ランクアップ
「前例のない、冒険者稼業二日目にしての盗賊討伐」におけるギルドポイントについて、ギルド長は悩んでいたようだったが、リノが取り出したトーリエの葉を見て、顎が外れるぐらい驚いていた。
「まさか、本当にこれが、トーリエの葉なのか?!」
「と思いますよ、鑑定でそう出てますから」
リノがそう言うと、ギルド長は目を丸くしてリノを凝視してきた。
「鑑定だって?! お前、まさか高位の魔術師だったのか?」
「へ? 鑑定って、珍しいの?」
お互いの驚きポイントが微妙にずれている。まぁこれは、リノの無知によるものだ。
リノがここのところ、バンバン使っている魔法は、この国の宮廷魔術師でも使えないだろう。転移者特権かというと、そうでもない。50年以上前にここにやって来たピエールだと、時代的な観点からリノのようなラノベ世代の魔法を創造することは難しいと思われる。
<鑑定>魔法は、この国でも一部の専門家にはよく知られている魔法だ。現に、何人かの数少ない鑑定官が、あちこちから送られてくる物品を鑑定するという仕事がある。もちろん転移者であるピエールも使えるが、それは図鑑を参照するような使い方で、リノがやったように、【サーチ】と併用し<地図>に反映させるような使い方は、今までどの転移者もやっていないと思われる。
「と、とにかく、このトーリエの葉だけでも、ギルドポイントが大幅に上がる。サワ、これって、『採取』枠の最高ポイントだよな」
「ええ、それにリノさんは昨日、『町の仕事』枠でも、皆の嫌がるトイレ掃除をしてくれてますし」
「じゃ、Dランクにしても誰も文句は言うまい。鑑定も使えるらしいし」
へー、Dなんだ。それはどのくらいのレベルなんだろう。
「ちなみに、一番下のランクはEですか、Fですか?」
「いいえ、Gランクよ。だから、リノさんは冒険者二日目にして、G→F→E→Dと、3ランクアップしたってわけ。これって、過去最高進度じゃないかしら」
サワさんがそう言って、自慢気に笑った。
「いやいやいや、それはさすがに上げ過ぎでしょう。私はそんなにギルドランクにこだわってませんから、そこまで上げなくても、一つ上のFぐらいでいいですよ」
「そんなわけにいくか。だいたい、盗賊の討伐なんてぇのは、最低でもD以上、できたらCぐらいからが望ましい。それが、ギルドカードを作りたての奴だってぇのが、そもそもの頭痛の種なんだよ!」
あらら、とうとうギルド長が切れちゃった。
そうか、それならDランクになっても仕方がないね。
リノはこれ以上、口をはさむことはやめて、ありがたくギルドランクを上げてもらうことにした。
サワさんに、ビワの葉も確認してもらったところ、トーリエの葉もビワの葉も収納に入れていたおかげか状態がとてもいいので、このままギルドで預かるより、リノが直接、お茶屋さんに持って行った方がいいのではないかと言われた。
引き取りに色を付けてくれるのなら、リノにとって不足はない。
ビワの葉は、250バルになり、トーリエの葉は二枚だったので、20000バル、つまり、金貨を二枚もらえた!
やった、金貨が戻ってきたよ~。
それに、いくら入っているのかわからないけど、盗賊討伐の報奨金が入った金一封も渡された。
ありがとうございます。
ギルドカードの表示も、Dランクになり、世間でいう中級冒険者になったらしい。
リノには全然、実感がないけどね。
<地図>で見ると、薬草採取の依頼を出したナスカ茶房は表通りにあり、通り道に領事館があったので、ついでにバナナボートを回収しに寄ることにした。
リノが領事館に入り、奥にあるトトマス男爵の執務室がある方へ歩いていると、総務課のレトさんが追いかけてきた。
「リノさん! トトマス男爵を訪ねてこられたんでしょう?」
「ああ、レトさん。そうです、バナナボートを預けていたので」
「男爵に見せてもらいました。あれは凄い技術で作られたものですねぇ。素材からして想像もつきませんよ!」
レトは、ピエールの話をした時のように興奮していた。
リノにとっては、実家の漁師小屋にあった、ただの古ぼけたボートなので、レトが何にそんなに感激しているのかが、いまいちよくわからない。
「あ、こんなことを言ってる場合じゃないんです。トトマス男爵から、ボートの引き渡しを頼まれていたんです。今日から三日ほど、男爵は西の領地の見回りがありまして、今はセンガル村の方へ出かけられているんですよ」
「あー、そうなんですか」
「それで、ボートは総務課で預かっていたんですが……それが」
「??」
何か言いにくそうなレトの様子に、リノは小首をかしげた。
「それが、ピエールさんが午後になって急にいらっしゃって、『このバナナボートは、人質にする』っておっしゃって、収納に入れて持って行ってしまわれたんですよ……あの、誠に申し訳ありません」
レトは、自分が預かった責任があるからだろう。身の置き場がないような様子で心底困っているようだったが、リノにはなんとなくピエールの意図がわかった。
そっか、ピエールさんも私に会いたかったんだな。




