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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第二章 王都への旅 VS 古民家改修
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出会いヶ浜

これほど驚くことがあるだろうか。

もう二度と会えないかもしれないと思っていた人が目の前に立っている。


「兄貴、何でここにいるの?!」


「お前なぁ、ずっと探し回っていた俺に、最初に言うセリフがそれかぁ? おい、それよりここの場所おかしいぞ。さっき、サルが網で魚を獲ってたのを見たんだ!」


リノと会えたことよりも、サルが魚を獲っていたことの方が重要事項らしい。

まぁ、確かに地球常識で言うとそれはおかしなことなんだが、こちらの世界に慣れつつあるリノにとって、ああフュータ村の漁師さんなのね、って感じだ。


リノが行方不明になっているのに、こんな風にあまりに普段通りの兄の様子に、興奮していたリノの身体の力がヘロリと抜けていった。

そう、こういう人なんだよ、この兄は。


リノの方も通常運転に戻ることにして、<収納>から昨日、買ったばかりのテーブルと椅子を出すと、周りにルーム状の防雨結界を張り、兄に座るように促した。


それなのに、今度は兄はテーブルと椅子を見て絶句している。


「お、おまっ、お前、これ、どっから出した?!」


「えー、<収納>だよ。兄貴も持ってるよね」


「はあ?!」


ここで、リノの勘違いが発覚した。

どうやら兄貴とリノの時間軸が微妙にズレていたらしい。


兄の意識では、リノがいなくなってから数時間しか経っていないようで、海の上をあちこち探し回ってもいないので、リノのことだから泳いで浜に上がっているかもしれない、と浜に近づいてみたら、サルの漁師を見かけてしまった、ということらしい。


「兄貴の予想は当たってるよ。私はバナナボートを引っ張って、ここの浜まで必死こいて泳いだし。でもねぇ、それって五日も前のことなんだよねぇ」


「……………………オレ、ミミガオカシクナッタカ? リノが言ってる意味がよくわからないんだが」


ロボットみたいな喋り方になった兄貴は、どうにも状況が飲み込めないようだ。

だよねー。

異世界転移だなんて、誰もが現実に起こることだとは思ってないもの。



リノは(ほう)けている兄を無理やり椅子に座らせると、ジャングルと化した防風林まで歩いていき、自分が座る丸太を魔法で切ってきた。


「まぁ、水でも飲みねぇ。パンでも食いねぇ」


そしてまた<収納>から、並々と水が入った木のコップを出して兄の前に置き、さっき買ったばかりのパンを包丁で切って、皿にのせて渡した。


「兄貴に出すのはもったいないけど、今日は特別に私の大好きな杏ジャムも塗ってあげる」


そして大サービスでパンに杏ジャムまで塗ってあげた。

いつもはこんなことはしない。でも、心配かけたと思うからね。




「お前さぁ、ここに来て五日って言ったけど、いやにこの世界に慣れてないか?」


兄は覚悟が決まったのか、目の前に出されたものは全部たいらげる性格のせいか、ジャムパンにかぶりつきながら、感心したようにそう言った。


「なんかね、もう一ヶ月くらいここにいるみたいに感じるのよ。それぐらい濃い毎日だったかな」


「ふーん……なぁ、ここって異世界なのか? 猿の惑星じゃなくて?」


ぷっ、兄貴もピエールさんみたいなことを思ったのね。


「それでは、異世界に来て困惑している兄貴に、リノさんの大活躍物語でも聞かせてしんぜよう……」


それからリノが語ったことは、エピソード1~43の、物語だと一章分の文章になりそうな分量があった。


………………………………………………………………。


「なんともはや、スゲー話だな。これが本当にあったことだっつーんだから、たまげる。でも、俺にも見えるわけ? その、ステータスが……うおっ!!」


どうやら兄の目の前に<ステータス>画面が出てきたらしい。

「オープン」になっていないので、ただ呆然と虚空を眺めて目を動かしている人間を(はた)から見ていると、ただの変な人に見える。


兄貴のバカずらを眺めながら、これから他人の前でステータス画面を開かないようにしよう、と心に誓ったリノだった。




ステータスを見終えた兄は、リノと同じように「アサヤ系」「異世界人パック」というワードが気になったらしく、聞いてきたので、詳しく説明してやった。


「ふーん、わかった。それじゃあ、俺も魔法全般対応が付いてたから【転移】できるんだろう? 腹も減ったし、これからうちのボートを回収して、その飯の美味いトメばあさんの宿にでも行くか」


ジャムパン食べといて、もう腹が減ったのかよ。


「チッチッチ、兄貴、甘~い。転移は、行ったことのある場所で、ハッキリと思い浮かべられる所じゃないと行けないのよ。私だけが転移したんじゃダメでしょ?」


「なんだ、じゃあどっちにしろ歩きかよ」


「ボートで、センガル村の近くまで行けばいいじゃん」


「ブッブー、残念でした。そろそろ、ガス欠です」


「あっちゃー、そうか。この世界に、ボート用の燃料はないだろうな……」


そうか、バナナボートじゃないし、あんな大きなボートは収納に入らないかな?




そう思ったのだが、なんと兄貴の収納にヤマバのボートが入ってしまった。

これは助かる。


よく考えると、これから旅をするにあたり、宿に泊まれなかったりすることもあるだろう。このボートは以前、父親が漁をするために使っていたものなので、普通のレジャー用のボートよりも幅が広くて大きい。少し魚臭いが、クリーンをかければ綺麗になるだろうし、兄貴と二人なら中で充分余裕を持って寝れる。


ふーむ、これは本格的に基地として改造してもいいな。

自分の大切なボートが、妹によっておかしなものに改造されようとしているとは知らぬ兄は、妹が刈ったばかりの小道を通り、初めての異世界の道を歩き始めようとしていた。

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