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三題噺もどき3

夜、一人。

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくじゅうはち。

 


 階段を昇り、自室へと戻る。


 部屋の電気をつけ、カーテンが開きっぱなしになっていたことに気づく。

 手に持っていた携帯を机の上に置き、マグカップはコースターの上に置く。

「……」

 遮光カーテンを閉じ、微妙な隙間が空かないように大き目のクリップで止める。

 百円ショップとかに磁石でピッタリ閉じられるようになるものがあるらしいが、まぁ、そこまでせずともこれで割ときれいに閉じてくるので良いかなという感じである。

「……」

 扇風機をつけようかと思ったが、クーラーがついていたのでやめておく。

 つけてもいいんだけど、冷えすぎてもよくない。今の時点で軽く鳥肌が立っているので、これ以上冷やす必要はないだろう。

「……」

 もう何年も使っている椅子に座り、机に向かう。

 特に何をするわけでもないが、なんとなくパソコンの電源を入れ、カーソルを動かす。

 画面下にある動画サイトのアイコンをクリックして、適当に選ぶ。

「……」

 ホラーゲームの実況動画。聞き慣れた声が挨拶から始まり、ゲームが進んでいく。

 その隙間を縫うように、リビングからはテレビの音が聞こえる。

 まだ両親と妹たちは下で携帯をいじったりテレビを見たりしているらしい。あぁ、でも誰か動いた音がした。きっと母だろう。水の音も聞こえてきたし、皿洗いでもしているんだろう。

 キッチンには食洗器がついているはずなんだけど、なぜか使わないのだ。めんどくさい時は使っているらしいが、めったに使わない。ほんと、年に2,3回程度。

「……」

 イヤホンでもしてしまおうかと思ったが、そんな気にもなれないのでそのまま。

 机の上に置いてあった携帯を手に取り、画面ロックを解除する。

 去年の暮れ辺りに買い替えたのだが、使い勝手があまりよくなくてさっさと買い替えたいと思っているところだ。ただ契約上今年までは使わないといけないので、今年に末に買い替える予定である。母も携帯を変えたいと言っていたので、一緒に。

「……」

 ゲームアプリを開こうと思ったが、そんな気にもなれずにやめた。

 何かSNSでもいじっておこうかと思ったが、そんな気も起らずにやめた。

 ただ何となく携帯画面を上に下に、スクロールしただけで、また閉じた。

「……」

 なんだか、今日はあまり携帯をいじる気にならない。

 最近こういうことが多くなってきた気がする。

 こうして1人でいると、特に。

「……」

 正確には1人ではないんだけど。

 ふと1人だなぁと感じてしまう瞬間ではある。

 リビングから笑い声とか、話し声が聞こえると特に。

「……」

 ただでさえ、夜なんて、思考回路がおかしな方へと行くのに。

 一瞬でも、疎外感なんてものを覚えてしまうと、更に走り行く。

「……」

 何を話しているのかは分からないけど。

 ついさっきまで、携帯をいじって誰も会話なんてしていなかったのに。

 1人リビングから居なくなった途端に、会話が始まり笑い声が聞こえる。

 よくみる、楽しそうな家族という絵が想像に難くない。

「……」

 別に邪険に扱われているとか、適当にあしらわれているとかそんなことはないんだけど。

 昔から……妹ができたころから。

 お姉さんなんだから、長女なんだから、一番上なんだからと。

 妹弟のいる人間はそれなりに言われてきただろうことを、散々言われてきたもので。

 我慢をするのは当たり前で、自分を否定するのが当然で、自己なんてものはあってないようなもので……そこまで飛躍するものかという感じだけど、まぁそれなりのそうなるまでの積み重ねというものがあって。

「……」

 ふとした瞬間に、家族はそこにいるのに。

 疎外感なんてものを感じてしまう程度には。

 色々と思うことがあったりもして。

「……」

 だから何だと言う感じではあるんだけど。

 自分自身、もう何を考えて居て何を言いたいのかも分からなくなってきだが。

 なんともまぁ、変な、嫌な拗らせ方をしたな程度で終わらせておきたいけど。

 そこから、芋づる式に別のことを思い出しては自己嫌悪を初めてしまうのであって。

「……」

 あの日の後悔とか、あの時の後悔とか、あの日々の後悔とか。

 後悔後に立たずなんて分かっているつもりではあるけど、思いだすのは後悔ばかりで。

「……」

 生きている価値なんてないんじゃないか。

 とまで、思い込んでしまうわけで。

「……」

「……」

「……」

 ガチャ。

「……」

 ドアの開く音で我に返る。

 妹が部屋に戻ってきたらしい。

 動画は別の実況動画に移っていた。

「……」

 マグカップに手を伸ばす。

 湯気の立っていたカフェオレは、もうすっかり冷めていた。







 お題:マグカップ・夜・お姉さん

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