スキルポイント検証
夕食を終え、ベッドに座り込んだリノは、枕を背もたれにしてくつろいでいた。
パソコンもテレビもないから、ステータスでも見ようかな。
<ステータス>
名前 リノ
年齢 17歳
人種 アサヤ系異世界人
分類 女
体力 66/70
魔力 118/120
スキル 異世界人パック 8, 魔法全般対応 8
レベル 1
スキルポイント 37
「あ、またスキルポイントが付いてる」
いったいこれはどんな経験に付くんだろう?
派手な魔法を使って、魔獣を斃したわけでもない。街道をずっと歩いてきて、センガル村に着いたというだけだ。
街道でステータスを確認した後、他にしたことというと……ラクーさんに会い、村役場に行ってゴンゾ村長と話をして、レオナさんと一緒に雑貨屋のニッさんのところに買い物に行った。それから、トメばあさんの宿に泊まってる。
うーん、<地図>も見てみるか。
ホログラムの<地図>を確認してみると、思った通り「センガル村」の表示が濃い黒色になっていた。
それだけではなく、入ったことがある建物に「センガル村役場」「トメばあさんの宿」「ニシ雑貨店」と黒色で書いてある。
「東にあるオータムの町は、やっぱり灰色で表示されてる。まてよ、国の名前がある! それに点線で国境が引かれてるじゃん」
地図を拡大してみると、リノが今いる「バンデロール王国」は濃い黒色表示だ。その西にある小国には「マンキ国」とあり、北にある国には「ノホーク国」という灰色の字で書かれた国名があった。
「ん? ノホーク国? なんでこんな名前が出たんだろう」
リノは覚えていなかったようだが、ノホークは、ゴンゾ村長が言っていた「何十年か前にやってきた異世界人が住む国」のことだ。
その後、もう一度リノが地図を縮小していくと、東のオータムの町の中に「オータム領・領事館」と書かれた建物が見えてきて、領事館の近くの広場に「市場」と書かれた場所があった。表示はどちらも灰色だ。
「ふむふむ、聞いたことがある地名や場所が灰色表示で、私が訪れた場所は黒色の字になって出てくるんだな」
ということは、この<地図>に黒色で表示されると、スキルポイントが付くとか?
リノの予想はいいところをついている。
他に「他人とのふれあい」「<収納>魔法の出し入れ」などが、今のところスキルポイントに反映されているようだ。
「……なんか眠くなってきた。今日はハードな一日だったから、もう寝るか」
明日も早いしね。
リノはトメばあさんに言われた通り、ランプの灯を消すと、ベッドにもぐりこんだ。
ベッドマットはスプリングが効いていて寝心地が良く、パッチワークカバーの下から出てきた上掛けはタオル生地になっていて、肌触りがよかった。
異世界って、硬いベッドが……定番…………じゃ…………………なかったっけ……………………。
そんなどうでもいいことを考えながら、リノは眠りに落ちていった。
翌朝、部屋のドアをノックする音とドアの向こうから聞こえてくる「リノさん、朝ですよ。朝食をもってきましたよ」というトメばあさんの声で、リノは目を覚ました。
あれ? 朝?
「リノさん、起きてますか?」
トメばあさんの声だ。
家に戻れてない……。
わかってた。異世界に行ったら最後、なかなかもとの世界に戻れないんだよねー。
「はぁ~い。今、起きました。これから準備します」
「朝食をここに置いておきますから、部屋に持って入ってくださいね」
「はい」
リノはベッドから出て、気づいた。
準備もなにも、少ない荷物は全部<収納>の中だし、服は一着しかないので、着た切りスズメだ。
はぁ~、これって究極のミニマムライフかも。
……朝ご飯を食べる前に、井戸に行って顔でも洗ってきますか。
くしゃくしゃになっている赤いワンピースの裾のシワを手で伸ばし、髪の毛を手櫛で整えながら、リノは部屋のドアをそろりと開けてみた。
「おっ、サンドイッチとおにぎりだ!」
朝食のトレーの上には、ハムと卵の二種類のサンドイッチと、海苔が巻いてあるおにぎりが二個のっているお皿があり、これが主食になるのだろう。ほかに目玉焼きとベーコンらしきものが野菜サラダと一緒にワンプレートデッシュになっており、味噌汁のような色をしたスープが入ったマグや紅茶のような色の飲み物が入ったカップもあった。
サンドイッチとおにぎり、これはおにぎりを昼食のお弁当用にしなさいということなんだろうか。どちらにしろ、懐の寒そうなリノのことを考えて、トメばあさんが作ってくれたのだと思われる。
早速おにぎりを二つ、<収納>に入れさせてもらった。
ありがたいな。
人の情けが身に染みる。
冷たい井戸水で顔を洗い、新鮮な朝の空気を胸いっぱいに吸い込むと、嬉しくて温かくなった気持ちを抱えたまま、リノは部屋に戻って来た。
さあ、朝ご飯を食べますか!
「いただきます」
味噌汁のような汁物は、本当に味噌汁だった。豆腐とワカメとネギが入っていて、ホッとするような家庭の味がした。
紅茶らしき飲み物も、完璧に紅茶だった。
これは嬉しい。
リノは紅茶やコーヒーが好きなので、こういう嗜好品があるとクオリティ・オブ・ライフが上がるというものだ。
美味しい朝食をいただいた後、くしゃくしゃになっていたベッドの布団をザっと畳んだ。初めての異世界の夜を過ごした部屋の中をぐるりと見回したリノは、名残惜しく思いながら、玄関スペースに歩いて行った。
そこには、たぶんお客さんなんだろう、二人の若い女性とトメばあさんが立っていた。女の人たちは、廊下から出てきたリノに軽く頭を下げて挨拶をすると、トメばあさんに「また来るわね!」と声をかけ、賑やかに玄関を出ていった。
西洋人だ。いや違う、あの人たちみたいな人が、アサヤ系の人族なのね。
村の人たちとは違い、おしゃれなドレスを着て、革製のバッグを持っていた。
歴史書にでてくるような中世ヨーロッパ風のどっしりとしたドレスではなかったが、スカートは膝より下ぐらいの長めの丈で、紗がかった涼し気な水色と藍色の生地だった。
子どもの頃、アニメで観た「若草物語」に出てくる四人姉妹が着ていたドレスに似てたな。
いいなぁ、ああいうドレスが着てみたい。
リノは思わず、自分が着ているシワくちゃの赤いワンピースを見下ろしてしまった。




