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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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新しい朝が来た

チュンチュンという小鳥の鳴き声で目が覚めた。


昨夜は、「井戸水を汲む」という、簡単なことなのに非常に難しいタスクを、真夜中までかかってやっとこなすことができた。

その後、遮音結界を張り、魔法で温めたお湯を使い身体を拭くと、着ていた服を洗濯したり干したりして、あれこれ忙しかったので、リノは自分が何時ごろ寝たのかよくわからない。


「ふぁ~、まだ眠い」


でも、仕事に行かなくちゃ。生活費を稼がないと、今夜の宿代にも困る事態になっている。


お父さんもこんなことを思いながら仕事をしてたのかなぁ。

いなくなってわかる親のありがたみというやつだ。



リノは昨日、残しておいた水で、顔を洗い、歯を磨いて、朝の支度を済ませた。

そして、そおっとドアを開けると、廊下に誰もいないのを見計らって、忍者走りをしてトイレも済ませてきた。

はたから見たら贅沢極まりない魔法の使い方だが、こんなちょっとした行動にも、【隠密】や【隠微】魔法を併用している。


昨日のあれは、気まずかった。

なるべく宿では、他の人たちに接触しないようにしよう。



部屋の布団を元に戻し、バケツやコップなどの水の後始末を終えたリノは、チェックアウトをしようとフロント?に鍵を返しにやってきた。

宿の玄関には、昨日リノが会えなかった熊のお母さんが立っていて、旅人たちを見送っていた。


「おはようございます。ポーが言ってたお姉さんね」


ポー? あ、あの子熊ちゃんか。


「たぶんそうだと思います。ありがとうございました、あの、これ鍵です」


「はい、受け取りました。こっちこそ、ありがとうございました。また来てくださいね」


「はい」


また泊まれるように、頑張ろう!




異世界の朝は、町中(まちなか)を歩いていても空気が清々しい。

時折、朝ご飯を作る匂いがして、リノのお腹がクゥと鳴った。


「そういえば、おにぎりを食べてなかったよ」


ちょうど広場の辺りにいたので、リノは歩道の(ふち)に座って、トメばあさんのおにぎりを取り出した。


悪くなってないよね……。

なんせ、夏の日の二日目だ。酸っぱい臭いでもしたら食べられない。


クンクン匂いをかいで、おそるおそる一口食べてみる。


「やった、食べれる」


お、梅干しが入ってる。さすがトメばあさん、わかってるねぇ。

梅干しは抗菌作用があると聞いたことがある。夏の日のお弁当にはピッタリだ。


これで<収納>の時間停止機能アリ説が濃厚になったな。


これが、入れた時の状態を完全に維持してくれるのか、それとも中の時空間の時がゆっくりと流れているだけなのかは、もう少し様子を見てみないとわからないが、今朝、この<収納>の機能がわかったことは、ありがたい。


今日は採取に挑戦だ!


おにぎりを食べ終わり、力が湧いてきたリノは、冒険者ギルドに向かって歩き出した。






朝の冒険者ギルドは、通勤ラッシュのようだった。

今日の稼ぎがかかっているからだろう、みんな目を血走らせて依頼票が貼ってあるボードの情報を(あさ)っている。


リノも男たちの身体の隙間から顔を出して、掲示板に並んだ依頼票を眺めてみた。


「畑の害獣退治 大物一頭につき、500バル 期限・一週間 肉・有 プタ村」


あの“肉・有”って、どういうことだろう?

リノが考えている間に、見ていたその依頼票は、誰かの手によってはがされて持っていかれてしまった。


残念、次は考えずに取るぞ。


「薬草採取 ビワの葉 麻袋一袋につき、200バル 期限・夏の間 ナスカ茶房」


へぇ、ビワの葉茶か、ばあばが作ってたな。異世界にもあるんだ。

リノは親近感を覚えて、その依頼票を手に取った。


でも、200バルだと今夜の宿代にもならないな。もうちょっと受けていこう。


しばらくすると段々と冒険者の数が減ってきて、掲示板も見やすくなってきた。

掲示板の端の方に貼ってあった一つの依頼がリノの目に留まった。


「薬草採取 トーリエの葉 一枚、10000バル 期限・無期限 ナスカ茶房」


え、10000バル?! 金貨一枚じゃん。へー、でも依頼主が同じナスカ茶房だね。じゃ、これも受けていくか。


リノが二枚の依頼票を持って、サルのお姉さんの受付に行くと、お姉さんは依頼の内容を読み、小首をかしげた。


「リノさん、これ、どちらとも初心者の冒険者には難易度が高いと思うんですが」


「え、どういうところが?」


「まず、ビワの葉の方ですが、麻袋ってこの大きさなんですよ」


そう言ってお姉さんが見せてくれたのは、45ℓのゴミ袋ぐらいの大きさの麻袋だった。


「うん、だいたいそのくらいの大きさかな、とは思ってたよ」


「でもこの袋にビワの葉をいっぱいにして、森の中を歩くんですよ。女の子には重たいんじゃないですか?」


「ああそれは大丈夫。私、収納持ちだから」


「ええっ?! そーなんですか……」


「そーなんです。それで、トーリエの葉の方は? めったと見つからないとか?」


リノの質問に、お姉さんは大きく頷いた。


「これは常時依頼になっているんですけど、他の冒険者の人も依頼金額に惹かれて、たいてい一度は挑戦されるんです。でも依頼を達成された人を、私はまだ見たことがありません」


やっぱな。金貨一枚の依頼って、訳ありだよね。


「じゃあ、私も挑戦してみます。麻袋は、それをもらっていっていいの?」


「はい、お渡ししておきますが、今日中に袋がいっぱいにならなかったら、一度、そこの買い取り窓口に提出してください。そうしないと中に入れた葉が傷んでしまいますから」


「わかりました。では、行ってきます」


「あ、リノさん、ちょっと待ってください。ゾウリで森を歩くのは危ないですよ」


これ、サンダルなんだけどな。つっかけって言われたり、ゾウリって言われたりする。

今日のリノは、キャップ帽をかぶり、ダサくて丈夫な古着のシャツとズボンを着ている。皮のベストや籠手などは、つけてると暑いのでまだ収納の中だ。短剣だけは、かっこつけて腰にぶら下げてきた。

この姿に、サンダル履きだもんな。確かに、はたから見たら変な格好だ。


「こっちも問題ないです。昨日、ごつい靴を靴屋さんに頼んでますから、これから取りに行って出かけます」


リノがそう言うと、サルのお姉さんはホッと息を吐いた。


「よかった。ギルド長に頼まれてたの。リノさんがすぐに対応してくれてて、安心しました」


どうやら一見「ヤ」のつく人に見える、犬のおまわりさんは、その見た目に見合わず心配性のようだ。


「大丈夫ですよー、この短剣もヤマジのオヤジさんのお勧めを買いましたから。ギルド長にもそう言っておいてください」


「ヤマジさんとこですか。じゃあ靴屋は『隣の靴屋』さんですね。それに服はあそこか。ふふ、いいところで揃えられたんですね。わかりました、ギルド長にそう伝えておきます」


お、ギルドのお姉さんも知ってる店か。

なんか嬉しいな。


後で<地図>を見た時にわかったのだが、靴屋さんの名前がそのまんま「隣の靴屋」になっていた。

これ、古着屋のオタケさんと武器屋のヤマジのオヤジの個性が強すぎるからなんだろうか?

間に挟まれて商売をしているうちに、周りの人たちに「隣の……」と認識されちゃったんだな、たぶん。

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