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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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別れ

おっと、危ない。


朝市が開かれていた広場に差し掛かったとき、広場から何台もの荷馬車が連なって走り出てきた。そんな馬車を避けて道の端によったリノは、店の前に設けてある歩道の上を通り、センガル村の馬車がある場所に歩いて行った。


見えてきた馬車の側では、ラクーがしゃがみこんで何かやっている。どうやら馬のくびきを繋いでるようだ。


「ラクーさん、帰りました」


「おう、買い物は済んだかぁ?」


「はい、いい店を見つけたんですよ。まぁ、本格的な買い物は、これからなんですけどね」


「そうかい。わしはこれから領事館に行って、村長に頼まれた用事を済ませてこようと思っとるんだけど、リノさんはどうする?」


「私はこれから冒険者ギルドに行ってみます」


「ほぉ、冒険者になるんかい。それもいいかもしれないな。じゃあ、その用事が終わったら、今日中に、あそこにある領事館を訪ねておいてくれな。リノさんが、この町に来てるって、トトマス男爵に伝えておくからよ」


ラクーが指さした領事館の建物は、大きいのですぐわかる。

でも、男爵ってなんだ? ラノベで読んだ爵位と同じなら、男爵は爵位が一番下あたりの下位貴族だよね。

それにトトマスだって。ふふ、トマトとナスが合体したみたいな変な名前。


「えーと、その男爵さんがどうかしたんですか?」


「あれ、村長から聞いてないんかい。うちの村がお世話になっとる文官さんだよ。村役場の前に貴族さまが泊まる建物があるって教えたろ? 月に何度か、男爵さんがあそこに泊まりに来て、村の仕事を片付けなさるんさ」


「ああ、オータム領でセンガル村を担当してる地方官の方なんですね」


「そうそう、そげな役職だった。リノさんが王都に行くときの旅費なんかも頼んどくで、忘れんようにもらいに行ってくれな」


「それは絶対行かなきゃなりませんね。はい、ギルドに行った後で必ずお伺いします。よろしくお伝えください」


「ハハッ、こっちからもよーくお願いしとくわ。んじゃ、わしからはこれが餞別だ。売れ残りの物で悪いんだけんど、今日は手伝ってくれてありがとさん」


ラクーさんがくれたのは、トマトやナスやキュウリなどの夏野菜、そして大きなカボチャも入っているカゴだった。


「あ、え? ありがとうございます、こんなにたくさん」


「王都へは気をつけて行くんだぞ」そう言って、馬車に乗り去っていくラクーさんを、両手で抱えるように持ったカゴと共に、ぼんやりと見送った。


そうか、これでラクーさんとはお別れなんだ。


王都へ行くと口では言いながら、リノはまたラクーさんの馬車に乗って、どこかに連れて行ってもらえるのではないかと思っていた。


かつて自分が辿り着いた村を終の棲家とするという、ピエールさんの気持ちが、少しだけわかったような気がした。




寂しさを振り払い、抱きしめていた野菜のカゴを<収納>に入れたリノは、ここでまた必要になったものがあるということに気がついた。


野菜を料理するためには、調理器具がいるじゃん。

包丁に、まな板に、鍋。フライパン、ボール、それにザルがあると便利かな。

調味料も必要だ。

塩、コショウ、みりん、味噌、醤油、コンソメや出汁醤油、ケチャップにオイスターソースにコチュジャン。かつおだしの素や鶏がらスープの素も必要でしょ。

味をグレードアップして箸休めの副菜も作りたい。だし昆布に、カットわかめ、ヒジキに切り干し大根に、ニンニク、ショウガ……。

食卓には、マヨネーズとドレッシングは鉄板で置いておく。鉄板といえばソースは最低でも三種類ぐらい必要だろう。中濃とお多福に、焼き肉のたれ。


考えだしたらキリがない。



……………………………………………………。


冒険者ギルドで仕事があったら、「塩」と「ナイフ」だけでも買おう。






いろんな音がして賑やかな職人通りを歩いていると、自分は今まさに、異世界にいるんだという感慨が胸をよぎる。


鎚を打つ音だ。ここは鍛冶屋さんだね。お向かいからは機織り機の音がする。


「へえー、ツルは恩返しをする時に、こうやって(はた)を織ったのかな」


「おいおい嬢ちゃん、さっきから見てるとあちこちフラフラして危ねぇぞ。そんな真っ赤など派手なあっぱっぱーを着て、ゾウリ履きとはなんだい。ここは浜辺じゃねえんだぞ」


機織りをしている様子を窓から覗いていると、冒険者風の格好をした犬のおまわりさん、じゃなくて、犬人族のおじさんに叱られた。


これは……ギルドに入る前から、テンプレ発生か?!


リノがワクワクが止まらない、何かを期待した目をして、おじさんを見つめると、その人は「なんだい、変な奴だな」と急に逃げ腰になって、側にあった大きな建物に飛び込んでいった。


残念。

テンプレに逃げられた。



おじさんが逃げていった建物を見ると、入り口が西部劇のようなスウィングドアになっていて、外の壁には盾と剣を模した看板がかかっていた。


おうっ! これは、もーしーかーしてぇー……。


やっぱり「冒険者ギルド」だ!


<地図>を開くまでもなく、すぐにわかった。

入り口のドアの上には、「冒険者ギルド・オータム支部」と太い字で堂々と書かれた看板もかかっていたのだった。


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― 新着の感想 ―
欲しい調味料の多さよΣ(゜Д゜) リノは料理が好きなのね〜(*´艸`*)
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