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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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立つ鳥

夢を見た。

じいじの畑で、ばあばと一緒にコモ焼きをしている夢だ。


子熊の宿で目が覚めたリノは、いやにハッキリとした夢だったなぁ、と思っていた。


「立つ鳥跡を濁さずか……」


小学校の遠足や修学旅行で、先生によく言われたことわざだか標語なんだか、その言葉も頭の中にひょっこり浮かんできた。


昨夜、子熊の宿に泊まる時、女将のテデさんに「この前、リノちゃんが泊まった部屋、掃除しようと思って入ったら、空気まで綺麗なんだもの、びっくりしたわ。何かしたの? 今日、泊まる部屋は違う部屋にしておくから、同じように掃除しといてくれる? 宿泊代は100バルでいいから」って、言われたのよね~。


そんな訳で今、リノは一号室に泊まっている。


「昨日、寝る前にクリーンをかけといたけど、念のためにもう一回、出る時にもかけとくか」


念には念を入れて、これもことわざだか標語だよねー。


ご丁寧に二度もリノの【クリーン】魔法で清められた子熊の宿の一号室は、オータム領内どころか、この世界で一番綺麗な客室になったのだった。




「行ってらっしゃい。リノちゃん、また来てね~」


女将さんに満面の笑顔で送り出されたリノは、珍しく曇り空になったオータムの町を歩いていた。

異世界に来てからずっとカンカン照りの夏日が続いていたので、リノとしてはホッとする。


今日は長く歩くだろうから、涼しいのはありがたい。


そう、リノは馬車代をケチって、オータムの町から北東の位置にあるトリナ村まで歩いていく予定だった。


まずはギルドに、町を移動することを報告、その後で食料を仕入れていかないとね。



冒険者ギルドに寄り、町を出ることを報告すると、サルのお姉さん、サワさんに物凄く残念がられた。

でもギルド長の方は、ピエールさんに手紙の手配のことで、リノが近々王都に行くことを聞いていたのだろう、「一度、盗賊を討伐できたからといって油断するなよ」と道中の心配をしてくれた。

言葉は乱暴だが、あの犬のおまわりさんは心配性のオカンみたいだ。




町の門を出て、街道の近くにある食料品店に寄ると、昨日も対応してくれた客あしらいの上手い店員さんがすぐに出てきてくれた。


「いつもありがとうございます。今日は何にいたしましょう」


「今日は旅に必要なものを買いに来ました。コショウと、大きいサイズのパン、それにジャムを考えていたんですけど、他に何かお勧めはありますか?」


「そうですねぇ、みりん干しの魚や、干し肉なども買い求められる方が多いですよ」


ああ、みりん干し。あの最初にネコルにもらったやつね。

懐かしい~。四、五日前のことなのに、もう一か月以上も前のことのような気がするよ。


「じゃあ、アジのみりん干しと、干し肉は食べやすいものをいくつかお願いします」


(うけたまわ)りました。すぐに用意いたしますので、少々お待ちください」


店員さんは、他の人にも指示してリノの欲しいものを即座に会計台に並べてくれた。

この人もまた、仕事のできる人だ。こういう店で買い物をするのは気持ちがいい。


欲しかったコショウ 一桝(極小)50バル、旅行用の大きいサイズのパン 30バル、杏ジャム小瓶 80バル、アジのみりん干し(三枚一組) 30バル、干し肉(イノシシ・五本一束 60バル、ビーフジャーキー・五本一束 80バル)、そしてこれは魔獣肉らしいのだが、興味本位で買ってみた。トケケ鳥の燻製一羽 150バル、しめて400バル也~。



実はこんな贅沢な買い物をしたのには訳がある。

オータム領から出た報奨金が、2400バル×12か月分=28800バルもあったのよ!

本来、盗賊討伐の報奨金は平均給与の6ヶ月分だけど、今回に限り倍額になりました、ってわざわざ書いてあった。よほど悪いことをしてきた奴らだったんだね。


今のリノの所持金は、

家具屋の後、27950バル+オータム領報奨金28800バル-子熊の宿・宿代100バル-食料品店400バル=56250バル

なんですわ。


オーホッホッホ、わたくし大金持ちの気分よ~。






充分な買い物もできて、足取りも軽く北を目指し歩いていたリノだったが、北の橋に差し掛かる所で、ふと今朝がた見た夢を思い出した。


立つ鳥跡を濁さずか……心残りはないけれど、一つだけ気になっていたことはある。

あの出会いヶ浜の獣道の草刈りだ。

草刈りを連想したのは、夢で、ばあばと枯れた草を集めて焚火をしてたことなんだよね。


ピエールさんに転移魔法のやり方を聞いたから、そんなに時間もかからない。


「やっておくか。我を彼の地に運べ【転移】!」


リノの身体が一瞬ブレたかと思うと、街道の上から姿がスッと消えた。

そして誰もいなかったフュータ村に向かう田舎の街道に、陽炎(かげろう)のように揺らめきながらリノの姿が現れる。


「お、ここは懐かしの場所じゃあないですか」


ネコルと別れた場所に、ちゃんとリノは転移できていた。

ここで忍者のように去っていくネコルを見送ったことをよく覚えている。


やっぱイメージは大事だよねー。


魔法巧者になったリノにとって、もうこの草むらは怖くない。


「さてと、ちゃっちゃとやってしまいますか」


リノは【ウィンドカッター】を使って小道の草を刈ると、今度は【ウィンディホルダー】で草を集めていく。

浜辺までやって来たリノは、ポツリと顔に落ちてきた雨粒に顔をにやりとほころばせた。


「ちょうど雨も降り始めたし、ここでコモ焼きもしちゃおう」


買った草を【ヒート】で乾燥させ、火魔法で【着火】すると、そばに転がっていた流木で草の山をつつきながら満遍なく焚火の火を全体に回していった。




まさか、ここに来て、そして、わざわざ焚火をした、このことが、こんなことになるとはリノも思わなかった。


「おーい!」


焚火を目指して必死に砂浜を走ってくる人がいる。


「……………………え、まさか! 兄貴??!!!」


あの日、別れた時の服のまま、ゼイゼイと息を切らしてリノの元にたどり着いたのは、リノの兄の(みのる)だった。

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― 新着の感想 ―
兄ちゃん!?どういうこと〜!?Σ(゜Д゜) リノちゃんが6歳!!Σ(゜Д゜) …ほんと時の流れは早い! きっとばあばのお話が大好きなのでしょう(^_^)
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