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ZEROミッシングリンクⅨ【9】ZERO MISSING LINK 9  作者: タイニ
第七十二章 星の人々

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23/33

22 星の彼方




それからさらに3年が経った。



ユラスの荒野は、ギュグニーが解放された8年前と全く違う空気を持っていた。


ユラス人やアジアライン周辺国だけだったら苦しかったかもしれない。でもそこに、全く違う雰囲気を持った、たくさんの新しい気運が入ってきていた。


ここはユラス大陸のその東、アジアラインの西隣りにあるイソラ。ニッカが養父母たちと育った故郷である。



「ファクトー!ベガス組が到着したよー!」

大きな声で呼ぶのはニッカの二番目の兄嫁だ。出産子育てが落ち着いたので、現在イソラのVEGA関連施設のスタッフをしている。

「はーーい。行きまーす!!」

車を降りてきたファクトは表の玄関ロータリーに向かう。



「ファクトーー!!」

「ラムダ!!」

うおお!来たのか!!と、抱きあう二人。

「ファクト、元気だったか~!!」

「この前も会ったじゃん。」

「1年半ぶりだよ~!!」

ラムダは現在コンビニの延長でフォーチュンファイブ河漢の社員だ。


「ファクトー!!!」

ラムダを押し切る形で入って来たのは、蟹目から一緒のタキやリウ。手を振っているのは同じく蟹目の少し太っちょなヒノ。ヒノは大学卒業してから蟹目出身のメンバーたちとアーツに入った。ユリは結婚してまだ乳児がいるためここには来れない。


そして、さらに手を振っているのはラスだ。ラスはあの後ニューロスの会社でそのまま仕事を続け、久々の長期休暇である。

「ラス。リゲルは来週来れそう。今二人も抜けられなくて。」

イソラとオミクロン国家、そしてギュグニーは近いため、その区間で異動や出張も多い。



回りを見てみると、数人ファクトが知らないメンバーもいる。

挨拶をしようとすると、第二陣の車が到着した。運転手はニッカだったが、タウ妹のソラとレサトも運転するつもりで保険にも入って来たので、ほぼ二人で運転してきたらしい。


「ラムダ~」

車から降りて泣きそうなのは、その二陣に乗り合わせて来たリギルだ。

「リギルー!本物のファクトだよ~!」

「おっす、リギル!」

「………ぅ……」

ファクトにガッツリボールドされる。リギルは慣れたラムダや蟹目のメンバーでなく、新規の陽キャ車両に乗ってしまったため、神経がすり減りまくっていた。もちろん全行程ほぼ寝たふりである。唯一の救いは、サレトの見た目は陽キャだが、中身はファクトと大して変わらないところだ。性格を知れば気を遣わない。が、話すこともない。



「大丈夫?リギル生きてる?酔ったの?」

ヒノが心配そうにのぞき込んだ。

「陽キャに酔ったんだよな!」

リウが代わって説明してくれる。

「トイレ行きたい……」

途中休憩も寝たふりをしてしまった。

「あっ、あっちですよ。」

みんなそれぞれ荷物を降ろしていく。


ここで館長も出てきたので、ベガスから来たメンバーは、この場にいる現イソラ所属のスタッフたちと挨拶をし合う。今回は半観光、半視察と勉強である。


新規で入ってきた子たちが騒めいていた。

「……あの、心星さんですか?」

「あ、そうです!」

「わー!!すごい!!ポラリス博士の論文読んでいます!!」

「あ、はあ。どうもありがとうございます。父がお世話になっています。」

「話に聞いて通りだ!」

ここでも十四光は眩しく輝いている。それにしても、どんな話をどこで聞いて来たんだと思う。


「私はミザル博士の生体霊性論です!」

「お!君、新手だね!」

ミザルは学士を取ったくらいでは分からない事ばかり書いているので、一般向けに砕いたポラリスの方が人気があるのである。



そしてさらに、違う草原の方からジープ1台が来た。

「ラムダせんせーー!!」

「ナックス!トゥルス!!」

既に中学生になってしまったナックスと、もう成人してしまったムギの弟トゥルスである。

「先生ーー!!僕もいるよーー!」

マリアス教官の息子アルやザルニアス家のビオレッタも慌てて出てきた。無言でターボ君も手を振っているし、他にも数人のスタッフと子供たちがそれぞれバイクなどから降りて来た。

「先生!僕、馬に乗れるようになったんだよ!」

「アル!」

「皆さん、こんにちは!」

「ビオも大きくなったな!」


今週末にこの辺りで小さなお祭りがあるので、その時にバーベキューもする。だいたい全員その時までは残るが、後は帰る者、少し残る者、しばらくこの地が任地になる者など様々だ。



そこに事務所から呼ばれるファクト。

「ファクト―、イークス君時間が始まったぞ。」

「あー無視して。」

イークス君時間とは、弟イークス君とカメラごしにお話しする時間である。


夕方5時か7時。休みの日は朝9時と指定されているが、めんどくさいのでファクトは逃げまくっている。よく話すイークス君は、園児の頃からトーク&習ったことお披露目1時間も余裕だ。あまりにめんどいので付けっぱで他事をしていると叱られる。さすがに8歳になったので、習い事や勉強もあり昔ほど時間は取れないが、今も週1はお兄ちゃんに報告がたくさんあるそうだ。

保護者がいれば小学生でもイソラに遊学に来る子たちがいるので、来年は僕も行くと言っているが、もし来てもファクトは挨拶だけして逃げるつもりだ。



しかももう一人、騒がしい人がベガスにいた。実は一番ここに来たがっていたのはテミン。


テミンも既に来年高校生。

飛び級と特殊資格取得のための試験があるので、今回は泣く泣くベガスでお留守番である。背はナックスの方が高くなったが、さすがシュルタン。武術では大人でも既に敵わない。弟のジバル君は兄と違って無口だが、彼も地味に強い。二人ともカフラーやカウスほどではないが、他の才能も持っているし、カウス自体がおかしいのでまあこんな感じだろうと頷ける。ちなみにカウスは13、4で既に特殊部隊の人間を負かしていたそうな。


ターボ君世代、アーツ関連ではなぜか男子がたくさん生まれたが、その後サルガスとロディアの間に女の子ができてから、今度は女の子続きである。今はもう、名簿が把握できないくらい子供が多い。




「では皆さん!」

荷物だけ部屋に移した段階で、ニッカが注目させた。


「ここでの生活を少し説明します。前もってお話しした通り、あまり便利な場所ではありません。旅行やスタッフで来られた方は事務所の寝所で、正式な研修で来られた方は、明日生徒さんたちのいる方に移って一緒に生活をし講義を受けてもらいます。」

ここには高校までの学校も出来て、地元民だけでなく旧ギュグニーからも一部移って来ていた。




様々な説明が終わり、皆フリータイムだ。

ファクトが久々のベガス男子チームに顔を出すと、リギルが聞いてきた。


「明日、乗馬できるの?」

「するする!でもなんだかんだ言って、広くてもここは岩やでこぼこがたくさんあるから、バイクも馬もアナログなのは全部気を付けないといけない。」

「え?俺、少し藤湾で乗馬練習したんだけど……歩くだけだけど無理かな……」

不安そうだ。リギルはヒノやラムダたちと少しだけ頑張って藤湾で基礎を学んできたのだ。リッター動画で後日配信予定である。現在、元引きこもりの社会体験感想がメインで、ベガス批判動画を作っていた頃の視聴者も、まだたくさん観に来ている。


「少し慣らしたら、草原は2人で乗って一緒にウォークしよ!まだ数日あるしさ。」

「え?大人2人で乗って大丈夫?」

「思いっきり走らないし、そこら辺を軽く駆けるくらいなら大丈夫だよ。今は強い馬も数頭いるし。」

「俺もできる?何もしてきてないけど。落ちたりしない?」

まだ乗ったこともない人が聞いてくるが、バイクや乗馬用の背負うエアバックがあるので、重傷になる事故はほとんどない。

トゥルスもみんなが来てうれしそうだ。

「僕やレサトさんも助けるし、明日は現地の人たちも来るから。」

レサトはもう何度かここに来て、ニッカの兄に鍛えてもらている。


「……レサトなんでそんな余裕あるの?ユラスの方の仕事サボってんじゃないの?」

ソラはレサトがアホに見えてしょうがないが、レサトは一応自分の領に戻って、長としての仕事を学び始めている。

「そんなん事はない!まあ、ほとんど任せてるけど!」

「サッサと戻りなさいよ!」



そんなふうにイソラの夜は更けていく。




***




同じ頃、ユラスの空の下。


大きな議長邸の光が漏れる縁側で、子供を抱きながら困っている主人に乳母が優しく伝える。

「チコ様、そう。欲しがっていたらお乳を含ませてあげたらいいんです。」

「出ないのに。」

「ミルク自体はいっぱい飲んでるから、お乳を触っていたいだけですよ。」

「……はあ。」

ルバを着崩した衣装で、主人はため息をついていた。


「母親から離すのが早過ぎたんじゃないのか?」

「大丈夫ですよ。離乳もしてますし、慣らしもたくさんしたし。」

ばあっと、乳母は楽しそうに子供をくすぐるも、必死にお乳に食いついている。


「バベッジが見に来るとか言っている。」

「まあ、それは早いですわ!まだユラスの風には慣れていないのに。」

「だろ?あんな南国から、乾燥地帯に送られて来てかわいそうに。断らせておいた。」



今、この広場は女性ばかりだが、一人、サダルが入って来た。乳母が礼をしたまま少し下がる。

「断るのも大変だったんだ。単独、個人主義と聞いていたのに、バベッジもしつこいな。」



サダルは母と子の間に入って、一生懸命乳を含んでいる頬に指でうにうにと触る。


すると子供は乳を含んだまま、サダルの指をギュッと掴んだ。



離さないのでしばらくそのままにして、空を見上げる。





少しだけ雲が漂い、


月夜は輝く。





***




山脈を間近に見渡せるイソラの夜。

さらに深夜。



初旅行や移動で疲れたメンバーが今夜は先に休む中、ファクトとニッカ、サレト、そしてラスとラムダは外に出た。馬を引っ張りながら、建物の光源から少し離れる。


「ソラは?来たいって言ってたけど。」

レサトが聞くと、ニッカは笑う。

「疲れちゃったみたい。寝ちゃった。」

「初めての人がたくさん来たからね。気も使うし。」

ソラはベガス側からの引率責任者の一人なので、全員の安全も見ている。


「まあ、明日もあるし。行こう。」



そして大きな草原に出る。



「すごい空だね。全部天の川みたいだ。」

ラムダが驚いている。


「………」

ラスも思い出す。


タニアの山、タニアの星空。

全てが、人間に見てほしいというように輝いていた。



ニッカが優しく馬を撫でる。


それがまるで、大地を抱いているようだった。




たくさんの星を眺めてファクトは思う。



今はもう、シリウスとは連絡を取っていない。前と似た姿で、メディアやネットに映るのを見るだけだ。

それに、ファクトが知っているシリウスとは少し違うらしかった。





不思議だ。


今見える星より大きな星も、珍しい星も宇宙にはたくさんある。


でも、人間に見え、人が知る星だけが、名前を持ち、記号を持ち、意味を与えられて自分たちの意識の中にいる。

きっと、もっと知ってほしいと思っている、今の人間には確認できない星もたくさんあるのだろう。



「………」

地球の砂粒より多い星に目がくらむ。


スーと透過して見ようとすると、全ての星が近くなった感じがして地面を見失う気分だ。


けれど、どんなにどんなにたくさんでも、自分に収まる星はただ一つ。

そんな気持ちの中にいて、星たちは自分が愛されていると安心するのだ。



ファクトはもう一度空を眺めた。





―――






全てが舞う。



セイガの空を。



青い狼が駆け、虎が切り抜け、龍が轟き、朱雀が大陸を越えて舞う。




天は忘れない。

その全てのために、心を痛め、それでも天と人を愛し、飢えた荒野を走り抜けた人々のことを。






                   完



                  














これにて、『ZEROミッシングリンク』全話は完結です。



そして、いつもの如くこれからおそらく大幅修正(涙)していくので、よろしくお願いいたします!後日、後書きも更新します。


最終話付近に書き残したエピソードもいくつかあり、既に10年以上前から構想していたものもあります。本文に入れるべきか、外すべきかまだ決められないない状態のものも。それに、忘れている大事なエピソードもありそうです……。(※初投稿時。それ以降、本編も大分改稿、追加されています。)


いつもこんなふうで申し訳ありません。


でも何より、ただページを開いてくださっただけでも、とても励みになりここまで書き続けることができました。


訪問、読んでくださった全ての皆様に、限りない感謝を捧げます。

ありがとうございました。













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