襲撃
暴力的な表現があります。
収納ポシェットの中に入っている麻袋の口を大きく開けておいて、リノはビワの木の周りをフワフワクルクルと浮遊しながら、摘み取った葉っぱを袋の中に放り込んでいった。
こうしておくと、両手が自由になるし、葉っぱの重さも感じない。
私、あったまいい。
一所の葉ばかり毟り過ぎて枝を丸坊主にするわけにはいかないので、風通しが良くなるように満遍なく葉を間引いていく。
そんな間引き作業をしている時に、遠く北の方に川が流れているのが見えた。
オータムの町の北には、高い山があり、その山から南に向かって伸びている低い山脈の峰々がセンガル村とオータムの町の間に横たわっている。
リノが今、見つけた北の川は、たぶん、あの山の懐で、リノがこの世界に来て最初に出会ったあの川と繋がっているのだろう。
「お昼ご飯は、あそこの川のほとりで食べますか」
お昼ご飯のことを考えて、がぜんやる気になったリノは、竜巻のような勢いでビワの葉を採集し、麻袋をすぐに満杯にした。
「やったー、終わった」
200バル、ゲットだぜ!
リノの頭の中で一機アップの電子音が鳴り響いた。
仕事を一つ片づけた満足感を抱え、リノは北の川を目指していた。
結局、あのビワの木の上に浮き上がった時のまま、リノは空を飛んでいる。
日光に照らされ、防御結界の中は蒸し風呂状態になるところだったが、【涼しい風】を結界の中に吹かせてみたところ、とても快適な空間環境を構築することができた。
もっと早く試しとけばよかったよ。
空は広く、森はどこまでも青々として緑に覆われている。センガル村の手前にある西の高原では、今日もあの鷲が大空をゆっくりと舞っていた。
北の川が見える所までやってくると、眼下に見える河原に馬車が一台止まっていて、馬車に乗ってきた人なのか、一人のアサヤ系の男性と小さな女の子が仲良く焚火を囲んでいた。
あら~、先客がいらっしゃるわ。
お邪魔にならないように、ちょっと離れたところに下りることにしましょうか。
リノがのんびりとそんなことを考えた時、川の向こうの森から男が一人出てきて、弓を引き絞り、座っている二人を狙い撃とうとしているのが見えた。
「危ない!」
咄嗟に警告の言葉を叫んだリノは、ラクーさんが言っていたことを思い出し、すぐさま射撃手に【ストーンパレット】を放つ。
リノが撃った玉礫は、惜しくも狙いをはずしたものの、射撃手の身体をブレさせたのか、矢は的を大きく外し、見当外れの方向へ飛んでいった。
下にいた男性は、川向こういる男を見て舌打ちし、今度は空を見上げ、リノが飛んでいるのを見て驚きの声を上げていた。
「ええっ?!……あっと、魔法使いの方ですか? 危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
「まだよ! 橋の方からまだ来てる!」
高い所にいるリノの目には、向こうの森の中から小汚い男どもが何人も湧いて出てきて、街道沿いの橋を渡ってこようとしている様子が全部、見えていた。
リノの言ったことを聞き、下にいたお父さんらしき男性はすぐ、子どもに「馬車の中に入れ、中でしゃがんで頭を守っていろ」と、言い聞かせている。子どもも慣れているのか、なにも口答えせずに素早く走って馬車に逃げ込んでいた。
リノは地面に降り立ち、子どもが乗った馬車に触ると、【防御結界】をかけた。
そして短剣を抜き、お父さんの所まで走って行き、お父さんの背中に手を添え、同じように【防御結界】を施した。
「守りの結界をかけましたが、気をつけてください。私、昨日、剣を買ったばかりで、まだ使えないんです」
「ありがとうございます、ここからは任せてください。あなたも馬車の向こうへ! 危なくなったら空に逃げてください」
「は、はい、わかりました」
リノに、その逃げる覚悟があるのだろうか。
二人の人間を見捨てて……。
この人たちは、見ず知らぬの他人ではある。けれど、こうして関わってしまったからには、一蓮托生だ。
馬車の影に隠れたリノは、何かいい方法がないかと頭を悩ませた。
ステータスを確認してみる。
ステータス
……………………
体力 54/90
魔力 75/140
スキル 異世界人パック 108, 魔法全般対応 139
レベル 2
スキルポイント 40
さっき0にしたのにまた、スキルポイントが40もついてる。
飛行魔法って、ポイントが付きやすいのかな? 魔法の難易度が高いと、ポイントが付いたりして……。
まあ、こいつは魔法に全振りだな。
スキル 異世界人パック 108, 魔法全般対応 179
これで良し。
魔力量は残りが、後だいたい半分か。
スキルポイントが付きやすそうな飛行魔法は、魔力量的には-要因で、魔力量自体は大幅に減る、つまり燃費が悪い、と。
ふーん、……………………。
リノがこんなことをしている間に、盗賊連中はすぐ近くまで来ていて、耳障りの悪い押し殺した笑い声や口笛などが聞こえてきた。
「へっへっへ、獲物が増えたじゃねぇか、お頭」
お頭と呼ばれた男は横幅が、前で対峙しているお父さんの倍ぐらいあり、鼻がもげそうなすえた臭いがしている。
臭い! とにかく盗賊たちの身体が臭すぎる。
「ダズルがドジ踏んだからな、お前ら油断するんじゃねぇぞ、後ろの女は魔法使いだ」
「でもよー、後からオレにも回してくれよな―」
「ひっひっひ」
うげっ、なんつぅーことを言うだ。
オラ、おめーらなんかに触られたくもねぇぞ!
頭にきたリノは、ゲスい男に【マグナム弾】を打ち込んだ。
汚く笑っていた男は、その笑い顔のまま、血をまき散らしながら吹っ飛んでいく。
盗賊たちがひるんだその隙に、お父さんが大剣を振り上げ、お頭に切りかかっていった。
もうそこからは乱戦だ。
リノも何発【ストーンバレット】を撃ったかわからない。
リノが馬車の影から乗り出して援護射撃をしていた時、突然、後ろから毛むくじゃらの腕が出てきて、リノの口を覆った。
「ムグッ……」
「静かにしろ」
押し殺した荒い息と、すえた臭いがリノを打ちのめす。
あたかも最後に撃った【ストーンバレット】が、魔力量の限界を超えたようで、リノを魔力酔いの症状が襲ってきていた。
……………………。
バカヤロー! こんなとこで死んでたまるか!
酷い頭痛と、急速に抜けていく体の力に抗って、リノは自分の目の前にステータス画面を開く。
ステータス
……………………
体力 32/90
魔力 0/140
スキル 異世界人パック 108, 魔法全般対応 179
レベル 2
スキルポイント 55
こ、このスキルポイントを、魔法に全振りー!
ステータスの表示が、
体力 120
魔力 170
スキル 異世界人パック 108, 魔法全般対応 234
レベル 3 New
スキルポイント 0
に変わった時、リノはむくりと起き上がり、後ろからリノを羽交い絞めにしていた男に【神の雷】を打ち込んだ。
空高くから轟音を上げて落ちてきた雷は、一人の盗賊を真っ白な灰にかえしたのだった。




