オータムの町
町の門をくぐってしばらく行くと、石畳の広場の縁にたくさんの荷馬車が並び、行列を作っていた。
「ドウドウ、よし、お前たち、今日はこの辺りでいいぞ」
御者は次々と馬車を下り、引いてきた馬たちをくびきから外すと、馬の綱を取ってどこかに連れて行っている。
ラクーも御者台から降りると、同じように馬の世話を始めた。
「リノさん、わしは馬小屋にこいつらを連れて行ってくるで、その間、荷を見といてくれるかな」
「いいですよ。ここにいるだけでいいんですか? 荷台にのってた看板なんかも出しておきましょうか?」
「おー、そうしといてくれるとありがたいな」
ラクーと馬を見送ったリノは、周りの人たちがやっていることを見ながら、「センガル村」と書かれた看板を荷車の前に出し、野菜が入っているカゴに刺さっている値段が書かれた札を、通りを歩く人が見やすいように整えていった。
商売の準備ができたので、丸椅子に腰かけてラクーが帰ってくるのを待っていると、最初のお客さんがやって来た。
大きな買い物かごを右肩にかけた、アサヤ系の中年の女の人だ。その人は椅子に座っているリノをじろりと見た後で声をかけてきた。
「あら、見ない顔ね。お嬢さんはセンガルに引っ越してきた人なの?」
「いえ、今日はラクーさんの手伝いでちょっとの間だけ座ってます」
「ふぅん、ラクーさんとこの人なのね。じゃあ、ナスを四本もらおうかしら。あの人のナスは美味しいから」
「四本ですね。一本5バルですので、全部で20バルになります」
リノが形の良いナスを選んで女の人に渡すと、その人は少し嬉しそうな顔をして、皮袋から出したお金を渡してきた。
「はい、これ。じゃ、店番がんばってね」
「ありがとうございました!」
リノは10バル鉄貨二枚の大きさを確認して、たぶんレジ用にしているのだと思われる古い木の箱にしまっておいた。
それからも何人かのお客さんが来て、ラクーが帰って来た時には、ナスのカゴが一つ、底が見えそうになっていた。
「ありゃ、もうこんなに売っちまったんかい」
「お帰りなさい。ラクーさんのナスは大人気ですよ。他の野菜を買いにきた人も、ラクーさんのだとわかると、ついでにナスを買っていってくれるんです」
「こりゃあ、たまげた。あんたは大した商売人だ」
ラクーが店番を代わってくれたので、リノは昨夜、頭の中に書き出しておいた生活必需品を見に行くことにした。
洗濯板に干し紐にコップ、化粧水と、タオルと、ヘアブラシと、それから裁縫道具だったっけ?
「うーん、とても300バルで揃えられるとは思えない」
一番必要なのはなんだろう……コップと干し紐? いや、宿でタオルを貸してもらうと5バルかかるってトメばあさんが教えてくれた。
これは、タオルの一択だな。
リノが思ったのは、5バルという中途半端な金額だ。
店番をしてみてわかったのだが、バンデロール王国の通貨は10バル鉄貨からしかない。お客さんによると、昔は1バルの価値がある粒鉄があったそうだが、使い勝手が悪いのですたれてしまったそうだ。
今は、はしたの金額を切り上げるか切り捨てるかして対応しているらしい。
けれど食材などの安い物を購入する時にはそれだと不便なので、客と店の暗黙の了解のもと、5バルの物は偶数の数を購入してもらい、2バルの物は五個組で売ったりするらしい。
タオルの貸し賃が、5バルなんていうはしたの値段設定になっているということは、誰もタオルなんか借りないという意味に等しい。
だって、トメばあさんもサービスにしてくれたもんね。
お金持ちなら、10バル払ってタオルを借り、5バルは宿へのチップにするんだろうが、極貧のリノにそんな選択肢はない。
タオルを買うことに決めたリノは、雑貨屋や衣料品店をしらみつぶしに覗きながら町を歩いて行った。
「あ、ここなんかよさそう」
リノが見つけたのは、ほどほどに寂れた雑貨屋だった。
こういう店には掘り出し物が眠っていることがあるし、店主の性格にもよるが、オマケをしてくれることもある。
「こんにちは~」
昔懐かしいガラスの引き戸を開けると、店の奥にある上がり框に、丸眼鏡をかけたネズミのおばあさんがちんまりと座っていた。




