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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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デイキャンプ

本当はあまり食欲がないハズだ。

けれど、お腹がすいてきている自分に呆れるやら驚くやらだ。



あれから、馬車の持ち主だったお父さんは、リノにひざまづかんばかりの態度で丁寧にお礼を言うと、盗賊たちの亡骸を、自分で掘った穴に次々と落としていき、手際よく事後の後始末をしていった。


そして、盗賊の懐に入っていた金銭を全部リノに渡してきたのだが、さすがに奴らが持っていたものには触りたくなかったリノは、丁重にお断りを入れた。


するとお父さんは、そのお金を自分が持っていたものと両替し、再びリノに渡してきた。


「リノさん、それなら私のお金を渡します。これは汚いお金ではない。私が商売をして稼いできたものです。娘と私の命を救ってくれたお礼として、どうかもらってください」


「おねえちゃん、たすけてくれて、ありがとう。とうぞくのおかねは、たいじしたひとのものになるって、きまってるんだよ。だからもらってくれたほうがいいの」


子どもにまでそう言われてしまっては、もらわないわけにはいかなかった。


7340バル、それが彼らの命の値段だ。


盗賊をしていただけあって、大勢いた割にはたいした金額ではない。

ホント、ろくでもないな。


でも、よく考えたら、私より金持ちじゃんか!

働けよ!

汗水たらして働けば、生きる先もあるのに……。


ああ、あほらしい。

あんなクソたちのことで、なんで襲われたこっちが悩まなくちゃいけないのよ。




こうやって、プンプン怒っていた方がリノらしい。


馬車に乗り、去っていった二人と別れたリノは、一人で川の上流に向かって歩いていた。

昼を大きく過ぎてしまったのか、リノのお腹が先ほどからうるさく鳴いている。


ここらへんでいいか。



デデン、「ここを、キャンプ地とする」


泊まらないからね、デイキャンプだから。

……誰に言い訳しているのやら。


最初に、川で手をしっかり洗った。

そして、塩を一つまみ手に取り、足元に落として、靴で踏んでおく。

これで(みそぎ)は完了だ。



まずは、簡易キッチンを作ろう。


河原の石を拾ってきてコの字型に重ね、かまど用の防風を作ると、リノは森のそばまで行って(たきぎ)を拾ってきた。

ついでに、箸になりそうな枝を、ナイフで削って整えておいた。


かまどにする地面に、枯れた針葉樹の葉や折った小枝を置き、その上に細い枝を組んでいく。火魔法の【着火】で針葉樹の葉に火を点けると、黒い煙を上げながら木の脂に火がついた。煙が少なくなり、炎がしっかりあがったら、大き目の薪をその上に置く。この太い薪に火が燃え移ると、パチパチと真っ赤な炎が立ち上がった。

この焚火の上に、クモアシ五徳を据えて、火勢が落ち着くのを少し待つことにする。


待っている間に、大きめの石の上にまな板と包丁を置き、その隣にスコップで小さな穴を掘り、そこをゴミ捨て場にしつらえる。井戸水がたっぷり入ったバケツが水道の代わりだ。

これでキッチンの準備ができた。


さあ、料理を作ろうか。


まず、ラクーさんからもらった野菜をバケツで洗うと、食べやすい大きさに切っていく。

玉ねぎ、カボチャ、ニンジン、インゲン、どれも新鮮でおいしそうだ。


切った野菜と水をフライパンに入れ、五徳にのせると、塩を一つまみ放り込んでおく。

油がないので、野菜の塩茹でだ。


野菜を火にかけたまま、リノは野草を摘みに行った。


「お、ノビルがある」


ネギに似ている野草があったので、<鑑定>で食用が可能かどうか調べてみた。


 ノビル  多年草。花期:春。分布:アレンシア大陸全土。食用可。


確かめると、リノが地元で食べていたものと変わらなそうだったので、やわらかそうな葉を何本か摘んでいく。



「さてと、玉ねぎとインゲンはもういいな」


簡易キッチンに戻ったリノは、野菜を茹でていたフライパンから、玉ねぎとインゲンを木の枝の箸を使って取り出した。

そして、採ってきたノビルをバケツの水できれいに洗い、まな板の上で小口切りにしていった。


こういうことを外でしていると、一日中、ままごと遊びをしていた小学校の頃を思い出す。

子どもの頃は、危ないからと火を点けさせてもらえなかったけど、こうやってキャンプの焚火をしていると、ずっと火を見ていられるな~。


まな板と手を水で洗ってきれいにして、そこに買ってきた小麦粉を一盛り出し、真ん中をドーナツ状に開け、空いた穴に、ふたつまみの塩と少量の水を入れる。指でクルクル混ぜて塩を溶かすと、外側に寄せていた小麦粉を少しずつ塩水と混ぜながら、練っていく。ピザを作る要領だ。


耳たぶぐらいの硬さになったら、刻んでおいたノビルも練り込んで、またしっかりとこねていく。


小麦粉のグルテンが反応して、しっとりとした、いいパン生地ができた。


「カボチャはもういい、ニンジンはもうちょっとか」


ばあばが触って確かめていたように、茹で野菜を箸で持ち上げて硬さをみると、リノは、ぼんやりと焚き木の火を見つめた。


みんな、どうしてるかな。

私がいなくなって、兄貴が気に病んでなきゃいいけど……。


リノは、こっちでも元気にしてるよ。

そう伝えたいけど、伝えるすべがない。



「おっと、ニンジンも茹で上がった。じゃあ、お次はお焼きだねー」


こねて寝かせておいたパン生地を、包丁で四等分にして、なるべく平たくなるように小判型に整形し、フライパンに四つ並べた。


油がないから、弱火で蒸し焼きだね。


今度はフライパンを火から離してずらして置き、遠火でじっくりと焼いていく。蓋がないので、フライパンの上に渡した枝の上にまな板を置いておいた。


まな板、大活躍だね。

お皿やボールが欲しいなぁ。それに皮手袋。トングか火箸も必要だ。あと、油と醤油は絶対に買うぞ!


お金、稼がないとなぁ。

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