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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第一章 異世界転移
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てまり屋

「チチッ、いらっしゃい。こんなに朝早くからお客さんがくるとは、珍しい日ね」


小さいが不思議によく通る声で、ネズミのおばあさんが声をかけてきた。


まだお日様の位置が低いことや、ここが裏通りに面していることもあるのかもしれないが、店の中は薄暗くて品物の数も少なく、寂れた雰囲気が漂っている。


この店、タオルを置いているかなぁ。

リノはぐるりと店内を見渡してみて、平積みの棚の上にタオルの塊があったのでホッとした。


「あのぉ、このタオルなんですけど、一枚おいくらですか?」


「タオルね、それは100バルだよ」


「ええっ、100?! 高いなぁ」


さっきまで10バル以下の野菜を売っていたためか、その10倍の値段が付いている物に対して、渋くなってしまう。

この世界では、布を使った製品はまだ品薄の時代なのかもね。日本にいたときだったら、タオルが100円なんて「安い!」になるんだけど……。


「おばあちゃん、50バルにならない? ほら、これなんか少し糸がほつれてるし」


リノが値切ってきたので、ネズミのおばあさんは呆れた顔をした。


「あんたねぇ、半額なんかにしたら、うちの儲けがありゃしない」


「じゃあ、60バル!」


「仕方ないねぇ、80バルにしてやるよ。もうこれ以上は何て言おうとマケられないからね」


「やったー! ありがとう。じゃあ、100バル鉄貨」


リノがすぐに100バル鉄貨を出したので、ネズミのおばあさんは苦笑しながら、20バルのお釣りを渡してくれた。


<収納>を出して買ったタオルをしまっていると、おばあさんが不思議な顔をしてリノを見てきた。


「あんた、収納持ちなのかい?」


「うん」


「そんなら値切ったりしなくても、高給取りだろうに」


「ん? 収納を持ってると稼げるの?」


おばあさんは、今度はのけぞるほど呆れていた。


「収納は中の収容量が少なくても、郵便配達人になれるし、荷馬車にのせるくらいの物がしまえたら商売人になれるじゃないか。私は大容量の収納を使って、運び屋をやってた異世界人を知ってるよ」


「異世界人?! もしかしてその人って、ピエールさんっていう名前?」


「なぁんだ、あんたも知ってるんじゃないか」


いや、それは違うんですよ。


「私は名前を聞いただけで、その人に会ったこともないんです。どんな人なんですか?」


「親切な気のいい爺さんだよ。まだそんな歳でもないのに引退するって言って、この間、王都から帰って来たばかりさ。若い頃、ちょっと世話してやったことがあるから、律儀に挨拶に来てくれてね。ほら、このレジスターを王都土産だって言って、持ってきてくれたんだよ」


おばあさんの側にあるレジスターは、この店に似合わない立派なもので、銅色の本体に黒の線で縁取りがしてあるシックなデザインになっていた。


「ふぅん、素敵な人なんですね」


「ああ、王都でいい人でもできるんじゃないかと思ってたけど、結局、結婚もしなかったねぇ。それに老後をフュータ村みたいな辺鄙なところで暮らすんだってさ。何のために大きな会社にしたんだか気がしれないよ」


「会社ですか、運び屋って言うからには運送専門の?」


「そうだよ。あの人はこの国では珍しい転移魔法も使えるから、国を超えて幅広く事業をやってたね。うちにも何度か荷物を運んでもらったことがあるよ」


「へえぇー」


転移魔法か、それはロマンがあるなぁ。

私も雇ってもらえないかな。異世界人魔女の宅配便、なんちゃって。




タオルを一枚買っただけで、店の人とえらく長い間話し込んでしまったが、こんな話をしている間も、お客さんは誰も来なかった。


リノは変に居心地のいい店の中を歩きながら、他の生活必需品の値段を確かめていった。


洗濯板 50バル, 干し紐 50バル, 木の筒状のコップ 50バル, 木の持ち手付きコップ 80バル, ヘアブラシ なんと200バル, 裁縫道具 (針と糸) 30バル, (ハサミ) これまた250バル だった。


忘れていたけれど、消耗品の洗濯洗剤は、四角い大きな固形石鹸が50バルで、歯磨き粉が30バルだった。

そして化粧水に至っては、製品自体が存在しないという事態に、リノは呆然とした。

ネズミのおばあさんによると「そんなものはないよ。みんなヘチマ水を自分で作って使ってるのさ」だそうだ。

ヘチマ水用のガラス瓶は、150バル。


他にもコップなどは、銅製の物もあったが、値段が300バルと跳ね上がる。リノにとっては、贅沢品だ。


コップを便利な持ち手付きのものにして計算すると、合計 860バル也~。


リノの全財産は、220バル。……はぁ~、生きていくのって、ものいりね。

王都までの旅費と食費は、オータム領の領費から出るってゴンゾ村長が言ってたけど、他にも服とか靴とか、旅に必要なものを揃えるだけで、まだまだお金がいるよ。

どーすりゃいいの?


何やら計算してはため息を吐いているリノの様子を見て、ネズミのおばあさんは異世界ならではのアドバイスをしてくれた。


「ギルドに登録して、冒険者の仕事をしてみたら? 町の子でも十歳ぐらいになったら、皆こずかい稼ぎに登録してるよ」


「冒険者ギルド?! やっぱり、あるんですかぁ?!」


「……あるよ。領事館の南側の職人通り沿いにあるから行ってみたら。大きなレンガの建物だからすぐにわかるよ」




おばあさんにお礼を言って店を出たリノは、<地図>を開けて冒険者ギルドの場所を確認してみた。


それはリノが今いるところとは反対方向で、市場があった広場を挟んで向こう側になるようだ。


「あ、ここって『てまり屋』っていうんだ」


職人通りとか冒険者ギルドの名称だけではなく、リノが先程まで買い物をしていたこの店の名前も、もう地図に書き込まれていた。


リノは振り返り、古びた店の外観を眺めた。

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