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ZEROミッシングリンクⅨ【9】ZERO MISSING LINK 9  作者: タイニ
第七十一章 青の狼
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9 君の骨



少し時間は戻る。


少しだけ寒さも感じるようになった、アジアラインの山。

ギュグニーは大きな変化を迎えるも、まだまだ全てが荒涼としていた。情報が届かない場所は、ギュグニーが解放されたことを知らない場所もあるだろう。



そこで見たある集落で、チコの父テニアは目を疑った。

見知った面影がある。

「………」


たくさんの人々と集会所に集められていた中にいた背の高い女性。40歳ほどだろうか。年にも見えないが長めの髪は艶を失い、少し疲れ切った感じもする。けれど、凛として非常にしっかりして見える。

「タイラ……」

近くでそう言うと、女性はふと振り向いた。

「?!」

その女性も信じられない顔をしている。


「テニア氏?」

東アジア軍が何かと声を掛ける。


「彼女がタイラです……」

「タイラ?」

「オキオル外交官拉致事件の……タイラです。」

「っ?!!」

周りが騒めく。

「まさか?!」

まだ調査前だった案件だ。タイラは、ロワイラルの唯一の同学年、中学2年生で拉致された外交官一行の一人である。



実は既に、チートンで元外交官の1名の生存の確認されている。カーマイン家の長女やカラと友人だったジーワイだ。ただみんなバラバラになり、彼女も他のメンバーの状況は知らなかった。




「………」

タイラはしばらく何も言葉を発せず、そして呟いた。

「……ダイ……ダイリーさん?」

テニアが一時期使っていた名だ。


「そうだ。えっと、本当の名はテニアだよ。三段階作用なんだけど。」

さらに本名はボーディスである。

「!!」

「大きくなったな。私が最後に見た時は、まだ私の頭一個分は小さかった。」

ほぼ同じ背丈である。

「もう覚えていないかと思ったよ。そう何度も会ったわけじゃないだろ。」

「ダイリーさん……」

外から来たダイリーは、いつもお菓子や何かの雑貨のお土産をくれ、他と違った空気を持っていた貴重な人だった。あの限られたものしか見えない閉鎖された生活の中で、忘れるわけがない。


「………うそ……」

突っ立ったまま呆けて、しばらくして泣き出した。

「ダイリーさん……。うそ……本当に………」

テニアは娘や妹のようで肩を叩いてあげたかったが、グッと控える。パンツスタイルで活発そうだ。スカートでないことが不思議に思える。あの頃逃げられないように履かされた、くるぶしまでの大きく長いスカート。


「どうしたの……?」

すると一人のもっと若い女性が、軍人たちが居る場所に不安に思いながらも出てきて、心配そうにタイラの服の裾をつついた。

「うううぅ……」

タイラはその子を抱きしめてさらに泣き出す。

「お母さん…?どうしたの?」

「……お母さんと同じ、西の国から来た人だよ……」

「……!」

女性も驚く。


「…?娘なのか?」

テニアの言葉に何度か頷く。

「長女です。あと二人います……。」

「……タイラ……」

喜んでいいのか……。喜ぶべきことだが、まだ状況が分からない。きちんと結婚し婚姻関係はあるのか、残りの二人は?ギュグニーでは結婚も強制。ひどいと支配層の都合で夫そのものを変えられる場合もある。


「解放されたなんて信じられなくて……。また違う勢力来たんじゃないかって……そうとしか思えなくて……。

でもダイリーさんを見たら………安心しました………」

「………」

「信じてもいいんですよね?……」

「ああ。」

「そちら側は変わってないですか?」

そちら側とは自由圏のことだ。この不思議な境。人間だけに存在する、悲しい国境。


「……ユラスの内戦が終わって、もっと自由になったよ。」

「………っ」

タイラはもう一度ギュッと娘を抱きしめる。




長女はテニアや周囲に礼をし、女性兵がタイラにタオルと椅子を持って来てくれる。指を差し出し特殊認証が解除されるのを、周りが驚いて見ているも、やはりジライフの外交官であった。指紋や光彩はほぼ中学生の時のままだ。


従軍牧師が来て聖水で清め、親子に祈ってくれると、タイラはまた泣き出してしまった。これまで声を出して祈ることもできなかったのだ。



それに感謝と共に、もう1つの憂いがあった。

確実な死亡は誰も確認していない。





でも、彼の妻レグルスはいない。



死亡も確認されていないが、目撃情報もない。彼女の最後の姿を見ているのは当時の元外交官の大人たちだけだ。とても歩ける状態ではなく、その後砲撃でソソシアの要塞は半崩壊している。生存は難しいだろう。


「ダイリーさん。……バーシ……あ、レグルス姉さんは……その………」

「……いい。分かっている。まず君がここで生きていたことが何よりの祝福だ……」



その後他の外交官たちの話を聞くも、カーマイン姉妹を支えたラージオとフィルナーが10年ほど前に生きていたことしか知らないと言う。

タイラは国境に向かった道中でトレミーやロワイラルたちと離れざるおえず、数人とレグルスの息子を抱えたまま他の勢力につかまってしまった。命は助かるも、赤ん坊だけ最大都市チートンまで連れていかれた。


「……」

連合側はそれがシェダルだと分かった。


シェダルが初めから自分の出生、チコと同腹の兄弟であると聞かされ知っていたということは、ギュグニーはチコが世界を裏切ったバベッジ族長家系シーの姪と言うことも知っていたのだろうか。ただ、状況からするとシェダルの父親であるジルモ・オビナーと、既婚者だった母との経緯は確実に把握していたのだろう。


ミクライ博士たちはSR社にいたチコを知っている。

両方を知っていれば、内戦中チコのユラスでの立場を、なにかしら理由を付けてもっと揺るがすことができたはずだ。どこかで共有が切れていたのか、切り札に取って置きたかったのか、それともこんな場所にいたミクライたちにも、全てを明かしてはならないという危機感はあったのか。



「タイラ、よく頑張った。連合軍が入った場所は、好きに家族でいてもいいし、話したいことを話してもいい。」

「………」

青春期を失ったタイラは、それでもジライフで学生生活をしていた頃の自由を知っている。


水面下で天の(ことわり)を学んでも、実感として知らない娘は母を抱きしめることしかできない。

けれど、今までと違う雰囲気の人間たちに、未知の、新しい世界が開かれたことは感じる。



若い魂はそんな空気を敏感に感じ取っていた。





そしてもう一つ。



後に誰もが驚く事実が分かる。




***




その後テニアはアジア軍中核と共に、ユラス軍同行でギュグニー西南の国境に向かった。



山の中の荒涼としたその場所。

昔は所々に生えていた草が、今は鬱蒼(うっそう)と生い茂っていたのだろう。


冬を迎える準備か、一部は既に緑を失い地面が見えていた。



目の前にはコンクリートの基礎を持った高いフェンスが見える。この向こう側の森は国際共同管理地域だ。さらにその向こう側にユラス大陸や他の国がある。



何もない草むらに見えるが、テニアは預かった『トレミー』の遺骨の欠片に引かれるように進む。


この辺りは枯れた草を少し掻き分ければ、あちこちで白骨体が見付かった。まるでそこに元々あった自然の小石のように。先にロボットが入り、周辺を撮影したり地雷の有無を確認してはいるも、足が緊張するこの道。



そして、フェンスが20メートルほど前に見えるところでテニアは止まる。

「………」

その下の地面をじっと見た。



そこには女性の、ほとんど原型が残るきれいな白骨体があった。草が絡まって、ところどころ崩れているも周りの骨に比べればそのままとも言える。

そして女性だろうと分かるのは、山であれどここは乾燥していたからか。部分部分、褪せた布が残っていたことだ。もう形はないけれど、全体を見て印象を受ける。まるでドレスのようだと。



「トレミー………」


しばらく祈る。

もっと大きな霊気が張っているかと思ったが、既に何もない、とても廃れた場所のように思えた。



その女性の傍らに膝を付く。



「……待たせたな。さみしかっただろ。」


「でも、君のおかげでレグルスの子は生き残ったんだ。」

今は自分の子というよりは、親友だったレグルスの子を助けたんだと伝えたい。

「それから400人近くここから国境を抜けたんだ。ロワイラルもな。」

それが娼館の人生を抜け出たトレミーの中の、小さな良心だったから。


バナスキーがロワイラルだったことは、要人の中では既に共有されている。


「テニアさん……」

「彼女が『トレミー』です。」

「……?!」

話しかけてきた軍上官に答えると、彼はひどく驚いていた。




【Ⅸ】で最終章。

出だしで書き忘れましたが、ほとんど整理の回です。ものすごく盛り上がって終わりとかではないので、よろしくお願いいたします!日常的な感じで進みます。エピソードの全部も回収しないです。


そして、現在ストーリー版を掲載している講談社×未来創造さんの『NOVELDAYS』の方で、毎日ある程度のPVをいただいております。なろうさんに比べると、メインジャンルが幅広く読者も少ない中でとても感謝です。


初期を読んでみたい。でも注釈や説明が多過ぎると思う方は、NOVELDAYSさんの方がある程度文が省いてあるのでおすすめです。



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