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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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レトの事情

レトが連れてきてくれた店には、朝市で会ったおばさん、いや、お姉さんがいた。


リノが店番をしていた時に、最初にナスを買ってくれた女の人だ。あの時はスッピンだったが、今はけばけばしい濃い化粧をしている。

おばさんなんて言ったら、どつかれそうな感じだ。


「まぁ、今日はよく会うわね。あなたラクーさんとこの人じゃないの? なんで領事館の人と一緒にいるのかしら?」


「まあまあ、パメラさん。詮索の前に今日のおすすめ料理を持ってきてくださいよ」


「ハイハイ、後で聞かせてよ」


……後で何を聞かれるのやら。


田舎の漁師町で育ったリノは、こういう田舎ならではのご近所さんの詮索には慣れているが、ここバンデロール王国では、人と人の間の距離がより近いような気がする。

レトさんが取りなさなかったら、パメラさんは給仕をほっぽって、一緒にテーブルに座って話し込みそうだった。



レトと向かい合って窓際の席に座ったリノは、さっきまで朝市が開かれていた広場を眺めながら、ラクーさんは無事に森を抜けて帰れたかしら、などと考えていた。

そんなリノのぼんやりした様子を見ていたレトは、尊敬する異世界人、ピエールとのあまりの違いに、どう対応したらいいのか、自分を持て余していた。


「あの、リノさん。もしもし、聞こえてますか?」


「へ? ああ、もちろん聞こえてますよ。あのう、レトさん、私、お金を持っていないんですけど……」


今更なリノの言葉に、緊張していたレトも肩の力が抜けてきた。


「もちろん存じ上げてますよ。ここは僕のおごりです」


「ありがとうございます!」


にんまりと微笑むリノの顔を見て、この子は思っていたよりも若いのではないかとレトは感じた。

何しろ見た目は田舎のおばさんというか、個性的な年配の人が好んで着るような服を着ている。センガル村の担当者は、何を考えてこんな服を選んで着せたんだろう? まさか、あちらの世界から着てきた服がこれなのか?


「女性に歳を聞くのは失礼ですが、リノさんはおいくつですか?」


「17歳です。高校生なんですが、わかりませんよね」


「17だったんですか……高校生というのは、ハイスクールと言われている学校の学生?」


「おー、すごい。よくご存じですね、それです。 ハイスクールって、ピエールさんが伝えたんですかね」


尊敬するピエールの名前が出てきたので、レトは興に乗ってきた。


「ピエールさんは政治、経済、文化のみならず、バンデロール王国の教育制度にも影響を与えた偉人なんですよ! 特に大会社を立ち上げて、流通システムを構築したことは、歴史に残る偉業でして……」


「ハーイ、ストップ。お嬢ちゃん、ダメよ。この人にピエールさんの話題を振っちゃ。いつまででも喋り続けるんだからぁ。はい、今日のおすすめプレート。ゆっくり食べていってね」


パメラさんが、二人の前にお皿をドンっと置き、いたずらっぽく目をチカチカさせると、新たに入ってきたお客さんの対応をするために、モンローウォークで去っていった。



「おひょ、美味しそう~。いただきまーす」


お腹がすいていたリノは、すぐにフォークを手に持って食べ始めた。


ん、あれ? トメばあさんのとこで食べた味と違う。

美味しくないことはないけど、味が薄いというか、隠し味がないというか、どこか何かが足りないのだ。

ただ、量だけはたっぷりあった。


パンはすっぱくて硬い黒パン。こういうパンには、酸味のあるジャムが合うと思うのだけど、何も塗られていない。

ラクーさんのナスはよく煮込まれて美味しいけれど、トマトスープの味が物足りない。うん、もう少しコンソメを入れて、後はケチャップと砂糖で味を整えなきゃ。

付け合わせの野菜は、こういうメニューだと、さっぱりした生野菜サラダがいいのだが、ここのはおかしな味のマヨネーズがこれでもかと入っている油っこいものだった。


……ちょっと胸焼けしそう。


目の前のレトさんや他のお客さんを見ていると、みんなおいしそうに食べているので、これがこちらの世界のご馳走なのかもしれない。


うーん、トメばあさんの腕がすごいのか、町の人たちが味音痴なのか、どっちかだな。


でもありがたいことに、夕食がおにぎりだけでも良いと思える、十分な量だった。


「レトさん、ごちそうさまでした」


「どういたしまして。ここの飯は美味しいから、基金からお金が出たら、また食べに来るといいよ」


「そうですね」


おごってもらえるのだったら、にっこり笑ってそう返す。リノはできる女なのだ。




領事館に帰りながらレトさんが教えてくれたことによると、レトさんが仕事を始めたばかりの頃に、「異世界人保護基金」の立ち上げに関わっていたらしい。

それで「お金がない」と言ったリノの言葉がショックだったそうだ。


リノも考えてみて、思い当たることもあった。


おとなしく浜辺から村役場に行き、そのままおとなしく領事館に行く人だったらどうだろう。

それにリノのように水着ではなく、服を着たままボートとかに乗ってきた人だったらどうだろう。


レトさんに確かめてみると、ピエールさんは十歳の時にボート遊びをしていて、こちらの世界に来たことが分かった。


「やっぱりね。十歳の子どもだったら、大人の言うことを聞いて、おとなしく言われるがままついていくわ」


リノは、どうしたらいいのか悩み、考え過ぎたのだ。

それに、基金を立ち上げたのが何年も前のことだったのなら、物や宿屋の値段なんかも変わってくる。


「年ごとの見直しが必要だということですね」


レトさんは頭がいいので、リノの話を聞いて、すぐに対処方法を出していた。


頑張ってください。いずれまたやって来る、まだ見ぬ同胞のために。

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