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ZEROミッシングリンクⅨ【9】ZERO MISSING LINK 9  作者: タイニ
おまけ

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ベガスのあれこれ4 リギルのあれこれ




ローの弟リギルは自分の頬をペタペタ触る。もう腫れも引いた。


「……………」

変わった自分の顔に少しだけ涙がにじむ。


変化も、痛みも加わって。



体だけじゃない。ベガスに来て数年。いろんなことが変わった。

無理やり連れて来られた下界。兄ローのせいで自分だけの完璧な空間が、ある日全部ぶち壊されたのだ。




診察室の外で待っていたラムダとヒノが立ち上がる。

「どうだった?」

「………うん。大丈夫だって。しばらくまだ引きつりもあるかもしれないけど、違和感がなくなれば大丈夫。」

そしてリギルはなんだか泣いてしまう。

「泣くなー!!」

そう言うラムダの方が泣く。

「よし、今日はおいしいもの食べに行こう!!」

三人でロビーに出る。



ベガスに来るまで、正確にはベガスに来ても暫く引きこもりだったリギル。どうにか引きこもり卒業をした彼は4カ月前に整形手術をした。


ずっと隠していた顔。それもベガスに来て1年ほどでどうでもよくなり、知り合いの前ではもう出していたが、さらに決意したのだ。自分の背の低さや垂れている皮膚は、染色体や遺伝子の疾患もやはり関係していた。全体的に不格好だったり、少々弱い臓器があったり。そのままでも生きていくには問題がないが、もう少し怯えずに生きていきたい。


考え、考え抜いて、垂れている部分を切除したのだ。


整形している人間を批判しまくっていたのだが、素直に謝って配信で報告もした。頬の肉だけ取ってもバランスがおかしいと、相談しながら少し他も変えた。残念なことに、そこまでしても女性には好かれそうな顔にはなっていないが、じろじろ見られる感じは減ったと思う。




なぜそんなことに踏み込んだかというと、彼女が出来たからだ。



「……………」

横にいるヒノと目を合わせてお互い少し笑う。


150センチ半ばくらいのヒノより低い身長。背筋や肩は矯正でだいぶ伸びたがまだ不格好に思える。ならせめて、もう少し顔は理想に近付けたい。ヒノはそのままでもいいよと言ったが、顔を隠すくせをやめたい。そう思った。


そしてこの(かん)、小太りだったヒノもダイエットをして少しやせた。スリムにはなっておらず、まだぽっちゃりではあるが十分だ。


バカにしていた整形をして。ネットで散々女性の容姿に文句を言い、散々バカにしてきたタイプだろうそんな女性ヒノと付き合って。


人と話すようになってから自分の目が変わった。画面越しと実物の人間は全然違ったから。


実物のヒノはかわいいと思う。まあ、ヒノにも高慢過ぎると言われ、私よりリギルの方がモテないよ、と正面から言われ。そういうのも今は心地いい。





まだヒノと付き合う前。


「面倒臭い性格なんだね。リギルの言う話なんてどうでもいいんだけど。いろいろ言わずに素直にみんなにごめんねって言ったら?」

ヒノの言葉から言い合いになり、ケンカなり。容姿の話なんてされていないのに、あれこれ見下されたと思い、自分はどうなんだともっとあれこれ言ってしまった。ヒノがずっとファクトを好きだったことも見抜いていたので、バカみたいだと言ってやった。どうせそういう意味で相手にされることなんてないのにと。

ファクトの頭の中など知らないが。




その時にたまたま兄ランスアが通りがかったのだ。


『女を負かそうとするな。全部屁理屈だ。女を負かしたいなら黙ってろ。』


そうランスアに言われて、その場で今までのランスアへの鬱憤が吹き出し大げんかに。お前と違って見た目の武器がないんだよ、とは言わないがひどく頭に来た。



一番アホなのが次男だと思っていたのに、このアホなランスアが一番頭が良かったと知ったのもそんな1年前のことだ。長男は能天気で勉強も出来ず、次男は女の間を行き来することしか知らず、正直自分が一番頭がいいと思っていた。


『何が女はバカだ。テメーが馬鹿だよ。そんな屁理屈に何の意味がある。』


ランスアがリギルに言い切って、泣き出しそうだったヒナを構ってあげると、ヒナはすぐ言葉を引っ込め、ランスアの奥さんになった人と三人でどこかに行ってしまった。

やっぱり女は顔で男を判断するんじゃないかとブチ切れた。弟は体格も顔もいい。



それから、1週間ぐらい怒りが収まらず悶々としていたが、1ヶ月くらいで耐えられないくらい寂しくなる。



変わってしまったここでの生活には、いつも横に誰かがいた。鬱陶しいくらいに。

みんな結婚したり職場が変わったり。最近、女子で近くにいてくれたのはファイとヒノだけだ。


ヒナの友達たちに顔を合わせるのも気まずかったが、誰もヒナとのケンカは知らないのか。話題も出ずに普通に過ごした。


後で知ったのが、ランスアが止めておいてくれたのだ。仲のいい子の間でいくらでも愚痴を言ってもいい。でも、リギルはヒノのようにたくさん友達がいないし対応も下手だから、居場所だけはそのままにしてあげてほしいと。弟がごめんと。





病院の地下エリア。


おいしいものと言いつつ、なんだかんだ病院のフードコートで好きなものを食べていると、少しお腹が大きくなった響先生が来る。


「せんせー!!」

「みんな!」

うれしそうに駆け寄ってくる響。

「先生、定期健診ですか?」

「うん。」

髪を伸ばした響先生は相変わらず美しい。


「ヒノちゃんたち、もう入籍したの?」

「しました!」

ヒノが言うとパー!とうれしそうな顔になる。実は手術3カ月後に入籍した。

「おめでとう!今度お祝いしないと!今日はこの後、好きなデザートやドリンク頼んで!一次祝い!」




結婚の後押しになったのは、響の一言もある。



あの頃自分は、兄たちに比べてひどく無様だと落ち込んでいた。なぜ自分は見た目から虚弱体質に生まれたのだろう。なぜ兄たちはあんなに人生得する外見なんだ。なぜ、自分だけ。父も母も普通なのに。せめて普通に生まれたかった。


本当このこと言うと、時々やるせない思いになってみじめで一人泣いていた。女はすぐ泣くと言って、自分は独り歩く道や、独り部屋で目を拭っていた。


泣かずにはいられなかった。


ここにいると、兄たちだけじゃない。ファクトやリゲルたちも見てしまう。小柄で運痴、人生に文句を言っているジェイですら羨ましい。




でも、どうにかベガスの女の子たちとはなんとか話せるようになって、ヒナとはその中でも、ベガス構築のことやネットの話でいろいろ話すようになって。



それで思い切って、響に聞いてみたのだ。


自分は子供は絶対に持てないと思っていた。遺伝すると思ったからだ。でも、すぐには切り替わらないけれど、遺伝子は感情や精神の情報も遺伝していくと教えてもらえた。


遺伝子の根幹は不動だが、少しずつ変化する部分があるのだ。時に当代で変わるものもある。


遺伝子の切り替わりはマイナスだけではない。



それにヒノが健康だ。心も体も。それだけでリギルにとって何にも勝る宝だと。




「精神こそ、すっごいマイナスなんですけど」と言ったら、最初は一つでいいから切り替えるんだよと。感情がおぼつかないなら、行動の一つだけでもいい。物事が変わるとか変わらないとかでなく、自分のために何かを続けたらいいと。


そう言われても、大したことはできないので、人が少なくロボットの入っていない場所で草むしりなどしていた。冬は運動がてら掃除をしない汚い野郎どものベッドメイキング。


1年続けて出来た物は、挨拶してくれる出勤のオバちゃん仲間だ。しかも、飴までもらえるようになる。飴、嫌いなのに。


いらない飴までもらえるようになり、自分のためなのかは分からないが、歩ける場所は増えてきた。



もう、ヒナたちとの関係修復は無理だと思っていたのに、ある日廊下で会って気まずくて。

でもヒナの方から『元気だった?』と言ってくれ、無言で草むしりを手伝ってくれた。


その時はもう自分も邪険なことは言わず。



自分は話し出すとカッとしてしまうのを知っていたので、ランスアの言う意味と違うかもしれないけれど、ずっと黙っていた。


それからおばちゃんたちに10時の休憩のお茶に二人で誘われて、おばちゃんたちを間に挟んで談話をして。

気まずかった何かが変わっていった。



多分変わったのは、自分だ。

あの時、ケンカした時の自分を責めなかったヒノは、誰よりも賢く、誰よりも心が大きかったと思う。きっとムカついただろうに。


それすらもきっと、数年前の自分だったら受け入れられなかっただろう。





エリスさんの言葉を思い出す。


『人はね、たくさん、たくさん許され、今ここに生きているんだよ。』


それもよくある牧師の説教だと思っていた。気高い神の、素晴らしいお説教なんだろうと。



でも今は分かる。

その言葉は実体だ。本来だったらいつも見えていたはずの、まさに目の前の人たちの、自分を許してくれていた優しさだと。



今、幸せだ。





「響センセー!!」

そこに若い先生たちがやって来た。

「本当にウチらとは食べてくれないのに、若い子たちとは食事するって妬きます!」

「……………」

響は目を逸らす。


既婚女性なのに相変わらずモテる。女医さんもいるが。

「旦那さん、ずっと出張みたいですね。」

「皆さん、旦那さんが放置してたら教えてくださいね~」

「先生、今度一緒に食べてください!」

と、言って去っていった。


地元組タラゼドだと思っていたのに、響の方がどこかに飛び立ってしまうとみんな心配していたのに、妊娠中に何とタラゼドの方がギュグニーに派遣されてしまったのだ。短期ではあるがこんなこともある。


「…………先生大変ですね。」

ヒノが呆れていた。



昔は響先生が特別きれいに見えていたけれど、今リギルは、同じくらいヒナもきれいだと思う。







ご訪問ありがとうございます。


現在ZEROミッシングリンクは、講談社×未来創造さんの小説サイト、NOVELDAYSにこの長編版を短くした『ストーリー版』を掲載しながら、その話数に合わせて全体修正をしています。現在『Ⅴ』まで進んでいます。


そちらには、『聖書からも読み解く、ZEROミッシングリンクの世界観解説チャット』も掲載されています。サラサ・ニャートが講義をする、本編の図解もある雑談&解説小説です。


▼『聖書からも読み解く、ZEROミッシングリンクの世界観解説チャット』

https://novel.daysneo.com/works/5966672d95cdb451fd3e97c97aeeacd0.html


よろしくお願いいたします!

読みたい解説などあればお知らせください。






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