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ZEROミッシングリンクⅨ【9】ZERO MISSING LINK 9  作者: タイニ
第七十二章 星の人々

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17 銀河と銀河



ユラスのある場所。


サダルとチコは、様々な立場の重鎮が集う中でこれまで避けてきた話をすることになる。

この日は訳あって、東アジアだけでなくSR社の人間も揃っていた。




もう10年近く経とうとしているあの日。


サダルに付いた優秀な部下が多く亡くなり捕虜になったあの日。


あの場所は西の半閉鎖国家タイナオスであった。

そこはチコが躊躇してサダルを捕虜にしてしまった場所でもあり、オミクロン中央軍大佐カフラー・シュルタンを亡くした場所でもあった。


一般人は知らないが、その日は『生命分岐の接戦』とも言われている。

南の、厄介ではあるが他の主要国家ほど国際的に注目されない国に、世界最強と言われるオミクロン軍のいるユラス中央軍と、司令官トップであるサダルメリクが入ったのだ。


そこには正に命の鍵が入っていた。


当時世界中の研究所が盗難や襲撃にあう事件が勃発。これまでもそういうことはあったが、近年特に激しく発生していた。その中に以前サダルがいた国、ハッサーレの研究所も含まれていたのだ。


それはチコの、当時血だらけだった肉体などが保存されていた場所である。


他にも多くのニューロス研究に関わった人々の人体や遺体を保存。それだけでなく様々なウイルスや病原菌もあるのではと噂されていた。


確信に変わり研究所の内部情報を入手した時点で、ユラス中心の連合軍の部隊が組まれた。研究員や技師も多数必要であったため、研究員の中で最もあらゆる分野の技術を持っており兵役、戦場経験があり、指揮官でもあるサダルが同行することになった。彼は多く研究所のコードの保有者だ。




ユラスの道であり指導者であるサダル。それでも、全てを秤に駆けた結果であった。


既に数度の交渉は決裂。タイナオスは保管物を売って、外貨を儲ける準備をしていた。



連合側では想定される保管物の、迅速な移動を訓練させた特殊部隊が組まれる。


それと同時に、大きな研究所もないタイナオスになぜそんなことが可能だったかも鍵となった。バックもいれば、ミクライのように連合軍であれ北方国家であれ、自国を裏切った者たちもいるのだろう。SR社からも一部流れている。たった一個の細胞でも万や億に増える時代だ。

そして、これまでの襲撃に関しては高度な研究物の移動技術を持ち、かなり手練れの戦闘部隊たちがいたはずである。ギュグニーが噛んでいたら、戦闘アンドロイドが投入されている可能性もあった。




最終的には連合軍の勝利だったが、想像以上に多くの勢力がタイナオスに加勢してきたのだ。しかも連合軍は細心の注意の中で、重要な作業をしなければならない。手順を間違えると、生体が全てだめになるからだ。同時にタイナオスに不要な生体を残さない。これを決行するためには、スパイと人間の取り込みの勝負でもあった。

結果たくさんの犠牲を出した。




そして、今、この召集会議。


「………」

チコは居心地が悪い。当然その中で話されるのは、議長夫妻の子供に関してもだ。


当時カフラーは言っていた。ナオスが動き出すと知られないよう、外に漏れてはいけない発言だったが、『チコ、いつか絶対に子供を残すんだ』と。


正直チコは憂鬱だ。

まるで自分のために部隊が動き、たくさんの犠牲を出したようで。死んだ本人や家族の前で何と言っていいのか分からなかった。子供を残せず亡くなった人たちもたくさんいる。

再婚もせずにその後の長い人生を生きている人たちもいる。カフラーだってそうだった。


ユラスの血統や家系文化は痛いほど学んだので、自分個人でなく国や民族、しいては天啓単位で考えれば遠慮することも傲慢であるとは思う。実際、数人にそうも言われた。

ユラスの人間ではないが、タイナオス研究所の奪還から、子供を授かった被験者たちもいたのだ。



でも、もう自分は正常には子供を産めない。それに、どんなに祈り考えてみても、チコの中に答えはなかった。


そして自分たちは国の方向性の象徴でもある。


何かしら科学的なものになるだろうが、どこまでいいのか。本人同士のものであれば、体外受精そのものは問題がない。けれど、それ以外でも自然に任せることはできないのだ。再移植、移植など既に数通りの案が出ているが、何を選ぶか以前に頷いていいか。第三者の関与がいる案まである。

ただ、倫理問題にどこまで触れるのか分からないし、第三者が関わる場合、相手も親族も一切の利益も損も追求できない。それでも族長一族のために、既に多くの女性が修道を立て身を差し出す準備をしているとも聞いた。



一挙手一投足を天が見ている。



考慮すべきことは、宗教的にも大きくは4つある。


規律性、歴史性、信仰性、愛性。

規律性は動向や世界の成り立ちの原理原則や道徳的規範。歴史性は神の縦軸の歴史と一直線か、その未来はどこに向かうのか。信仰性は知恵や英知だけでなく柔軟性や心の強さ、耐性も含まれる。そして愛性は人間の移ろぐ愛ではなく、全てに揺らがない、全てを覆い、全てに潜在し、全てに常在するはずだった神の愛だ。


でも、チコには分からない。




***




「……チコ」

その日の夕食会の後、お茶や談話に入った人々の間を抜け、チコが外の風に当たっているとサダルもやって来た。


「辛い話をさせてすまなかったな。」

「……別に…。お互い様だから。」

「………」

「サダルこそ、再婚しなくて本当によかったの?」

「…天に永生を誓った仲だからな。まだ努力できるし、我々が指標にもなることだ。このままでいい。」

「……」


離婚し、再婚し、できる人と子供を成すこと。実体では簡単にできるように思えるのに、サダルは一度祝福を結んだ霊線を組み直すことの方が難しいという。ユラスの重荷もあるのだろう。


いくらユラスでも、この時代お互いの納得なく子供に関して無理な施術はしない。永遠を誓うい合うほど熱烈でも穏やかな関係でもなかったのに、バカだなとチコは思う。


「みんな再婚して子供を授かればよかったのに……」

みんなみんな、どうしてそうなんだと思う。サダルも、カフラーも、タビトの婚約者も。もちろん多くは第二の人生を歩んでいるが、そうしない者たちもそれなりにいる。



「……申し訳なかった。あの時私が来て、こんな話にならなければ、違った人生だったかもしれないのに。」

「まだ言ってるの?そのことはもういいって。」

チコは呆れてしまう。

「………でも……」

「今は今で楽しいこともあるし。」



でも、サダルは知っている。



初めて結婚に関してチコと顔合わせをした時、遅れてきたチコは会議の場に出るまで、サダルがあてがわれるとは知らなかった。部屋で待っていたのはカストルとガイシャス、カフラーとそしてサダル。


現場から上司のマゼリアと急いで駆けていたチコの顔は、表情が見えないながらも期待に胸を膨らますように紅潮していた。走って来たからではない。でも、小走りしたいほど期待していたのだろう。


サダルはショックだった。サイニックと言われていたかつての時からSR社で義体強化した数年の期間、この女性のそんな顔は見たことがなかったのだ。


でも、カフラーだけでなく自分の姿を確認した時、

チコは明らかに硬直した。


結婚の話がカフラーからサダルに移ったと悟ったのだろう。おそらく見るのも嫌だった人間だ。




「ねえ、本当に気にしないでってば。」

「そういう結婚ではないしな。自分たちは。」

「………そうじゃなくて……」

チコはため息する。


「あのね、カフラーはもし私と結婚しても、関係は持たないって言ってたし。」

「……?」

初めて聞く話だ。

「だってカフラーだよ?あんなエネルギーが余ってそうな見た目なのにさ、自分の子供を宿してくれた女性を置いて再婚できないって言ってて。」

「………」

「人によってはカフラーは再婚するべきだって責めてたし、奥さんは霊体でも現れないしで。」

霊性が高いと、亡くなっても会うことができるし、あらゆる夫婦の関係が持てる。けれど奥さんは、オミクロンの希望であったカフラーの地に生きる子供を望んだのであろう。霊が塞がってカフラーの前には現れなかった。


「だから教会の結婚の祝福は破棄していないし、私を隠れ蓑にしてさ。私がユラス社会になじんで、いつか任せられる人ができたらそのまま送ってくれるって言ってた。」

嬉しそうに、懐かしそうにチコは語るも、サダルは信じられない。いい話でもあり、本当なら都合のいい話とも思える。

「でも私は子供がね……」

どちらにせよ難しい。

「そう考えると、ユラス社会で生きていくには少し大変だから、何はなくてもカフラーと結婚したとしても、いつか一人で東アジアに移ってたかも。後は、私もお互い子供が望めない人や子持ちで再婚の人と一緒になるか。」



でもサダルは、彼らには魅力的に見えていた白金の女性兵チコが横にいたらならば、男ならそうは思えない可能性もあるだろうと考える。


それにサダルは、チコにとって自分は誰にも敵わない存在と思っていた。ワズンにも、かつてチコに結婚の申し入れをした他の者にも。今となってはザルニアス家のジョアにだって敵わない気がする。



緑の瞳の彼。


チコは、同じような苦境の人生を歩んだとしても、自分よりカフラーとならきっと幸せだっただろう。





月が明るい。


サダルは、何も言わずに月夜を眺める。



「サダル、二人で見付けようよ。」

「……?」

話しかけられたサダルは、今度はチコを見た。


「……ほら、ここはカウスに習ってさ。普通だったらカウスも最初の一言でバイバイだったよ。」

お見合いでエルライを邪険にした話だ。

「あれはエルライの功績だけど、あんなカウスとでも結婚して今は幸せそうだし。私たちも手を繋げるようになったし。」

チコは申し訳なさそうに、自分の手の平を開いて見せる。

「……そうだな……」


サダルはそっとその義手に自分の指を絡ます。

まだ仕事も多く再調整もあり、チコは完全に人間らしい腕には戻していない。多少雑に扱ってもいいのでチコもこの方が楽だ。



そして絡ませた手を、サダルはそのまま自分の顔に寄せる。

義手でも霊が通い、熱さが通う。


しばらくじっと、そうしていた。





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