練習
弓使いのダズルのことは、結局、「生死不明」ということで報告書を書くようだ。
あの盗賊団は、北の王都の方から流れてきたお尋ね者の集まりだったようで、オータム領の隣の領でも何かやらかしていたらしく、騎士課の方にも注意喚起の書付が回ってきていたらしい。
「今回、大きな被害にならなかったのは、リノさんとパッソルさんのおかげです。ありがとうございました」
ブラン副官は、最敬礼で、リノにお礼を言い、何かジャラジャラと音がする重たい皮袋を報奨金として渡してきた。
袋を持った感じだと、冒険者ギルドでもらった報奨金よりたくさん入ってるような気がする。
あの切迫した命の危機はお金には代えられないとは思うものの、これから旅立ちを控え、買い物に行こうとしている今の現状を考えると、ありがたい資金には違いない。
リノの方もお礼を言って、報奨金をいただいた。
「ところで、リノさん。先ほどおっしゃっていた【ストーンバレット】ですが、うちの騎士団の魔法使いに一度、見せてもらえませんか? 魔法は想像力が必要だそうですので、見たことのあるものだと想像しやすいように思うんですが」
こういうところは、ブランはちゃんと副官で、文官風の政治家っぽい見た目でも、騎士たちを育て統率していく立場なんだと思わせられる。
リノとしても、ストーンバレットぐらいなら、魔力量もあまりいらないだろうし、見せることに特に問題はない。
でも、買い物にも行きたいのよね~。
……ん、待てよ。
そういえば、騎士団なんて、剣を扱うプロじゃん!
リノは腰にぶら下げている短剣に目をやった。
昨日の戦いの時、あの<ステータス>のレベルアップがなかったら詰んでた。
本来なら、後ろから羽交い絞めされたら、剣を抜いて戦わなくてはならないところだ。
けれどリノは、剣に手が伸びなかった。
だって、短剣を鞘から抜いたのって、買った時だけだもん。
だいたい令和の女子高校生が、剣なんて使えるわけがない。
これは、いい交渉ができそうだ。
リノはニッコリとブランを見上げていった。
「いいですよー。かわりに短剣の使い方を教えていただけません?」
ブランに騎士団の練習場に連れてこられたリノは、弓や魔法の射的場に立てられた魔獣や人を模した板人形を見て興奮していた。
おー、なんか魔法学園の練習場みたい。
中二心が疼くな。
ブランの方は、日常業務の一環なので、淡々と魔法使いたちに指示を出し、リノの魔法見学の場を整えていた。
魔法使いは五、六人いたけれど、エリート意識の強い彼らからすれば、「若くて、女」だという理由でリノを侮る条件が揃い過ぎていた。
一人だけ、ラウルという名前の素直な男の子がいて、その子はリノが言うことを熱心に聞いていた。
ブラン副官の方も、そのラウル君に期待しているらしく、その子を見るまなざしが優しい。
あれ? もしかして……。
『イケメンで女に興味がなさそうだったら、そっちの趣味だから気をつけろよ』
前に言っていた兄貴の言葉を思い出す。
あの二人って、どっちが……ハッ、兄貴め、ついつい「腐」の想像をしてしまうところだったじゃないか。
魔法の説明を終えたリノは、実際に見てもらった方が早いと、すぐに射的場に移動した。
ちょうどいいから、ストーンバレットがどれくらいの魔力を使うのか、確認しておくか。
<ステータス>
体力 156/160
魔力 197/210
スキル 異世界人パック 167, 魔法全般対応 234
レベル 4
スキルポイント 20
今、防御結界だけかけてるから、防御結界を使うと魔力が13減るんだな。そして、スキルポイントが20付く。
よし、わかりやすいぞ。
じゃあ、ストーンバレットはどうだ?
リノが、的に向かってストーンバレットを撃つと、後ろでざわめきが起こったが、リノはステータスを見るのが忙しくて聞こえていなかった。
体力 155/160
魔力 191/210
……………………
スキルポイント 25
へぇー、魔力6消費のスキルポイント5upね。
じゃあ、マグナム弾はどうなのかな。
リノがマグナム弾を撃つと、的の板人形がはじけ飛んだ。
騎士団の訓練場に響いていた掛け声が沈黙し、そこにいた誰もがリノに注目していたが、リノはステータスをチェックするのに夢中で、これにも気づいていなかった。
体力 154/160
魔力 183/210
……………………
スキルポイント 30
えー、なにこれ。
魔力消費がストーンバレットと2しか違わない。そしてスキルポイントのupも同じ。
じゃあ、強そうな敵だったら、迷わずマグナム弾でもいいのか。
じゃあ、神の雷は?
リノが、神の雷を撃つと、轟音がオータムの町中に轟き、空から落ちてきた稲妻がすべての射的の的を灰に帰した。
体力 152/160
魔力 163/210
……………………
スキルポイント 40
うわぁ、魔力消費20! 燃費が悪すぎる。
でもスキルポイント10upは、おいしいなー。
「リノさん、リノさん……」
「……え?」
ブランにずっと呼ばれていたことにようやく気づいたリノは、魔法使いたちの顔色が無くなっているのを見て、「どうかしたのかな?」と思ったのだった。




