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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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そうだったの

ピエールさんとの話は尽きなかったが、リノは用事があるので、そろそろお(いとま)することにした。


「できたら、今日はこのホテルに泊まってほしいんですが。まだまだ話したいこともありますし」


まるで母親に捨てられるかのように、リノのことをすがるような目で見てくるピエールを、邪険に振り払えるわけもなく、用事を済ませたらまた戻ってくることを約束させられた。




「ピエールさんのホームシックも、重症だなぁ」


リノとて、家族のことを考えない日はない。

けれど、やはり若さというか年齢が精神に影響するものがあるのだろう。一部では、異世界の生活を楽しむ心の余裕も持っている。


楽しみの一つには、買い物もあるかな。

これからの自分の生活に必要になるものを、一つ一つ選び揃えていくという、この世界に来てからの買い物は、今までお菓子や文具などを買っていた子どもとしての買い物、とは明確に違う。

社会人として、独り立ちしていくような、高揚感を伴う「買い物」になっていた。




ふっふっふ、買い物といえば、てまり屋だよねー。


リノは表通りから裏通りに抜けると、いつものてまり屋に歩いて行き、古ぼけた引き戸を開けた。


「こんにちは~、ギンおばあさん、また来たよ」


「おやおや、いらっしゃい。仕事はうまくいったのかい?」


ネズミのおばあさんは、いつもと変わらず店の()の上がり(がまち)にちょこんと腰かけてリノを迎えてくれた。


いつ来ても、ずっと変わらないだろうなと思えるような、この店の雰囲気。

こういうのって、ホッとするね。



リノは自慢げにおばあさんに報告する。


「なんと、金貨依頼をこなせたのよ! 偶然だったんだけど、行った方向がよかったみたい」


「そうかい、そりゃあよかったねぇ。それで、まさか……また買い物をするつもりなのかい?」


「当り前じゃん。まだ欲しいものがいっぱいあるって言ってたでしょ。まずはぁ、お皿からかな」


リノは、店の中を物色し、陶器のお皿、100バル。金属のボール、300バル。金属のザル、500バル。皮手袋、300バル。トング、200バル。鉛筆、250バル。メモ帳、150バル。鍋、600バル。を買った。

しめて、2400バル也~。


今の残金は、確認してみると、23100バルあった。

 ※ ギルドでもらった報奨金の袋は、中を見ていないので勘定に入っていない。



次は、子熊の宿に行こうかと思っていたけど、ピエールさんがいる宿に戻らなきゃね。


リノはギンおばあさんに別れを告げ、裏通りを通り抜け表通りまで戻ってきた。

その時、ウェイトレスのパメラさんに見つかってしまった。


「リノちゃーん、見ぃつけた!」


あ゛ー、まずい人にみつかってしまった。もしかして……。


「ねえねえ、あの噂の冒険者って、リノちゃんのことでしょ」


やっぱりね。おしゃべり好きで、情報を仕入れるのが速そうなこの人が、あの噂に飛びつかないはずがなかったよ。


「まぁ、そうですけど……。パメラさんが聞いたのがどういう噂かわかりませんが、馬車に乗っていた親子が盗賊に襲われていたので、ちょっとお手伝いしました」


「ちょっとぉ? ちょっと、なんかじゃないでしょ。私が聞いた話だと、リノちゃんはバンバン魔法を打って、パッソルさんを助けたんでしょ。パッソルさんも昔は冒険者をしてたから、多少は腕に覚えがあるから何とかなると思っていたけど、盗賊の数が多くて、これはここが年貢の納め時かもしれないって覚悟した時に、リノちゃんが魔法で盗賊をぶっ飛ばしたんだって?! すごいわよねぇ。レトさんとうちに食べに来てくれた女の子が、こんなヒーローだったなんて思わなかったわ!」


……………………なんか臨場感たっぷりだ。まさか、この調子であちこちで話しまくってんじゃないだろうな。



それからしばらくパメラさんの話は続き、やっと別れてホテルに戻った時には、パッソルさんが奥さんを亡くしてから苦労して商売をしている話だの、娘さんのポポンちゃんが七歳なのにしっかりしてるだの、いろんな情報が頭の中を巡っていた。


それだからではないだろうが、ホテルのフロントで、噂の女の子にまた出会ってしまった。


「あれ、ポポンちゃん、こんなところでどうしたの? お父さんは?」


「あ、おねえちゃん。おとうさんは、へやにわすれものをしたんだって。それでここでまってるの」


相変わらずしっかりとした子だ。父親が結んだのだろうか、後ろでザっとひとまとめに括られた髪の毛が崩れてきている。


「髪がほどけてきてるから、括ってあげるよ。ちょっと後ろを向いてごらん」


リノがそう言うと、ポポンは恥ずかしそうにしながら後ろを向いた。


「ありがとう、わたし、まだじょうずにくくれないの」


「え、自分でやったの? それなら上手だよ。私は小さい頃にこんなに上手にくくれなかったから、ずっと髪は短いままなの」


「へぇー、リノおねえちゃんでも、にがてなことがあるんだね」


「苦手なことばかりだよ。ほら、できた」


「ありがとうございました。あ、おとうさんが、きた!」


リノがポポンの髪から手を離した時に、ちょうどパッソルが階段を下りてきた。忘れものが見つかったのか、手にリボンを持っている。


「誰と話しているのかと思ってたら、リノさんでしたか。先ほどは、本当にありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ、ギルドに報告していただいただけじゃなくて、報奨金の割り増しまでいただいてしまって、申し訳ないです」


「いいえ、あれぐらいでは返せないほどです。実は、今日はポポンの誕生日でね、それなのにあんなことが起きるとは……。美味しいものでも食べさせてやりたいと思って、この町に来たことが仇になるところでした」


「まぁ、そうだったんですか」



お父さんに髪にリボンを結んでもらったポポンは、嬉しそうに二人で手を繋ぎ、食事をしに出掛けていった。


あの時、逃げないでよかった。


二人の姿を見送りながら、リノは改めてそう思ったのだった。


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