リノの魔法は本人の性格と同じで、ひどく大雑把かつ曖昧もことしている。


「いいんだよ。理論やできないことの制限なんかつけたら、せっかくの魔法が台無しじゃん。魔法には夢がなくっちゃ。だいたい転移魔法もピエールさんに使い方を聞かなかったら、もっと自由に使えたかもしれないのにぃ。おかげで、頭の中でこれはできないことだって制限されちゃって、今、歩く羽目になってるのよ」


「……自由か、リノらしいな」


リノの言うことにも一理ある。実際、使えているのだから、あんなふうに大雑把に使っても、魔法というものは応えてくれるのだろう。

なら、わざわざ難しく考える必要はないのかもしれない。


とはいえ、まだミノルには納得しきれてないものもあるのだが。




いろいろと話をしているうちに、リノが最初に足を休めた川までやって来た。

川はあの日とは違い、轟々(ごうごう)と音を立てて流れている。水(かさ)も増え、今にも木の橋を飲み込んでしまいそうだ。


「これは酷いな」


「たぶん、上流の山の方ではもっと前から降ってたのよ」


早いところ渡った方がよさそうだ、と二人が橋を渡り切った時のことだ。大きな木が何本か流れてきて橋にぶつかり、橋のケタの一部が持っていかれてしまった。


「あ~あ、これは補修がいるね。ゴンゾ村長の困る顔が目に見えるようだよ」


「そうだな、でもゴリラの村長さんなら力持ちだろ? 何とかなるんじゃね。それよりリノ、なんか声が聞こえないか?」


雨の音が酷くて、よく聞こえないが、そう言われて耳をすませば、かすかに「助けてくれ~」という声がする。


「大変だ! 助けなきゃ」


「お、おいリノ、どこ行くんだよ!」


【飛翔】をかけて飛び上がったリノは、空の上から声が聞こえた方を眺めてみた。視界が悪いが、大まかな地形はわかる。地図を開くと、川上に何軒か農家の建物があるようだ。


ここまで声が聞こえるとなると、たぶんこの家ね。


「兄貴、飛ぶ魔法を試してみて! ダメだったら、走ってついてきて。たぶんこのすぐ上の山沿いにある家から声が聞こえるんだと思う。私は先に行ってるからねー」


「チッ、まったく、お前みたいにすぐにすぐ飛べるかよ。えーと、【身体強化】をかけて……おー、身体が軽い、これで走ると……うっひょー、俺、オリンピックに出られそう」



リノは空から、ミノルは地を走り、これでロボットでも出てくれば、完璧なヒーローアニメなのだが、とにかく二人による決死の救出が始まったようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ