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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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空を飛んで町(なか)に入るのは、遠慮した方がいいだろう。


リノの異世界生活も三日目になるが、人が空を飛んでいるのをまだ見ていないので、魔法使いの数は少ないんじゃないかと思われる。

馬車のお父さんも、リノが飛んでいるのを見た時に、ひどく驚いてたしね。


そんな配慮から、リノは人影のない森の中に降り立ち、素知らぬ顔をして街道に出てきた。


「右よし、左よし」


意味のない安全確認を終えると、リノはオータムの町に向かって歩き出す。

目指すは、街道沿いにあった屋台だ。


「やっぱ、異世界に来たのなら、屋台飯は食べておかなくちゃね」


どんなポリシーなのかわからないが、リノのお腹が空腹を訴えていることは事実だ。


お昼ご飯を食べたばかりなのに、これ如何に。

リノの辞書には「ヘルシーで美味しい」という言葉はないのかもしれない。



何台かの馬車と何人かの旅人とすれ違った。

このトーリエの葉が、本当に一枚、10000バルになるのなら、リノもこの町を出ることを考えなければならないのかもしれない。


冒険者になった今となっては、王都にいるという異世界人係に会いに行く必要性をあまり感じないが、保護基金のお金を何らかの形で返す必要もあるのかな。


アサヤ系の人と動物系の人が程よく混じって仲良く生活している、このオータムの町をリノは気に入っていた。

ここにいれば、隣のセンガル村にもすぐに行くことができるしね。

トメばあさんと仲良くなって、あの料理の作り方を教えてもらいたい。村長さんたちやラクーさんにもちょこちょこ会いたい。


……バナナボートを取りに行くときに、トトマス男爵に相談してみればいいか。




そんなことを考えながら歩いているうちに、街道からオータムの町へ入る曲がり角に来ていた。


あの屋台がまだある! 朝、金欠の懐を揺さぶった暴力的な匂い。

よく冷静に、食料品店に行けたもんだよ、朝の私。


リノはタレの香ばしいにおいをさせている串焼き屋に突撃した。


「おっちゃん、一本ちょうだい!」


「あいよ、ちょうど上手く焼けたやつがあるからよ。ほい、20バルだ」


「はい、20」


「まいど。熱いから気をつけな」


んっふっふー、これこれ。熱っ、熱いけど美味しい~。肉がプリプリしてるぅ。


リノが即座に串にかぶりつき、屋台の側で立ち食いを始めると、屋台のオヤジは串をひっくり返しながら、声をかけてきた。


「ねぇちゃん、見ねぇ顔だが、冒険者かい?」


「うん、なったばっかり」


「そんなら北の橋の辺りに行く時にゃ、気をつけな。マケナから来た商人がよぉ、盗賊に襲われたってぇ話だぜ。その商人は運よく助っ人の魔法使いに助けられたってぇ話だからよかったが、まだ小っせぇ嬢ちゃんを連れてたのに、とんだ災難に遭ったもんだぜ」


「うぐっ、う……うん、気をつける」


ゲゲッ、もうそんな噂が飛び交ってるのか。

田舎のネットワーク、凄いな。




何とも喉に詰まる思いで串を食べ終えたリノは、念願の醬油と油を買いに、朝、買い物をした食料品店に寄った。

でもそこはリノ、最終的に買ったのはその二つだけではない。


醤油(ガラス瓶入りの物 150バル, 甕・小 600バル)。油 樽・小 300バル。味噌 樽・小 600バル。みりん 樽・小 500バル。黒砂糖 一桝 30バル。の計、2180バル也~。


おいおい、自重を知らないね。


そして、会計をしている時に店員が言ったのは……。


「お客さん、聞きましたか? あの盗賊の話、……」



いったい、どこまで噂が広がっているんだろう。



リノが冒険者ギルドに帰ってくると、受付のサルのお姉さんがすぐに立ち上がり、リノがいる所まで走ってきた。


「リノさん、ギルド長が待ってたんですよ。ちょっとこっちに来てください」


お姉さんは、戸惑うリノの腕を引っ張りながら大急ぎで階段を上がると、奥のドアをせわしなく叩いた。


「ギルド長、リノさんが戻ってきました」


「おお、入れ!」


中から聞こえるギルド長の声もせわしない。


リノが部屋の中に入ると、分厚い書類の山に埋もれ疲れ果てたギルド長が、大きな机の前に座っていた。


「調べてみたけど、こういうのは前例がないんだよ。もう、独断で決めていいよな、サワ」


「ええ、リノさんは、なぜかお金に困ってらっしゃるようですし、早めに報奨金を決めた方がいいと思います」


サルのお姉さんは、サワさんていうのか……。って、二人は何をそんなに慌てているんだろう?


「何の話なんですか?」


とぼけたリノの質問に、二人は振り返って脱力した。


「盗賊退治だよ」


「もう、リノさんったら。事後処理を任せるって、パッソルさんに言ったんでしょ?」


「パッソル? ああ、馬車のお父さんか」


もう会わないと思ってたから、名前を覚える気がなかったが、盗賊に襲われた馬車のお父さんが、そんな名前だったような気がする。


「そのパッソルから、訴えがあったんだ。『リノさんは冒険者なので、ギルドポイントを上げることも考慮して、盗賊退治の報奨金を出してほしい』とな」


「パッソルさんは、その報奨金の足しにと、金一封も置いていかれたんです」


あらー、なんか大事になってるな。


「いくらかいただけるのは、ありがたいですけど、ギルドポイントはどっちでもいいですよ」


「そんなわけにいくかっ! この話は町中に広まってるし、たぶん、オータム領からも報奨金が出るぞ。お前の行き先を聞きに、さっき、領事館から人が来たからな」


……………………。


「マンマミーア……」


スーパーな配管工のゲームの映画を観た時に覚えてしまったイタリアンな口癖が、思わずリノの口から飛び出てしまった。

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