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ZEROミッシングリンクⅨ【9】ZERO MISSING LINK 9  作者: タイニ
おまけ

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30/33

ベガスのあれこれ6-1 ユラスの結婚




ダンっ!

と、倒れた男の頭がフロアの線を越えている。



「うおおおおーーーーーーーーー!!!!」

その日、南海の道場にこれまでにない歓声が響いた。


「っ!」

「!!」

倒された男も、その男をフロアに沈めた男も、一瞬思考が飛ぶ。



「勝者、心星ファクトーーーー!!!!!」



「ワーーーー!!!!!!!」

すごい声が道場に響く。

「え?マジ?」

下を見ると、端正な顔が仕方ないと言う顔で負けを認めていた。髪の長い男を自分が沈めたとファクトはやっと理解した。


勝った。

遂にカーフに勝ったのだ。カーフ・カプルコニーに。


「やった!!」

ガッツポーズをすると、また会場が湧く。

「ファクト、強くなったな。」

「カーフ……」

手を出すと、カーフはファクトの手を取り起き上がって肩を叩かれる。そして周囲の興奮の渦の中、二人は礼をしてフロアを出た。



「超サイコーだ!!!!」

「ファクト、よくやった!」

「心星ファクトーーー!!英雄過ぎる!!!」

アーツのみんなに祝いの言葉をもらうが、少し信じられない。


「……カーフ、手を抜いてないよね?」

「理由がどうあれお前の勝利だ。」

ローがVサインを送る。

「………」

本当にカーフは全力だったのかと不安になってくる。


「大丈夫だ。ユラス兵さえ言っていたが、格闘経験のなかったメンバーも前とは比べ物にならないくらい戦闘能力が上がっているらしい。実際、軍にスカウトされているのもいるからな。」

「ファクトはそこに並ぶ!」

今はファクトもAチームトップクラスにいる。この辺のメンバーは、各軍や特警、警察からもスカウトが掛かるクラスだ。


「………」

感慨深くて、マメもなくなり固くなった自分の手を見つめる。



そう、ファクトは今まで何一つカーフに勝てなかった。

手合わせもまず負ける。もしかしてバスケやサッカーは勝てるかもしれないが、スポーツは一緒にしたことがない。頭脳は論外。今のファクトの三倍のスペックを投入しても、カーフには勝てないだろう。



でも、やっと一つ勝った。

「ふふふ。」

「何ファクト、自惚れない方がいいよ。これで一勝だから。」

ジェイが辛辣だ。でも白星がゼロなのと、一つでも白が光るのは全然違う。やってきたユラス軍関係者たちもファクトをお祝いする。


カーフの方を見ると、少し残念そうな顔で座り込んで水を飲んでいた。負けたがそれも様になるのがやはりカーフだ。

「少し気の抜けたイケメンもステキ!」

ファイがおかしなことを言っている。


しかし、勝ったは勝ったのだ。ファクトの勝利である。





***





実は先月、非常にうれしいことがあった。



遂にレサトが結婚。しかも、しかもだ。

なんと相手は下町ズである。ファイではない。


本国の結婚式に行けなかったメンバーのために、南海でもフリースタイルの食事会を開催。スラっとした、でも固く引き締まった筋肉の女性がそれぞれのテーブルに挨拶に行く。

「おめでとう!!」

「わーん!!キレイだったよ~!」

みんなに抱きしめられて各所で撮影会になっている。


「ソラー!!おめでとーー!!」

そう言われて女子に抱きつかれたのは、東アジアインターハイ剣道準優勝者であり、アーツ第2弾に割り込んだタウの妹ソラだ。大房人ではないが、アンタレス下町民ではある。



「すごいね……。レサトとだよ。」

妄想チーム男子はため息をつく。見た目だけは良いレサトは、あれでもユラス民族ナオス族のそれなりの家門らしい。父を始めとする男親族を失い、現在バイミース家当主に当たる。

「……レサトは家長以前に誰かの夫になれるのかな……。」

「また逃げ回ってるんじゃね?」

「……お前らそれ以上に驚いたのはな、カーフの領地に行ったメンバーの話聞いただろ?もう一国レベルだって。レサトの方も大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。見て来たが一国と言っても地方都市だ。都市部分は蛍惑より小さかったぞ。」


「まあ、ソラはうまくやるだろうな。」

なにせ、ハウメアやミューティアに並ぶ女子逸材。だから、エリスやチコ、デネブも一つ返事でOKを出したのだ。



昔の時代のような貴族的役割はないが、家長との結婚は、気候も違う異文化の上に、土地の多くのものを背負っていく。ソラもタウの両親と一緒に、たくさんの条件を聞き、飲み込んでいかなくてはいけなかった。



レサトは立場上ユラスで結婚式を挙げねばならず、これを機に初めて多くの妄想チーム男子たちもユラス旅行に行ったのだ。アンタレス自体から出たことのなかった、最もコミュ障と言われるセオも初めて国外に出る。イヤだと言いながら、リゲルに担がれ飛行機に乗ってしまった。


北西ユラス人に過去イキられた経験のあるアーツ第1弾。Aチームですらガンを飛ばされたのに、舐められたらいやだと、顔がヤバいリゲル、サルガスやタラゼドを盾にしてユラス遠征に向かったという。

サレトの故郷は南側だがなんだかんだ言って一番の厄介者、ナオス族。議長夫婦にすら反抗していた奴らなので、妄想チームの極であり気を抜くわけにはいかない。




そこでもてんやわんやあったわけだが、妄想チームは嬉しい。


レサトとソラ。

アーツに来た時に共に最年少18歳チームであった、ファクトやリゲル。そして高等教育に参加していたソイドやムギ、その周辺のメンバーたちには分かる。


とてもしっくりくる二人だ。

特別甘い雰囲気があったわけではないが、二人はお似合いなんじゃないかとみんな思っていたのだ。


もうすでに、家庭生活を始めている二人。レサトはソラにはツンデレを発揮するかと思いきや、そんなことはなく、優しそうな笑顔で何もない時はずっと手を繋いでいた。いかにも新婚さんな初々しさで意外だ。


「俺ら妄想チームに入り浸り、あんなファクトみたいな性格をして、女性関係も上手くこなすとは予想外だな。」

「いや、こなすと言うか、ソラだからだろ。気持ちが落ち着くんじゃないか?ソラ、賢いし。」

「レサトのやつ。真面目にやれば頭もいいし、運動もできるしスキル全持ちってどういうことだ。」

「レサトを認めたなら、そろそろファクトのことも認めてやれ。人たらしの上に女に好かれるぞ。」

「好かれるだけで、その後が続かんだろ。」

「アンドロイドと、ロミオとジュリエットしてもなあ……」

「不毛だな。」

「兄さんたち、俺の事言いたい放題言わないでくれます?してませんし。」


「いいなー。ああいうのを見ると結婚したい……」

レサトはソラにツッコまれる理由はあれこれあったわけだが、お互い今までも言いたい放題だったので、今更気を遣うこともないのだろう。




ファクトにはレサトの霊が分かる。


親族をたくさん失くし、自分の代でも内戦が終わらないどころか、まだ拡大するだろうと思っていたあの頃。誰といても落ち着かず、得ても得ても失ってしまう怖さ。


永遠に孤独かもしれないと不安だった子供時代。


でも、レサトはきっと安心したんだと思う。



人生は何があるか分からない。戦争がなくとも事故や病気で誰かを失うこともある。


けれど、正道教は魂の結婚をする。永遠だ。



人は永遠の中に定住したいと思う本質性を持っている。



レサトは霊性が高い。まだいろんなことが全部分からないソラだけれど、霊性で結ばれる意味をまずは知識で理解して、少しずつ二人で紡ぎ合ってきた。

族長を支えた家門の血を引くがゆえに霊性が高過ぎて敏感なレサトと、それが全部部分からないからこの世の地に足の着いた手助けができる安定したソラ。



その日の夜も、南海の二人は小さな部屋で手を絡める。


「お疲れ。これで一通り、みんなに結婚の報告は済んだね。」

「疲れた……」

と、レサトはソラに寄り掛かった。

「はは、レサトにしてはよくやったよ。」

いつも机の合間に隠れていたのに。

「………」

そして、レサトの手が普通の女性よりはちょっとたくましいその指から腕を伝い、腰を支えてしばらく静かに抱き合った。



二人は数年前に解放されたギュグニーも担当しているため、まだ領地には落ち着かず、あちこち移動する生活になる。




***




しかしレサトの同級生は、そうはいかないケンカップルになっていた。


人はこれを、最上級のケンカップルという。




いや、もはやカップルになっているのかも、このまま破綻するのかも分からない二人。



「ここまで来てまだそんなことを言っているのか?」

それに呆れるチコ。


この二人は、今の時代で言えばお見合いや紹介婚。昔で言えば政略結婚に当たるのか。

カストルとサダルという、アジアとユラスの総師という頂点に選ばれた提案であった。総師長の元には、お金を払ってでも連れ合いを選んでほしい、子供の名付け親になってほしいという人々が、毎年数えきれないほど訪れそれでもしてもらえないことがあるほどだ。なにせ地位で言えば、アジアの法王とユラスの帝王に当たる人物だ。帝王とは下町ズが勝手に言うことではあるが。



なのに、全く笑顔のないこの男女。


実は既に1年前から決まっていている話。結婚というだけでなく、男女が結ばれるということ自体が非常にナイーブで繊細な話だ。婚約が決まる前から、壊れては困ると初めは周知させず、周りも非常に気を遣って対応してきた。


本人たちは、まだ婚約期間だ、忙しいと何かと理由を付けて会うことすらまともにしていない。



「くそ、あいつ………」

「チコ様、そのようなお言葉はおやめください。」

アセンブルスがチコの悪態を、サラッと忠告しながら仕事を進めている。

「そんなに嫌なら、提案の段階で断ればよかっただろ!!」

「その時は、天命に従うと耐えたのでしょう。」

「何が耐えただ!既に、結婚の祝福をもらっているんだぞ!!いつ家庭を持つんだ?」

「……1カ月後にはすると言っていましたが?」

「周りに急かされてだろ。あんな状態で出来るのか??」



祝福をもらった時点で、結婚は成立しているので本当はもう婚約ではない。しかし、ユラスでは、婚約者の死や障害など特別な理由がない限り、基本身を繋がなければ、結婚は成就されないことでもある。



そんな片方が、ガイシャスに呼び出されて仕方なくユラス軍駐在に向かっていた。





●アーツに割り込んだソラ

『ZEROミッシングリンクⅠ』 77 朝練

https://ncode.syosetu.com/n1641he/78




今回は続きます。

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