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ZEROミッシングリンクⅨ【9】ZERO MISSING LINK 9  作者: タイニ
第七十二章 星の人々
16/33

15 向かい合わせのあなたと私



久々のベガスの集会。


一番大きな会場にVEGAやアーツ南海のスタッフ、そして藤湾の学生たちも集まっている。カーフも来ていた。


「おおーーー!!カーフ~!!!」

「あ、ファクト。火傷したって聞いたけれど大丈夫だったか?」

「痕は残りそうだけど大丈夫。思ったより引きつりもないし、銃も握れるし、電気で怪我したのに電気でも治療してる。カーフの言う通りだった。おもしろい。」

「……元気なら何よりだけど……」

アンタレス人は答えにくいことを言うと思うカーフであった。



あれからカーフはそのままギュグニーに視察に。

そしてカプルコルニー領にギュグニー国民の一時滞在施設を作った。カプルコルニー領は現在様々なインフラを整えている。山岳地域であるギュグニーと荒野のユラスでは土地が違うが、一旦そこで基礎を学んでギュグニー復興の足懸りにしていく。

領土が広いカプルコルニー領には、犯罪加害者の国際的な更生施設や刑務所もあり、今回の件で裁判を待つ多くの人が今後流れ込んでくるだろう。ここには、サダルやチコのかつての同僚や部下たちも入所や服役しており、チコたちも時々見に来る場所だ。


ベガスアーツには会員になってから違法や犯罪などで捕まった者はいないが、残念ながら河漢アーツでは数件ある。また本人でなく彼らの家族が対象となる場合もあり、本人が対応できない場合はチコやサラサも面倒を見ていた。そして、それ以外の河漢犯罪者で犯罪組織の要点にいた者、悪質な者はカプルコルニーの施設に運ばれることもあった。



サウスリューシアのマイラやシロイはまだギュグニー現地だ。陽烏もニッカもそれぞれの派遣場所にいる。


水面下で長年に渡る準備が整えられていたこと、戦争処理経験があること、生活の急激な変化を何度も経験していること。ベガス構築でアジアからユラスに至るまで移民受け入れ、または現地での必要事業の急速な立ち上げや変更など働きとしても気持ちの上でも人々が通過していたため、大規模な変化があっても想定よりも周辺国の混乱は少なかった。





今回の集会では、久々にアンタレスに帰国したカストルが深い祈りの後、全体に少しスピーチをする。


「………報告で既に知ってはいましたが、留守の間に本願だったアンタレス中央の青年たちが、この場にも数多く賛同してくれたことを本当にうれしく思います。」


元々このベガス構築は、アンタレスやフォーマルハウトなど世界の中心都市の優秀な層が担っていくはずだった。もし最初にそこからスタートしていれば、廃墟に再建した都市も、ユラス創設組織VEGAが由来の『ベガス』とはならなかったであろうし、外資企業がここまで入ることもなかったのかもしれない。

けれども彼らは、初期、呼びかけに答えることもなく一部はひどく反対してきた。


そして回りに回って、やっと中央にも糸口を開いたのだ。

まだ、全体が動いているわけではないが、これから河漢も立て直す。さらに多くの人材が必要になるであろう。何よりも、人を指導して行ける人間が。


全てが計画通りではなく、蜘蛛の糸のような細く切れそうな道を辿って来たけれど、それでもこの功績は大きい。

もしユラスに清教徒と言われた新生たちが生まれなかったら、それをまとめる吸引力がなかったら、もし内戦が終わらなかったら、もしユラスがニューロスの根幹に関わらなかったら、そこにはギュグニー系の勢力が入っていたかもしれなかった。


それは若者が排他的になり、弱体化した巨大アンタレスの未来でもあった。


アンタレスは既に、廃墟の荒廃やスラムの拡大の方が、都市機能の維持や成長より大きかったのだ。



もっと言えば、ギュグニーしかなかった選択肢に、異端のユラスが入って来たのだ。

アンタレスの多くは当時、彼らの正体も人間も知らなかった。アジアラインの山脈の向こう側で、聖典に固執した古い過去に生きる異邦の民族としか知らなかったのだ。


ユラスから見れば、東アジアは自分たち他国の犠牲を盾にして、のうのうと資源や技術を使い、椅子の上で外部を批判している気楽で高慢な民族だと思われていた。



ただ、会ってみたらその通りでもあり、また全然違ってもいた。


そして、鏡だ。


お互い顔を突き合わせて見てみると、他人かと思っていたのに、まるで自分を見ているようで、どちらが自分でどちらが相手なのか分からなくなる。




カストルは言う。

「皆さんに感謝しきれません。それと同時に、信仰者以外の方にもお願いがあります。


ベガスの功績やあなた方の栄光は全て、天に帰して下さい。


天に帰したものは、天が手に取ってくれます。

万物も、心も、行いも。

あなた方が時に疲れ、時に力尽き、全てを目にする前にこの世から去ることがあっても、それは高く上がり、大きく広がり、いつか雨になって世界中に降り注ぐでしょう。


それはこの世で掴むどんな栄光よりも、世界を彩っていくのです。」



それから、会場全体を見渡す。



「そしてもう一つ。

これはいつも皆さんに言っていることです。


他人ではなく、あなた自身と向かい合って下さい。私自身と。

貧困も憎しみも戦争も、その原因もそれを変える鍵も、根本は他人ではなくあなた自身の中にあります。


天とあなたとの間に。

そこには一切の憂いも、憎しみもありません。」



カストルは真っ直ぐ世界を見る。



「今自分に、自身と向き合う力がない人もいるでしょう。無理にとは言えません。


今回は様々な方が来られているので、贖罪の話をするのは難しいので多くは話しませんが、人は個人のものと、個人ではどうにもならない大きな贖罪を抱えています。贖罪も本当の愛も、罪の意味も、それが本当の意味でいつか理解できるのは、本当の愛を知った時です。

我々はまだ、愛だけでなく、本当の罪も贖罪の意味も、その感情も知りせん。


ただ、人生でどれだけ自分が利己を捨て、利他のために生きてきたか振り返って下さい。利他は人を怨みません。憎しみもありません。


怒りや憎しみから生まれたことは、たとえ正論であろうと正道であろうといつか道を変えます。それを越えることは容易ではありません。生涯を修道や人徳に費やした者ですら成せませんでした。



なので、時に大きな天を見て、小さな自分の小さな足元も見るのです。」



人の世界は容易に思える。でも、自分の事情は天より大きく見える。越えられない、超える事すらありえない壁のように。



「自分の心に何があるのかを、いつもよく心に振り返って下さい。世界は全て、細胞一つ、電子一つに至るまで、相対(あいたい)し、連動しています。これは世界の構成を知るうえで、非常に重要です。


世界の全ては照らされています。死ねば暗い墓に入るのではなく、日光よりも明るい場所の(もと)で全てが明確になり、全てが照らされます。醜さも、優しさも、同じように。



あなたが人生の最期の最後に見るものは、世界の美しさでも他人のすばらしさでも醜さでもありません。


あなた自身が持っている、あなた自身の心だけです。」






***




「カストル総師長ーー!!」

「そうしちょーー!!!」

相変わらずうるさいのは下町ズである。


「総師長、今日南海に食事に来てください!いつもの食堂です!」

「すまんな。今日は、中央区で会議があるんだ。」

「えー、残念です!」

「今日来れなかったら、またしばらく会えなさそうなのに……」

一週間ほとんど会議で、この後またギュグニーに飛び、オリガン、サウスリューシアに行ってしまう。


「お年なんで、あんまり気圧の上下してると心配です……」

下町ズ、一応心配もする。

「あ、総師長。俺、骨密度上がったって言われたんですけどどうですか?」

「はは、上がったならいいだろう。」

好き勝手言う下町ズに、海外視察から同行して、あまりベガスを知らないお付きが引いている。


「総師長ーー!ご自宅にいろいろ送っておきましたーー!食べて下さいねーー!!」

ティガが調味料や様々なドリンクを送っておいた。時長からも果物や畜産品が届いている。

「ありがとう。みんなで食べるよ。」



そして皆さん、久々の意外な人物を発見。

「おお?!」

「きょうか―ん!!」

教官……

「ワズンきょうかーーん!!!」

下町ズにとっては久々のワズン、アーツでは第2弾までしか知らないレア人物である。


ワズンも手を振ると、裏方の出入り口なのでサダルと共にいたチコも出てくる。

「あ、ワズン……」

「……」

議長夫婦と目が合って、ワズンが無言で礼をするとチコが突然素になって絡む。


「ワズン?なんでここに居るんだ??」

「仕事ですが?総師長の護衛ですので。」

「結婚するまでベガスに入るな!って約束だろ?」

「………」

そんな事を覚えてたのかとバカを見る目でチコを見るワズンと、くだらなくて呆れているサダル。


しかし横からカストルが付け足した。

「結婚したからな。」

「……は?」

「ワズンは結婚しただろ。」

「……?」

と、カストルからワズンに視線を移すと、

「もう入籍しましたから。」

と、ワズンはチコに得意そうに言った。

「はあああ???」

周りを見渡すと、ユラス勢みんなが頷いている。周囲にいたアーツも「おおーーー!!」「おめでとうございます!!」と、歓声を送り、リーブラは手を振り拍手をしまくり。


「え??なんで報告しないんだ!!」

「今になって惜しくなりましたか?」

「こんなところで何言ってんだ。そんなわけないだろ!!報告しろ!!!」

食って掛かるチコにカウスが一言。

「チコ様に言うと、あれこれうるさいですからね。」

「何がだ!で、誰と結婚したんだ?」


「いい加減に身を固めようと思いまして。普通に紹介されて、西アジアの公務員でチコ様の知らない人です。」

「……ホントに?」

「おめでとうぐらい言ってくれませんか?」

「おめでとう…………ございます…………」

と言ってみるも、ムカつく。

「報告ぐらいしろ!」

「サプライズにしようかと。」

「ふざけるな!!」


「チコ様、いい加減にしてください。」

「黙れカウス。」

「大方、知り合いの女性を紹介して意のままにコントロールしようとでも思ったのでしょ。」

「何、コントロールすることがあるんだよ!!お前みたいに、妻に迷惑をかける男がいるから相手のことも知っておきたいだろ?お詫びやフォローもいるし。」

「私でなく、チコ様が仕事をいれまくるからじゃないですか!」

「それだけじゃない!」



ペラペラうるさいチコに、ユラス側の見たことのない護衛や側近たちがまた驚いていた。

「チコ、もういいだろ。」

サダルが止める。

「ワズンはカウスよりきちんとしているだろ。」


なにせカウス。最初にエルライを紹介された時、ユラス民族議長直近は結婚だろうが何だろうがほぼ命令なのに、「イヤです。好みじゃありません」と、エルライもいる前で一言言って周りをドン引きさせた男である。


カウスは地位や立場上、機密もあり誰とでも結婚できるわけではない。その中で、アジアとユラスのバランスがよく、兵役経験もあり組織の財務も担って非常にしっかりしたエルライを紹介したのに、断った理由が「タイプでないし、しっかりしてそうな人は、自由をくれなさそうなので嫌です」である。当時エルライは、外部から迎えた客人でもあった。

後に兄と伯父に殴られ、伯父たちが頭を下げる形で結婚したそうな。


鬼畜カウスである。




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