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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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トトマス男爵

レトに案内されてリノがやって来たのは、四つの個室が並んでいる一角だった。


オータム領は大体、四分割されて統治されているらしく、三~四つの村が一区画になっているらしい。

そして、男爵位が三人、子爵位一人、この四人で地方官をやっているそうだ。

もちろん、地方官のリーダーは、男爵より爵位が一つ上の子爵さんになる。


「トトマス男爵は、西側の三つの村が担当で、フュータ村、センガル村、プタ村を治めておられる」


レトはこんな風にこと細かく教えてくれるのだが、リノにとってはあまり興味がない。フュータとセンガルの村っていうと、異世界人がやって来た時に対応させられるんだな、と思っただけだ。



「ここがトトマス男爵の執務室になります。では、僕は仕事がありますので、ここで失礼します」


「いろいろとありがとうございました」


レトはここに残って、異世界人保護基金の改善点を含めて話をしたそうな様子だったが、それはお役所の別の仕事になるので、またにしてもらった。

なにせリノは、これから冒険者ギルドに報告に行かなければならないし、今夜の宿も探さなければならない。そんな仕事に巻き込まれでもしたら、時間がかかってしょうがない。


さて、ラスボスとの戦いに挑みますか。


リノは領事館ダンジョンの最後の扉をノックした。


「ゴホン、入りたまえ」


うぉー、緊張する。


そこは校長室、ではなく貴族の執務室と言われると、なるほどなと納得できるような豪奢な部屋だった。

正面に見えるロココ調の応接セットには、早くも男爵らしきふくよかな男性が腰かけており、先ほどまで吸っていたのだろう葉巻の煙が周りに漂っていた。

男爵は吸い殻を灰皿に何度か押し付けると、喉のいがらっぽさをとるためにもう一度「ゴホン」と咳をし、顎をクイッと上げて、リノに目の前の椅子を示した。


「貴殿が、異世界人のリノと称しておる者か?」


「はい、昨日、出会いヶ浜にたどり着き、センガル村にお世話になりました」


「そうか。よう参られた、そこにお座りなさい」


リノが恐る恐る歩いてきて、応接セットの椅子に座ると、男爵は鷹揚(おうよう)に頷いて自己紹介から始めた。


「吾輩は、ジフ・グレール・トトマス、男爵位を拝命しておる。今朝方、センガル村のラクーなる者がやってきて、ゴンゾ村長より預かりし書状を持ってまいった。その内容に、間違いはないな」


え? たぶん、宿屋でサインしたあの書類だよね。


「はい、相違ございません」


なんだか、男爵の口調につられちゃう。この部屋も、映画のセットに迷い込んだような気がするし、それにこの人の口調……サルのネコルは、この人の真似をしようとしてたのね。


それにこの人、どこかで見たことがある……。

あ、男便所から出てきたでっぷり太ったアサヤ系のおじさんだ。


リノの緊張が一気に解けた。

なーんだ、貴族とはいっても、この人もただの人間じゃん。


男爵は、ゴホンと咳をすると、再び話し始めた。


「貴殿が異世界人だと証明できるものを何か持っておるか? (はばか)りながら申し上げると、貴殿は、そのう、一見すると異世界人に見えないのだが」


やっぱりー。ですよねー。

犬のおまわりさんにも指摘されたけど、この服、何とかならないかな。


うーんと、持ち物ね。

あ、あれがあるじゃーん。


「じゃ、そこに出しますね」


立ち上がり、応接セットの横に移動したリノは、<収納>を開くと「バナナボート」を取り出した。


デ、デーンと音を立てて貴族の世界に突如現れたバナナボートは、非常にシュールな有様で、目を見開いて驚いている貴族のおじさんの姿と相まって、なんとも異様な光景になっていた。


「こっ、これはなんだ?! 食べ物なのか、家なのか?」


そっちに想像しちゃうか。


「これ、バナナボートって言って、バナナという果物の形を模したボートなんです。この部分にまたがって、この紐をエンジン、ええっと機械の動力のあるボートに引っ張ってもらって遊ぶためのものです」


「遊ぶ? どうしてバナナにまたがる必要があるんだ」


「……知りません。なんか昭和の時代に流行ったらしいんですよ」


ばあばが昔、貸しボート屋をしてた時に使っていて、昔から家のボート小屋にあったので、リノはバナナがボートである必要性を考えたことなどなかった。

異世界人にそんなことを聞かれても、知らないの一択である。


「うおっほん、まぁ何にせよ、このバナナのボートは貴殿が異世界人である証明にはなるな。すまんが領事のオータム伯爵にも確認していただくので、これを一日借り受けたいのだがよいか?」


「いいですよ。じゃあ、明日また取りに来ますね。ところで、そのう、異世界人保護基金のお金というのは、これからすぐにもらえるんでしょうか」


「それはもう用意してある」


良かった~。

伯爵の確認の後とか言われちゃうと、詰んじゃうところだったよ。






懐がやっと温くなったよ。

リノはお年玉をたんまり貰った正月の朝のような恵比須顔をして、冒険者ギルドに向かっていた。


月2000バルの給料として、その三か月分、6000バルが当座の生活費になるようだ。

王都への交通費として、馬車代が15000バル。しめて、21000バル也~。

なんと金貨が二枚に、銀貨が一枚だよー。


ピエールさん、ありがとうございます。

これで何とか生きていけそうです。



冒険者ギルドに着き、スウィングドアを開けたリノは、入ってすぐに固まった。


テンプレが座ってる。


朝、サルのお姉さんが座っていた場所に、なんと犬のおまわりさんが座っていたのだ。


何でそうなる。


「やっと帰ってきたな。ったく待ちわびたぜ。おい、嬢ちゃんよ、そんななりして冒険者登録をしたんだってな。こいつらに聞いて耳を疑ったぜ。冒険者ってえのは、そんな心根でやれるような簡単な仕事じゃねぇんだぞ。ちょっとあっちの部屋まで顔出せや。俺がしっかり教えてやるからよ」


ヒェッ、ヤと、クと、ザのつくお方だ。

助けを求めて、アサヤ系のお姉さんの方を見ると、お姉さんは首を振って、「この人の言う通りにしなさい」と言ってきた。


頑張って仕事をこなしてきたのに、こんな展開になるなんて、聞いてないよぉ~。

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