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ZEROミッシングリンクⅨ【9】ZERO MISSING LINK 9  作者: タイニ
第七十二章 星の人々
17/33

16 星を見るⅡ



「行こう、時間だ。」

カストルたちも去って、サダルもチコと手を繋いで歩き出そうとする。


「わぁーー。お二人仲がいいんですね!手を繋いでる!!」

と最後に余計なことを言うのはほぼ日常生活に戻っているファイである。

「………」

白けた顔をする議長夫妻。公の場では手を繋いでいなさいと、あらゆる人に言われまくっているからである。


「はっ、そういえば手を!意外過ぎて…なんか照れます…。」

ラムダもしょうもないことを言う上に照れる。そんな輩でもないくせに。

「……ほんとだ…」

「なんだろう……なんか照れる。」

「チコさん、今更やめてくれませんか?恥ずかしいじゃないですか。」

ナンパの聖地、大房住民のくせに、この夫婦の慣れない距離に関してはなぜか免疫がなくなる仕様になっている。サダルを微妙に避けてチコに進言する陽キャのみなさん。


「……」

元々煩わしかったので、チコが振り払おうとするも、サダルが厚い手でギュッと握った。

「?!」

驚くチコに、ハートマークを作って過剰反応するファイ。

「やだーー!幸せそうで何よりです!」

絶対に思ってないだろうと思うも、チコは反応しないことにした。



そこで、サダルがファイに向いた。

「そう言えばファルソン・ファイ。受け取ってほしいお礼がある。」

「お礼?え?え?いいです!もう十分もらっていますし、プラマイしたら私マイナスですから!」

大人たちは火傷の件を知っているので、そのことかと思う。


「いい、私とチコからだ。そんなに高価なものでもない。」

ファイはなんのお礼か分からないがビビりまくる。あのお見舞いの後、なんだかんだ言ってオミクロンや議長夫婦から様々なものが女子寮に送られて来たので、食べ物など共有できる物は食堂などに置いておいた。量もすごいし、あの時ケガをしたり命を張ったのは自分だけではないと思ったからだ。


「少し仕事を手伝ってもらったからな。今日会えると思って持って来ている。」

とくに説明もせずサダルが指示を出すと、軍服の女性が大きめの紙袋を持って来た。

「えっ!議長様、個人的にはいけません!感情的にも、賄賂的にも!私めよりも先に奥様に立派なプレゼントを差し上げて下さい!!どうせ何にもあげたことないんですよね?」

あくまで奥様にこだわる。ユラス高官位個人からは何も受け取りたくないのでファイはおののくし、周囲も子供が凄いことを言っているなと見ている。


「気にするな。お菓子のお礼だよ。ありがとう。」

と、サダルから無理やり渡された。

「……ひぇ…」


「なんでファイがあんなに気に掛けられてるんだ?」

「まあ、勇士ではあった。」

「議長はやっぱり妄想チームが好きなんですかね……」

妄想チームも小声でつぶやく。

「だからってなんでファイは特別なんだ?」

陽キャも疑問だ。

「……最近、ユラスの上位クラスで、ファイを結婚させようの会が発足しているというウワサだ。」

「へ?何の嫌がらせ??」

ファイはあのフラジーアがいないか見渡しながらビビるも、彼は今オリガンである。

「ファイ、貴様何をしたんだ。」

「なぜそんなに好かれている!」

「『底辺大房であてもなく生きていたのに、ユラス高位貴族レディーが爆誕って私のこと?!』って、題になりそう。」


「??議長!私、議長争奪戦には加わりませんよ!!」

サダルは黙っているも、もう周りはビビりまくっている。ここでまた往復ビンタ戦を繰り広げるのか。あのソライカたちの渦中に入っていくのか。議長夫人席に大房民参戦なのか。ユラスの元貴族層の争いなど死ぬ運命しか見えない。


「ふっ」

そんな時、思わずサダルが笑ってしまう。

「?!」


「……まあいい。ただのチョコレートだ。気兼ねせずに貰ってくれ。」

「……」

「………」

反応できないファイの周りで、ユラス人たちがまた固まっている。


何故ならチコですら、サダルが笑ったところを見たことがなかったからだ。周囲にいたカウスどころか、ユラス側の護衛や側近メイジスもギョッとしてしまう。

「議長、お時間です。」

そして、議長夫婦もその場を去っていった。




大御所たちが皆行ってしまい、しーんとした後、ファイは袋の中を見る。

ガサゴソ漁ると紙袋の中には高価なものでないと言ったわりに、高級ブランドや有名カフェのチョコレートやミルフィーユ、溶かして飲むドリンクなどが入っていた。


「オオオ!なんだこれは!」

「お楽しみ袋か!」

「ファイ、お前は何なんだ!!何にジョブチェンしたんだ!!」

「やべぇ!チコさんですら最後固まってたぞ!」

「お前か!ユラス美女を差し置いて、お前が最後のチコさんのライバルになるのか!!」

「番長に下克上をするな!!」

「明日、チコさんから感想を聞こう。」

「チコさん明日から出張だよ。」

「………」

騒がしい中、唖然とするファイである。多分いつもの如く、寮に住んでいるのでみんなの分もあるのだろう。


「そうだ、お前、ありがとうも言ってないだろ。」

「ちゃんと会ってお礼くらいしに行け!!それが礼儀だ。」

「え……チコさんに言っておく……」

「ライバルに言うのかよ!」

下町ズ、言いたい放題である。


その後、大入りの袋に入っていたものはここに居る男子にあげ、箱入りの物は夜に寮の子たちと楽しむのである。そしてファイの寮には、ファイの仕事や趣味が舞台やイベントなどの衣装作りと知ったオミクロン族からも、様々な生地や糸、刺繍リボンや装飾品などがまた届けられた。


ナックスの母だけでなく、伯父からもファイやテミンの親は謝罪を受けた。祖母は相変わらずであったが、河漢35地区に住んでもらったので、35地区住民と仲良く暮らしていることであろう。ただ、そこを担当しているランスアからは、これ以上変な人を送って仕事増やさないで下さいと苦情を貰っている。



テミンとナックスがファイの怪我の理由を知るのはもっともっと後、彼らが大きくなってからである。




***




南海広場、正道教教会前の広場。


カストルが用事を済ませ移動していると、リゲルやラムダ、ジェイ、リギルと外で昼食を食べながら寛いでいるファクトを見付けた。


「お、ファクト。」

「総師長!」

「ケガは大丈夫か?」

「もう大分経つのに、みんなにそればっか言われます。総師長こそお体大丈夫ですか。」

「私は大丈夫だ。みんなも元気そうだな。」


それぞれ挨拶をする。

「……君は初めて見るね。」

「…っ!あ、あ、あ、すみません、あ、はい。」

リギルだ。この人がカストルかと驚いてしまう。


なにせ、リギル。宗教総師会の批判動画も作っていた。ネットでは世界の総師の悪口も言えたが、実物の前では子猫よりも大人しいどころかマリモである。護衛まで付けて怖すぎる。


思わず被ったフードをさらに下げてしまうも、カストルが手を差し出すので、ごめんなさいも言えずに、慌てて両手を出し礼をした。年老いているのに、手がとても厚く力強い。


「祈らせてくれないか。フードのままでいいから頭を少しいいかい。」

また慌てて少し身を屈める。

「あ?え?はい!」

世の仏教の長や法王クラスまでまとめる人である。これまで作った動画が、「東の漫画や小説的にはそういう人ってだいたい悪なので、そんな感じで動画まとめてみました!」という内容なので縮こまるも、コミュ障なので何も逆らえない。



「………っ」

緊張で何も分からないまま固まっていると、何かふわっと温かく感じ、そのままスーとその感覚が消えていった。

「??」


「まあ、残りの人生は他者に心を向けなさい。そうすれば悪いようにはならないよ。お母さんや兄弟を大事にするんだぞ。」

「へ?あ?………はぃ………」

なんだと戸惑っていると、今度はファクトを呼ぶ。

「ファクト、こっちに来なさい。少し見てあげよう。」

「あ、はい!」

ファクトも慌てて前に出た。




「………」

少し離れた場所に移動し、カストルはまたファクトの頭に手を掲げる。


あの時のように、青と黄金の光が見えた。


「……随分苦労したようだな……」

「そうでしょうか?みんなほどではありません。」

「そういうところがポラリス似だな。ポラリスもよくそう言うよ。ミザルもそんな感じだがな。」


少し待っているとカストルは何か考えている。

「星が大分きれいに戻っているな。」

「それって、僕を見て分かるものなんですか?」

「分かることもある……という感じかな。ファクトはこれからどうするんだね。」

「教師になる勉強を続けます!」

「おお!いいじゃないか。でも、自分の星は掴まないのか?」

「………」


「……そうですね……。もう少し………

天が許すなら様子を見ていたいです。」

しばらく女性はこりごりである。

「はは。」


カストルは少し小声になる。

「シリウスを派手にやったそうじゃないか。」

「あっ……」

「聞いた話だとモーゼスもな。」

「………」


実はファクト、空母並みの価値の機体を2機ぶっ壊したと、一部界隈でまた有名人になってしまった。いつも、どこの界隈ですかと聞きたいのだが、誰も教えてはくれない。ファクトとしては、いやいやそこまでのことはしていないし、世界の最先端技術の集結なのにそんな簡単に壊れないで下さいとは思う。もう、コマちゃん事件の借金どころではない。

「ご両親の作ったものを息子が壊すとは、ミザルもポラリスも思っていなかっただろうな。」

「……え?他にもいろいろ原因があるとは思うのですが……」


少し、考えて仕方なく報告する。

「……あの、めっちゃ恥ずかしかったんです。シリウスに攻撃を加えた理由を話すのが……」

「……ほう。」

カストルは既にいろいろ知っているだろうが、自分の口で言うのはまた別であろう。



「……本当は、ムギの手も自分が引っ張ってあげたいと思いました。」

「………」

話があれこれ飛んでいるようだが、カストルはゆっくりと聞く。


「でも………掴むべきじゃないと思って。ムギはきっとここを離れていくし、自分はアインドロイドにさえ曖昧で……」



アンドロイドに懸想どころか、襲われたのだ。あまり言いたくないし、100%拒否感だけだったわけでもない。


「正直。自分もしがないただの男なんだな……という情けない思いもしたし……」

全部話さなくてもカストルには意味が分かるだろう。

「それに感覚や気持ちだけじゃなく……この女性(ひと)たちを、愛おしくも、尊くも思いました……」



ファクトは知っている。


世の中の企業や生活で見えるアンドロイドの世界は、洗い流せば落ちる化粧でしかない。


アンドロイドの構成の全ては、深く、深く、底が見えないようで、そのとおり深い海があり、でも一枚岩ではなかった。


彼女たち自身の存在もあり、そしてまた、その向こうにたくさんの女性たちが居た。

彼女たちがそう作り上げたのだ。欲に率直な全ての犠牲にならないように。


誰にも侵害されないように、物と人間の、双方の尊厳を保てるように。




彼女たちが戦い守っていたのは…………


デジタル世界なのか、実社会なのか、哲学性なのか、人間の精神性なのか。




一見難解で、あまりにも複雑で、あまりにも広大な世界だったけれど、


最後に残ったものを見てみれば、濁流の中で自分の子犬も死んでしまい、弱った親犬があてもなく彷徨い、最後の力で守った、小さな他種の子犬だった。



でもその全ては、どんなものよりも尊かったのだと今は分かる。



「今のところ全部正直に話せば、何も責任を問わないと言われました!」

「ははは!よかったな。またいろいろ聞かせてくれ。もっと聞きたいな。」

そう言いながらも、次のスケジュールがあるのでカストルは去っていった。



ファクトはあの後考えて、いくつか自分なりに分かったことがある。

艾葉のあの日、あの限られた空間で、シリウスが損傷するほどの電気だったのに自分がこれだけの火傷で済んだのは、シリウスがもしかして人間である自分を何かしらの形で庇ったのではと思っている。




そんな、シリウスはしばらく休業中だ。


河漢でこれだけのことがあったので、シリウスが現場に関わったことは世間に隠すことなく、河漢で救助活動にあたりオリジナルの機体が損傷したことになっている。当時河漢にいたSR社のヒューマノイドは全調整に入っている。


モーゼスも似たような理由を一旦公表。しかしベージン社や関連企業には大規模監査が入った。





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