1 消えた狼
この小説は『ZEROミッシングリンクⅧ』の続きです。
前作を読んでいないと、分かりにくい内容になっています。
この小説が最終章になります。
昔、昔のことでした。
昔といっても、もう自動車も走り、電話もブラウン管もあったような時代です。
ある日、天は千年見守った、霜焼けと膿だらけで白米の味も知らず、ただ働きに働き、そっと天に手を合わせ、黙々と生きてきた東のその東の国の女を憐れみました。
その涙は女たちの涙だったのか、天の涙だったのか。
天は女たちに、似たような青さを持つ西の太陽の光をさずけようと、聖典を届けましたが、なぜかその国にだけは聖典が根付きませんでした。数百年数千年かけてもできなかったのです。
その間にたくさんの人の耳や鼻が積まれた、悲しい塔ができました。
蛇は青い女たちがその光を掴んだら、自分が消えてなくなることを知っていたので、東の国の人になり替わり、あの手この手を使って日の目を見る前にことごとく潰してきたからです。
それがあまりにも残酷で緩慢で大変だったので、彼らは息をひそめるように生きてきました。
そして多くの者にとって聖典は意味の分からない、異質で恐ろしい物となってしまったのです。
本当のそれは、あなたの命であり、血であり、肉であったのに。
ある日、西の龍が呼んだので、聖典を知って生き残った人々は、世界中にその女たちを送り込みました。
女たちは青く、そして銀の毛並みを持つ狼になり白銀の野山を駆け抜け、力が尽きれば白い虎に思いを預け、虎も狩られれば青い龍に全てを託し、狼たちは国境を越え、時に朱雀の羽になり、山脈を越え、世界に散って行きました。
蛇はどこまでも追いかけて来ましたが、別の賢い蛇に頼りながら、西にも東にも南にも北にもなれない戦火の燻る広大な荒野に一部の者は着いたのです。
荒野の南は、薄褐色肌の白い髪を持った人々が住んでいました。東の女たちは黒檀のような黒い髪に、黒や茶の瞳を持っていたので、とても目立っていたのですが、どうにかその地で暮らしていけるようになりました。
賢い男たちは、どこにも定まらなかった自分たちが、この女たちが現れたことで自分たちは西にも東にも、南にも北にもなれると気が付きました。だから、女たちを良く迎えたのです。
ある日のことです。蛇の襲来が訪れました。
これまでのようにじわじわと責めるのではなく、蛇は黒い者たちを全て抹殺するように言ったのです。一部は他国に逃げましたが、今、国を離れたら全部が獲られると悟った女たちは動くこともできず、自分の仲間たちが狩られるのを見ていることしかできません。
それで彼女たちは水籠りをし、食を断ち、三日三晩祈り、方々を駆け回り、必死に天に請いました。
ある日、天が一度だけ光りました。
忘れてしまうほどに小さく。
すると不思議なことに、黒い髪の女たちから生まれる子供たちに、黒い髪の子供はいなくなりました。
この長き争いでたくさんの人々が亡くなりましたが、子供たちはどうにか生き残りました。しばらく狼は冬眠してしまったかのように、褐色の熊に身を潜めたからです。
狼は子熊になって荒野を生き、大きな熊になっても親狼を忘れることはありませんでした。
母乳も出ないほど栄養不足だったあの頃。
外を歩けないほど危険で、褐色の誰かに託されるしかなかった子熊たち。
何も出ない乳を吸ったり、粉ミルクと水を必死に手に入れて生き延びた長い長い歳月。
恋しいその胸はもうないけれど、ミルクをすすった匙を思い出し、彼らは自分たちが母を求める代わりに、その母のようにどこかの子供たちに小さな匙で乳をあげたいと思い、
空の星を眺めるのでした。
そして、ある日。北のどこかで一匹の蛇の頭が刈り取られました。
まだその地に確固とした平和はありませんでしたが、それでも狼狩りはなくなりました。
それから数年後、その地が安堵したのか、青い狼の子孫からまた黒髪の子供たちが生まれるようになったのです。
彼らをユラスの古い言葉で、「先祖返り」を意味する『バイラ』と呼ぶようになりました。
この小説にご訪問ありがとうございます。
いつもの方も感謝です!
誤字脱字、変な文章が非常に多いです。数日かけて直します。勢いが削がれると書けなくなるので、取り敢えず進めて直していきます!現在簡易版も更新していますので、それを機に『ZEROミッシングリンクⅠ~』も修正しています。
もしかして時系列年代年齢などがおかしいことに気が付いたら、こっそり直すかもしれません。すみません!
もう少しお話が続きますので気長にお付き合いください(心を込めて礼)