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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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実食

この小麦粉、やっぱ、パン用の強力粉だな。


偉そうに言っているが、リノには本当のところ、パンを作る時に使う強力粉と、天ぷらや魚を焼くときに使う薄力粉の区別はついていない。けれど、薄力粉でパンを作って失敗したという話は友達から聞いたことがある。

まぁ、何かどこかが違うのだろう。



ネギじゃなくて、ノビル入りのお焼きパンは、思いのほかうまく焼けた。


「モチモチして美味しい。四個作ったのに、二個しか食べられないのが悲しいけど……」


後は収納に入れた、焼き立ての二個のパンが、夜食べるまで熱々のままだったら、収納の時間停止説が証明されるね。


野菜の塩茹では、食べるとお腹の減るシロモノだった。

素材の味がダイレクトに味わえて、美味しいのは美味しいのだが、何か味の濃いガツンとくるものが食べたくなるのだ。

焼く時の油かバターがあればな。コショウや味噌、焼き肉のたれなんかの調味料も欲しいなぁ。

そういえば、あそこの食料品店に、コンソメやかつおだしの粉みたいな旨味調味料が無かったな。他の店にはあるのか? それとも、まさかだけど、トメばあさんが全部、元から手作りしてたんだろうか?!

謎だ。トメばあさんの料理には謎がいっぱいある。



それに、肉! 肉が食べたい~。 

あそこの屋台の串焼き、うまそうな匂いがしてたよなぁ。


若いリノは、身体が肉や魚のたんぱく質を欲している。

今日は、川で魚を捕る時間がなさそうだが、いつか余裕ができたら一日かけて、海に行ってみたい。海なら、リノの独壇場だ。どんな魚がどのあたりにいるのか、何でも知っている。




お腹もいっぱいになった。

少し眠いけど、こんな所で昼寝をしていたら、陽のあるうちに町へ帰れなくなる。

片付けますか。


風防にしていた石や、枝で作った箸も収納に入れ、バケツにまな板、包丁、フライパンなどは洗った後、軽く【クリーン】魔法もかけて消毒しておく。

クモアシ五徳を片付け、焚火の後や野菜くずなどはスコップで埋めて、あとが残らないようにきれいに後始末をしておいた。


後は、ギルドで受けたもう一つの依頼をやっとかなくちゃ。


「何とかの葉、えーと、トー……エ? だっけ、それとも、リ? トーエリ、トーリエ、あ、トーリエの葉だね」


ヤベぇ、思い出せないかと思ったよ。

知らない名前は、メモしとかないとダメだわ。


リノはビワの木の時にやったように、【サーチ】と【鑑定】を重ねがけして、それを<地図>に反映させた。


「10000バル、お願いします。トーリエの葉、カモぉーン!」


……………………。


んー、……………………やっぱ、ない?


「いや、ちょっと待って、あるじゃん!!」


えっと……こっちの方向か?


地図を見ながら東西南北に少し動いてみると、川上の崖の上辺りに、トーリエの星印がともった。

ただ、飛んでいくしかない場所のようだ。


「んじゃ、行くべ。パタパタ羽ばたき飛んでいこう【飛翔】」


ふわりと浮かび上がったリノは、川に沿って北上し、崖の近くまで来ると川を渡り、そのまま崖の上に向かって昇っていく。


そこは誰も登れそうにない切り立った断崖だった。

だから、依頼が達成されなかったんだな。


崖の上まで来ると、猫の額ほどの小さな花園があった。


「……秘密の花園じゃん」


トーリエくん、君たちはこんな所で肩を寄せ合って暮らしていたんだね。


なんかいじらしくなって、乱獲する気になれない。

でも、極貧のリノにはお金も必要だ。


「一枚、いや二枚だけ葉っぱをちょうだい。ごめんね~」


シクラメンに似ているトーリエの葉の茎を持って、クルクル回してねじり取ると、リノはすぐに収納へ入れた。


よし、これで異世界人保護基金をもらった時の金額になる。

何とも言えない安心感で、肩の力が一気に抜けた。


さぁ、帰ろう。「【飛翔】」


崖から飛び立ったリノの眼下に、午後の日に照らされてきらめきながら流れていく川と、緑の森の向こうに見える人々の営みが広がっていた。

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