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ZEROミッシングリンクⅨ【9】ZERO MISSING LINK 9  作者: タイニ
第七十二章 星の人々

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21 時は駆ける




そして3年後。



「あのー、そっちはVEGA事務局で、こっちがアーツです。」

「あ、ほんとですか?ありがとうございます。」

現在アーツで事務を担当するのはディオスの妻、ユーコだ。2人目を妊娠してもう少しで産休に入る。


ディオス共に大房民で、彼らやその仲間はアーツに参加する前からちょくちょくアーツに訪れ、イベントも手伝っていたので初参加の第5弾からリーダーに。現在ディオスはローと共にギュグニーに入っていた。


ギュグニーは元々限定された場所しか都市もなかったので、復興事業は複雑な河漢より速く進んでいる。



実はローも既に一児の父。あの医療事務の子とは結婚できるのかと、妄想チームがいらぬ心配をしていたが、さすが全チーム認める陽キャトップ。あのノリで押し切ったのか。


そして、なんとウヌクもすでに結婚している。3年前の春にフォーマルハウトの強キャラ一軍が訪れた時に、そこにいた子に惚れられて猛アタックされ、安定したお肌の温もりがほしいとしょうもないことを言って、そのまま結婚してしまった。ウヌクにしては普通目な子を選んで性格が合うのか、なんて心配もしていたのに、こちらも問題なく既に第一児がいる。

羨ましすぎるが、なんだかんだと妄想チーム近辺も既に数人結婚していた。バツイチの女性とそれぞれ付き合っていたジリと高田君は、ジェイに続くその筆頭である。



アーツ一番のヒッターは、フォーチュングループの令嬢と結婚してしまったサルガスだが、その二番手はチコの護衛と結ばれたライブラである。知った時にはこの食堂中が揺れた。


ユラス軍の中でもナオス中央軍。

族長周囲と結婚するには、様々な身辺調査もされるらしい。少し儚く優しげで、よく見るとスタイルもいいお相手のグリフォは隣のチコゆえに恐ろしく、また触れてはいけない感があって話題には出ないも、何気に男子人気が高かったので羨望の的である。グリフォが当時すでに37歳。有無も言わさず子作りということで、あの艾葉の事件の後、早速結婚生活を始めさせられていたという。ユラス、二重に恐ろしい。


なおラムダは相変わらずだ。




アーツ第1寮の1階食堂で、響が喜ぶ。

「ねえ、ムギからメール来たよ!」

「おーー!!」

「なんてなんて?」

「『冬が恋しい』って。」

「前もそれ言ってなかった?」

「毎年言ってる。」

ムギはそれなりの山岳地帯から来ているので、南国過ぎる上に湿地が多いのが一番(こた)えるらしい。


ムギは在学中に準備をしながら、高卒を待ってすぐにガーナイトに向かってしまった。初めは1年ほどベガスのみんなも理由を知らず、まだ北メンカルの情勢が不安定であったため機密上の理由で連絡もそんなにできなかったらしい。留学しに行ったとばかりと思っていたのだ。


響は聞いているが、『(あか)』が赴くとガーナイトに連絡が入った時、タイイーはまだその正体を知らなかった。年の離れた妹のような子がいきなり来たら躊躇するだろうと、こっちはそのまま送ってしまった。まさに、現場は開いた口が塞がらない状態だったそうな。


まさか巫女様だったとは。



妄想チームは過去、『世界のヤバい王子族長』というページも漁っていて、北メンカルはアジアの中ではトップクラスでヤバい部類に入る王族国家だったのでムギを心配した。

なにせ、欲にどっぷり浸かったような首や腹の持ち主、クスリじゃないからいいと言って天然のヤバいもので毎日煙を吹かす王子。噛んだり、すすると気持ちよくなる木の実や草もあるらしい。


愛人の子供どころか、実の兄弟で頭に穴をあけるような争いをしている王子たちもいる。そんな憎い義兄弟の妻や愛人にも手を出す王子やその部下。正直もう正妻家族以外王族に分類しなくてもいいんじゃないかというのに、王家親族を主張している人たちは、ひどいと祖父の代の不貞までさかのぼる。もともと汚いお金とはいえ国のお金を持って国外逃亡した王子は、逃亡先でも地下で豪遊して国際指名手配されている………と、より取り見取りである。


あまりに心配したのだが、ガーナイトタイイーは外交も普通にできるしまともそうでホッとした。まともといっても妄想チームから見れば、逆らったら背負った銃で問答無用ハチの巣にされそうではあるが。

親族にしたくないような王子王女たちがたくさんいるので、みんな時々ムギの安全を祈ってしまっている。チコが妹分のことで何でも反対する理由がよく分かった。そんなところに大事な妹を送らないでほしい。


こんな話、大房だけにいた頃はあらゆることが暇つぶしレスのネタであったが、ベガスに来てから何かと笑えなくなっている。



ただ、ゆっくりだが、緊迫した状況をタイイー夫婦に相談に来る、他政権の王家親族やその部下も増えてきていた。


時代は変わりつつある。





響はお腹に手を当てながら、にっこりともう一度メールを見た。


実は響も二人目を妊娠している。

元々医者になるつもりはなかったし、担当医にならなければ単発でヘルプの仕事もできるし、保健センターにも入れる。育児中は研究を続ければいいので、このまま先に子供を持ちたいと思ったのだ。



ムギも既に第一子出産をしている。

元々細いのに体を酷使していたので、ガーナイトに送る前に先方に状態も報告し検査もし、みんな気を揉んでいたが、意外にもすぐに妊娠し驚くほど安産。


次の子もすぐ産みたいと言っていた。どうしても二人は早く産んでおきたかったのだ。二人以上の出産経験がないとできないことがあったからだ。



ムギはいつも、天において誰かを大切に思っていたから、全て帰して身を捧げるつもりでいた。




響の二人目はムギの一人目の子と同級生になるのかな、と天に全ての母子の無事を祈った。




***




「おじさん、そっちじゃないんだけど。」

「え?ほんと。」

「ボケたの?俺、介護するの?」


辛辣なことを言うのはテニアと同行しているシェダルだ。テニアが思いっきり道を間違えている。ここはアジアとは反対の大陸。車で移動し、バックドアを開けて少し休憩する事にした。


「ナビあるのに何で間違えるわけ?よくそんなんで、傭兵時代生きて来れたね。」

「歳だからじゃない?」

本当は、街があったから寄ってみたかったのである。けれど、シェダルは監視カメラがたくさんある場所に行くのは嫌いだ。



ニュースで久々にギュグニーの動向が流れていた。

「あんなふうにギュグニーが解放されるなら、傭兵している場合じゃなかったよ。もう1回大きな戦闘があるかなーって思ってたのに。」


仲間を集うために傭兵になったのに、3年前のギュグニー開放はほとんど戦闘もなく、その後もユラス軍が治安維持に多く入り終わってしまった。


昔、テニアが大人になった頃、ギュグニーに入っていける安定した勢力はなかった。

バベッジの罪はバベッジで終わらせたいと思ったテニアは、兵を(つど)おうと世界に出た。それに、霊性や血統が親や兄シーと同じテニアは、敏感なバベッジ族に感知されやすいと恐れた乳母によって、住んでいた町を離れるように言われたのだ。なにせ国境を越えたヴェネレ人の街は、バベッジ国家とほぼ隣接した地域にある。いつまで隠せるか不安であった。あの時代、シーの血縁と名乗ることは非常に危険であった。

しかし、いざ他国に行くも、傭兵がいる場所など世界もそれなりに混乱状態。世界も世界で大変だったのだ。結局、自国でなく、他国の治安維持や作戦に関与し、そこで関係を築いていくことになった。



今はギュグニーも一旦締めができたので、昔の傭兵仲間に呼ばれて別大陸で刑務所の警備をすることになっている。


「まあでも、そのおかげで海外でもすぐ仕事ができるし、何かの時に人も呼べるしいいんじゃね。」

この前までテニアはシェダルと共に、ユラス軍が関わる以外の大型NGO危険地域派遣の仕事をしていた。護衛の中でもさらにその裏の護衛だ。

そして、これまでの繋がりでそれらの大陸ですぐに賛同組織や人が集められ、急速な活動拡大に繋がり連合国も助かっている。



「……疲れた。ここで飯食いたい。」

と、シェダルはそこらに座っていきなりレーションを食べ始める。

「え?シェダルこそじいさんなんか?もうすぐだから行こう。」

「やだ、飯食う。」


2年前にテニアがシェダルの保護役になり、大きな世話は東アジアが見ている。シェダルは指揮官側ではなかったし、被害者の側面も持っている。服役期間が短かった代わりに連合国の許す公益の仕事を果たすのだ。


簡単な食事をしながら、シェダルはデバイスで様々な模様を作っていく。




三角四角からの波、流れ流れる夜の波は、水面の光となって無限に煌めく。


四支誠の会館に、その光の波は一つの世界を作り込む。



「それ、ここで発信して位置バレないの?」

まあ、今は政府の公の施設の仕事なので知られても構わないが。

「あれこれ経由するから大丈夫。」



そして、思う。

きっとこの折り重なった波や麒麟の風景を、

ウヌクやテミンたちも見ているだろうと。


そして、いつか、その子供たちも。



「そういう、才能があるのはいいな。」

「こんなん、AIに指示すれば誰でもできる。」

「そうか?」


それをいつも不思議そうに見ている、掴みどころのない隣のおじさん。


こんな自分の面倒を見るなんて、物好きなオッサンだなとシェダル思ったが、チコを思い出してそんなものかなとも思った。




***





それから2年後。



「うわああ!」

第3ラボの廊下、駆け寄った男の子がシャプレーに抱き着いた。


シャプレーはスピカに荷物を渡し、その子を抱き上げ頬にキスをする。

「元気にしていたか?」

「おにいちゃんが叩いた!」

と言うので、またかという顔をする。今日は土曜日なので子供たちはラボの育児室だ。近くで先生が見守っているが、社長が来たので少し離れたのだ。


そこにすごい勢いでもう一人子供が現われ、ヒーローのポーズをとっていた。

「イークス、ヒーローは弟を叩かないぞ。」

「ちがう!ぼくが悪役!テンテンが強くないから困ってる!」

なんの悪気もなく言う、5歳児イークス。

「…うぇ…」

テンテンと呼ばれた天狼は半べそでシャプレーのスーツに顔をうずめた。


イークス君は全く反省をしないで、おもちゃのスポンジの剣でポーズをあれこれ決めている。

兄に似てしまったのかと思いきや、当時のファクトよりとにかく口が回る。ファクトは一般の子より言葉は遅かったのだ。


しかも、尊敬する人は?という園のお勉強で、母でも父でもなく、「お兄ちゃん!」と言ったそうな。そのお兄ちゃんが、「俺よりママやパパとかの方がいいんじゃない?」と、恐縮していた。





シャプレーは思い出す。



ギュグニー開放の後、ロワイラルからの手紙を見せられたシャプレーはファクトにお礼を言った。


『あ、でも俺、内容は知らないし、本当にそこに手紙があるのかも知りませんでした。』


ソソシアの要塞のあの教室、その机の天板の裏に手紙が隠してあったのだ。そこには、彼女の願いと夢が書き記されていた。




遺書のように、詳細に。


出会うかも、自分すら生き残れるかも分からないけれど、それでも未来の人々に。




『そうか、でも感謝している。』


『……あの、ロワイラルさんはシャプレーの奥さんですよね?』

『!………』

少し驚いて、肯定も否定もしない。

『なんとなく分かります。あの雰囲気でそうじゃなかったら困ります。』

と、勝手にしゃべっているファクト。




もう、ロワイラルはこの世にいない。




最初はソソシアの街の爆撃で、次にニューロス化実験で、そして最初の出産で子供も失い意識混迷に陥り寝たきりになったまま過ごした日々。数度死の淵を彷徨い、寝たきりになって何年もまた生死を浮遊した彼女。


彼女は、自分がそうなった時の願いも全て書き記していた。頭部を失う、その前に。


独裁政権の中に身を置きながら、故郷から繋いだ天敬を胸に秘め、忘れなかった小さな少女。体中にメスが入り、死ぬことも不自由だった青年期。きっと泣きたかっただろうに、悔しいこともあっただろうに、涙を流すことも不自由だったのだろう。


それでも人生を怨まず、世界を愛したその精神が、SR社のニューロス基盤に沁みこまれている。




今、体から離れ、自由になったのだろうかと思いをはせる。




「おじさん!この技見て!テンテンができないからずっと教えてるのに、ずっとできない!」

「わあああ!」

「イークス、天狼は怖がりなんだ。知ってるだろ。少し何か飲もうか。」

「えーやだ!おじさん、牛乳か無糖豆乳しかくれないもん!」

既に育児室でお菓子を食べた時間だ。けれどイークスは食欲もすごい。

「なら、ピザパンも食べようか。」

「わーい!!」

ぴょんぴょん、ぴょんぴょん跳ねている。

天狼はスーツに顔を伏せ鼻水まで付けてぐずっているので、その愛しい幼子をギュッと抱く。


シャプレーは仕方ない顔で先生に断りを入れ、二人をカフェに連れて行った。








次回で最終回です。

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