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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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出立準備

リノの後援者となってくれたピエールに、噂のこと、オータムの町が気に入っていること、王都の異世界人係がどういう役割を(にな)っているのか知らないので、これからどうしようか迷っていることなどを相談してみた。


すると「まずは、この国を知るために、一度は王都に行ってみた方がいい」と言われた。


「リノさんに指摘されたように、私とあなたとは、確かに違う価値観や考えを持っているみたいだ。だから、私があまり先走って、情報をあれこれ伝え過ぎて、変な先入観をあなたに与えてはいけないね。私にできる、ただの年長者としてのアドバイスは、一度、この町を離れて別の視点からこの町を見てみるのもいいんじゃないか、ということだけかな。ここに帰ってくるのはいつでもできることだし。今、リノさんが気にしている噂だって、しばらくここを離れていたら落ち着くだろう? それに、異世界人係なんていう、自分に変な名前を付けた人間を見に行くのも面白いと思うよ」


最後のは何だ? それを言った時、変に含みがあるまなざしだったのが気になるけど……。



リノはまず、糧を得るために冒険者稼業をしながら、自分なりの生活を築き上げていくことから始めようと思った。

そのためには、この世界の仕組みをもっと知らなければならない。ということは、ピエールの言う「この国を知るために王都に行く」というアドバイスは、理にかなっている。


噂のこともあるし、準備を整えたら早いうちに移動した方がいいのかもしれない。





「これからできることは、まず井戸の水汲みだね」


昨日のことがあるから、早めに水汲みに行きたかったのだが、ピエールとの話が長引いて井戸に行くのが遅くなってしまった。


自分が泊まる部屋に軽く【クリーン】をかけて、ベッドの布団をマイ布団に替えると、リノはホテルの裏手にやって来た。


そこでまた、ひとしきりこのホテルの設備に感心してしまった。


宿泊者が使う裏庭の井戸が、男女別に分かれていたのだ。

それに洗濯などをする洗い場があり、奥には長期滞在者用の物干し場もあった。身体を拭くための個室小屋は五棟あり、人数が多いホテルの客が不便なく使えるようになっている。


へぇー、大浴場がないのが残念だけど、この世界の旅館システムのことを考えると、完璧じゃない?



「これは、部屋で下着の繕いをしてきたら、今日は、楽に体が洗えるな~」


リノはタライやバケツの水を新しく入れ替えると、すぐに部屋に取って返し、今夜、着替える服を用意することにした。


今日着替える下着は、センガル村で買い求めた猿人族用の下着なので、尻尾穴を閉じておかなければならない。ホテルの部屋には、昨日の部屋にはなかったランプがあったので、外が薄暗くなっていたが、不自由なく針仕事をすることができた。


少々不揃いな針目でも、誰にも見せるわけじゃなし、自分で文句がなかったらオッケーだ。



着る服の準備ができたので、再び裏の井戸までやってきたリノは、魔法を使って適温に温めたタライの水で、とても快適に体を洗い、その後、着ていたものをすべて洗濯した。いつもの赤いワンピースに着替えたリノは、物干しに冒険者用の服を干し、その隣にこの世界に着てきた水着も干した。


「こうして見ると、あっちの世界とこっちの世界が並んでる感じ」


水着の方は、一昨日トメばあさんの宿で洗い、濡れたまま収納に入れっぱなしになっていたが、あの濡れた洗濯物を長時間放置した時のような嫌な臭いはなかった。


「そういえば、昼に焼いたパンはどうなってるかな?」


取り出してみると、こっちも焼き立ての熱々のままだ。


おー、ということは、この<収納>は、入れた時の状態が保持される時間停止機能が付いてるね~。




<収納>の検証は上々の結果が出て、嬉しかったリノだが、もう一つ考えておきたいことがあった。

こっちの方は命に直結するので、検証をおろそかにできない。


「便利な魔法にも問題点があるんだなぁ」


問題点とは、あの魔力が(ゼロ)になると魔力酔いを起こす「魔力枯渇」状態だ。

平時にこの症状が起きるのは仕方がない。けれど、今日のような戦いのさなかに魔力枯渇を起こしてしまうと、かけていた防御結界まで切れてしまい、危機的状況に陥ってしまう。


戦いの最後、あの盗賊に羽交い絞めにされたのは、直前に打った【ストーンパレット】が魔力量の限界を超えたからだ。それで、防御結界が切れてしまっていたことで、盗賊を容易に近づかせてしまった。こんなことをしていたら、何のために結界を張っていたのかわからない。


魔力量が3ぐらいになったら、事前のお知らせがあれば、いいんだけど。

うーん、……………………。


考えているうちに、リノの脳裏に「ピコンピコン」と赤く点滅するウルトラな人たちの胸のマークが浮かんできた。


「それだっ!」


リノは自分の右手の甲に、警備隊の流れ星のマークをイメージして、魔法痕を描く。


「フハハハ、これで無敵じゃん!」


夜空に高く右手の(こぶし)を突き上げるリノは、ちょっと変な人になっていた。


後は、これが本当に事前お知らせ機能になるか、検証だね。


「このマークが赤く点滅して警報を鳴らすまで、洗濯物でも乾かしますか」


火魔法と風魔法を併用して、新たに【洗濯乾燥】魔法を開発したリノは、自分が干した洗濯物だけではなく、物干し場に干してあったすべての洗濯物を、やさしくふんわりと乾燥させていったのだった。

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