モブ令息ですが、どうやら悪役令嬢を《王子様系》にしてしまったようです!?
新作短編です! お楽しみいただけたら幸いです。
「負けてるわっっっ!!」
ふわふわとしたピンク色の髪をなびかせて、少女はくずれ落ちた。
地面に拳をつき涙をこぼすその少女――ルーチェ・ソヴァール伯爵令嬢に、歩み寄る人影が一つ。
その人はルーチェの前で膝をつくと、手を差し出し、ニコリとほほえんだ。
「顔を上げて。泣いている君も可愛いけれど、笑顔の方がきっと似合うから」
少し首を傾げた拍子に、後ろに束ねた赤髪が、サラリと流れ落ちた。
よく手入れされたサラサラの髪。指先まで意識された丁寧な所作。そして、優しい笑みと気遣い。
己に向けられたすべてに、ルーチェは叫んだ。
「なんで! どうして! 悪役令嬢が、本物の王子より王子らしいのよおおおぉぉ!」
そう。今現在、ルーチェに手を差し伸べている赤髪の人物は、王子のようだが王子ではない。
彼女はこの世界の「悪役令嬢」、キャメリア・メディウムであった。
ちなみに、本物の王子――エレファース・ロワクリム第一王子殿下は、ルーチェの後ろで抜け殻と化している。
崩れ落ちたヒロイン。抜け殻と化した王子。そして、王子よりも王子らしい振る舞いをする悪役令嬢。
そんな中、私はキャメリアの後ろで、腕を組んで死んだ目をしていた。
そして思う。
え? 今から入れる保険があるんですか?
どうして、こんなカオスな場面が出来上がってしまったのか。そして、ここからどうすれば良いのか。
誰か、教えてほしい。
◇
まず自己紹介といこう。
私はモーヴス・ブール。ブール子爵家の次男として、貴族学園である『ミトロジー学園』へ通う17歳である。
中肉中背で、成績も中の中。そしてどこにでもいそうなモブ顔に、地味な茶色の髪。まさにモブの中のモブだ。
そんな私にも一応、秘密らしいことがある。それは前世の記憶を持っているということだ。
前世は20歳後半の日本人女性で、蒸発した親に代わり、幼い弟を養うためにキャバ嬢をやっていた。
あの頃は本当に必死だった。
売れるためのトーク術や知識を叩き込んだり、体型を絞ったり、できることはなんでもやった。特にメイク術に至っては、整形メイク級の腕前と言われるくらいだった。
そのおかげで、厳しい世界でもまれながらも、弟を独り立ちするまで見届けたのである。
まあその後すぐ。
蒸発したはずの親がお金の無心にきて、口論の末に突き飛ばされて。
そして気がついたら、こちらの世界へ転生してしまったのだ。恐らく、打ち所でも悪かったのだろう。
まあ、それはいい。問題はこの世界のことだ。
ここは『宵闇のリュミエール』……通称『宵リュミ』の世界の中。
前世でお客さんから勧められて始めた、女性向けアプリの中である。
宵リュミは貴族学園を舞台に、伯爵家の私生児だったルーチェが転入してくるところから始まる、ちょっと重めの乙女ゲームだ。
攻略対象者はもれなく心に消えない傷を負っており、警戒心も強いがその分執着しやすい。選択をミスれば、監禁ルートへ入ってしまうというヤンデレ要素ありのゲームだった。
ここが、そんな『宵リュミ』の世界だと気がついたのは、つい1年前。ゲームの舞台となった『ミトロジー学園』に入学してからだった。
それまでに気がつくだろう、と思うかもしれない。でも、無理なのだ。
なぜならモーヴスの名は、アプリ内では出てこなかったから。つまりは完全なモブということ。そりゃあ気がつくわけがない。
しかも産まれは貴族だけど、幼いころに子爵家から逃げ出し、湖の近くに住む老夫婦に拾われた。
だから貴族の世界の話など耳に入らなかった。そのため、この世界のことに気がつくのがさらに遅れてしまったのだ。
そんな私が、なぜ貴族学園に通っているのか。
それは十歳を迎えたとき、その湖で溺れていた少女を助けたからである。
少女は訳ありで、入水するつもりだったと語った。
曰く、「義父になる予定の人が、大の女性好きで、お眼鏡に適った相手は誰であろうと手に入れる人」で、「その人の息子と婚約した自分も、そういう目で見ている」らしい。
それをきいたときの私の第一声が、こちら。
『ロリコンかよ。気持ち悪いな』
ドン引きの即答だった。
詳しく話を聞けば、どうやら婚約者の家は相当力があるらしく、婚約は覆せないのだそうだ。
家族は反対しなかったのかと聞けば、前妻の娘を処分するのにちょうどよいと、むしろ進んで追い出そうとしているという。
つまり、少女は十歳前後で敵だらけの生活を送っているということ。そりゃあ絶望するに決まっている。
前世でも今世でも親のせいで苦労した私としては、放ってはおけなかった。
だから知識をフル回転し、とある打開策を考え付いた。
『家を出なくてはならないのならば、そのロリコンの食指を動かさない人になればいいじゃん!』
そう告げたとき、少女は見事なぽかん顔になっていた。
そうだよね。私もなにを言っているのだと思った。でも、意外と有効な手段だと思う。
幸いなことに、私にはキャバ嬢の経験があった。
キャバ嬢は初めて会う相手の性格や趣味を把握し、楽しませる技術が必要だ。
そのため何をすれば好かれるか、逆に何をすれば興味を失うかを、少ない会話や仕草から導き出す技術を身に着けている。それらを駆使して、相手の望む女性を演出するのだ。
今回はその応用。好かれる技ができるのなら、興味を持たせない技もある。
聞く限り、そのロリコンは線の細い、整った愛らしい顔の女性が好みなのだろう。
追加でいえば、少女のように自分に歯向かえない幸の薄い憐れな子で、発育のよい子が好きそうだ。
まさに女性の敵である。
だが、ある意味では解りやすくて助かった。
だから私は、少女をロリコンの好みから外すように変えていった。
女性らしさを抑え、活動的な雰囲気を出せる化粧を。
敵を作らず、自分の意見を通す会話術を。
トラブルに直面した時の対処法を。
そうして作り上げたのが、結果的に「理想の王子様」だったのである。
……もうわかっていると思うが、この少女が、キャメリアだった。
つまり私は、気がつかないうちに、悪役令嬢になるはずの彼女を、王子よりも王子らしい令嬢に育て上げてしまったのである。
目論見通り国王の趣味から外れたリアは、手を出されずに済んだ。
けれどその代わり、悪役令嬢が王子になったまま、ゲーム本編がはじまってしまったわけである。
……ということで、一つ聞きたい。
これから、どうすればいい?
◇
「また俺のファンを取りやがって! どこまで邪魔をすれば気が済むんだ、お前はっ!」
第一王子の発言とは思えない言葉が聞こえた。
どうやら現実逃避をしている間に、殿下が屍から復活したようだ。
顔を向ければ、殿下はリアを指さし、わなわなと震えている。
リアは、そんな殿下にひとつため息を零した。
「――そんな言葉を使うものではないよ? せっかくの可愛い顔が、台無しじゃないか」
「かわっ⁉」
愁いを乗せた眼差しに射止められた殿下は、言葉を詰まらせ赤くなってしまった。
……照れる要素、あっただろうか?
「お、おお、俺のどこが可愛いというんだ! 恰好いいの間違いだろっ!」
「いいや、君は可愛らしいよ? すぐに顔色を変えてしまうところも、褒められると嬉しそうな顔をするところも。……それに僕に対抗しようと、女の子を連れてくるところもね」
「っ!」
「僕の気を引きたくて、そんなことをしているんだろう? でも、そんなことで女の子の好意を踏みにじるのは感心しないよ」
「ク、クソ」
キャメリアはニコリと音のつく笑みを浮かべていた。
顔から湯気が出る程赤くなった殿下は「覚えていろよ!」と捨て台詞を吐いて、走り去っていく。
心なしか、涙目だった。一国の王子が、あれでいいのだろうか。
どうやら悪役令嬢が変わってしまったせいで、他のキャラクター達にも影響が出ているようだ。
影を負った孤高の第一王子が、あら不思議。今では立派なかまってちゃんに大変身。
うん。どう考えても、ここからのリカバリーは不可能だ。
「ごめんね、モーヴス。おまたせ」
「あ、あぁ。うん」
遠い目をしていると、殿下の背中を見送ったリアが小走りで近寄ってきた。
その姿を、ちらりと盗み見る。
原作のキャメリアは、学園の制服を派手にカスタムし、豊満な胸や美しい足を見せつけるような恰好だった。
けれど目の前にいる彼女は、パンツスタイルで、肌の露出がほとんどない。
ジャケットの上からでも分かるほど豊満な胸は健在だが、ウエスト部で締められたベルトと肩に掛けられたマントにより、女性らしさよりも、洗練された格好良さが際立っている。
女性らしさがないわけではない。雪のように白い肌も、赤々とした唇も。大きな金色の瞳も、とても可憐だし、ちらりと見える首筋からはかなりの色気を感じる。
けれどそのすべてが凛とした雰囲気を醸し出し、魅力を増長しているのだ。カリスマ性とでも言えばいいのだろうか。
確かに、こんなオーラを放つ人の前に出たら、恥ずかしくて逃げ出したくなるのも頷ける。
ルーチェもいつの間にかいなくなっていた。
「……なにかな? そんなに見つめて」
しみじみと頷いていると、リアは少し頬を染めた。
「あ、ごめん。不躾だったね」
「君なら構わないけれど。どうしたんだい?」
「いやあ。本当に変わったなって、思ってさ」
「あはは。そうだろうね。僕も、まさかこうなるとは思っていなかったよ」
原作のリアは、攻略キャラたちに消えない傷を負わせるはずのキャラだった。
第一王子の婚約者でありながら国王すら篭絡し、贅の限りを尽くす。
気に入らないという理由だけで処刑を行い、暇つぶしにお家を取り潰す。
彼女の悪行により被害に遭った者は、数知れず。そして恨まれ、憎まれ、最後には断罪されるのだ。
けれど悪役になる前の彼女を知っている身としては、全ての元凶は現国王とリアの家族にあるとしか思えない。
幼女に手を出すクソ最低ロリコン王と、それを推進して成り上がろうとしたメディウム伯爵夫妻。
彼らのせいでリアは湖に身を投げた。
恐らく、原作ではそれでも死ねずに捕まり、王の手に落ちてしまったのだろう。だからこそ壊れていった。
そう気がついてしまえばもう、ゲームのシナリオ通りに戻ってほしいなどとは思わない。
リアは私にとって、弟子であり、守るべき子供だ。
……とはいえ。
(まさか王子妃を、王子様系にしてしまうとはね……)
まったくの予想外。変えるにしても、変な風に変わってしまった。
アプリの中だと気がついていたら、できるだけ主要人物とは関わらない選択肢もあったはずなのに。
(まあ、今更嘆いても仕方がないか)
一通りプレイした記憶はあるものの、これだけ変わってしまうと、アテにはできない。
私はすでに諦めの境地だった。
「難しい顔して、どうしたのかな?」
「いて」
考え込んでいたら、眉間を押された。
額を押さえて顔を上げると、心配そうに覗き込んでくるリアの顔がある。
リアはよく、私のことを気にかけてくれる。
平民として暮らしていた私が、学園のレベルについてこられるように、いろいろと教えてくれるのだ。
恐らく、恩返しのつもりなのだろう。
私はクスリと笑って、手を振った。
「大丈夫。なんでもないよ」
「そう? なら、いいのだけど」
リアには悪いが、「転生」や「乙女ゲーム」という話を、彼女にするつもりはない。
だって、自分がとんでもない悪役だったとか、断罪されるとか聞かされても、信じられる訳ないだろう。
そんなことをすれば、いくら懐いてくれていてもきっと嫌いになってしまう。リアに嫌われるのは悲しいから嫌なのだ。
「……ねえ、モーヴス」
「ん?」
リアはじっと私を見ていた。そして手を取り、甲へと口を近づける。
「僕はね、君に救われた。だから君の役にたつなら、なんだってやれるよ」
(か、顔がいい!)
はちみつのように甘い視線に、口元に浮かんだとろけるような笑み。あまりの美しさに、軽くめまいを覚える。
何も知らない人なら、すぐにでも恋を患ってしまうだろう。
でも、勘違いしてはいけない。これはそう言う視線じゃない。彼女が生き抜くために見つけた処世術なのだ。
始めた頃に比べたら、自然な流れでできるようになっているし、あれからも相当練習を積んだのだろう。
弟子の成長を思うと、いつの間にか顔が緩んでいた。
「ありがとう。そう言ってもらえて、嬉しいよ。でもリアに迷惑はかけたくないから、私、頑張るよ」
「……はあ。相変わらずだなぁ」
「え、何?」
「別に」
ニコリと笑いかけたはずなのに、リアは少しだけ恨めしそうな視線を向けてきた。
なぜなのか。
「あっ、キャメリア様!」
と、そのとき。誰かがリアを呼ぶ声が聞こえた。
眼を向けると、瞳を輝かせて走ってくる女生徒がいる。
「お話し中に、申し訳ありません。ラルム先生がお呼びですわ!」
「先生が?」
ラルム先生とは、私たちの担任の先生だ。わざわざ呼び出すということは、何かあったのだろう。
「なんだろう? ごめんモーヴス。ちょっと行ってくる」
「あ、うん。じゃあ、先に寮に戻るね」
リアは名残惜しそうにこちらを振り返っていたが、やがて廊下の先に消えていった。
「……さて」
それを見送った私は、寮とは別方向へと足を向けた。
向かう先は、あの人がいるであろう場所。
(さっきは現実逃避していたから、いついなくなったかは分からないけれど……)
私の探し人は、この世界のヒロイン、ルーチェ。
なぜ探しているかと言えば、ある考えが頭に浮かんだからである。
(ルーチェは、リアのことを「悪役令嬢」と呼んでいたわ)
「悪役令嬢」だなんて単語、この世界の人では思いつかないはずだ。
そもそも論、こっちのリアしか知らない人が彼女をみて、「悪役」だなんて思うはずがない。にもかかわらず、ルーチェはリアをそう呼んだ。
そう呼ぶのは、この世界がアプリの中だと分かっている人だけだろう。
(つまりは私と同じ、転生者!)
だいぶ変化しているとはいえ、シナリオを知っている人がいるのはありがたい。
一人で抱えるには重すぎるし、いろいろと相談したいのだ。
(いた)
探し始めてすぐ、ルーチェの姿を見つけることができた。
イベントごとによく出てくる中庭の噴水の淵に腰をかけ、植えられたバラを見てはため息を零していた。
「あの、ルーチェ嬢」
「ぅわあ!」
――ばしゃんっ!
声をかけるとルーチェは飛び上がり、噴水に落下してしまった。
どうやらモブとしての気配の薄さがアダになったようだ。シナリオ上に存在しないモブ故なのか、この体はほとんど存在感がないのだ。
「うわー! ごめん! だ、大丈夫?」
「ごほっ、げほっ!」
慌てて駆け寄り、引き上げる。
全身びしょ濡れで、このままだと風邪を引いてしまうかもしれない。春先とはいえ、夕方の風は身震いするほど冷たいのだ。
私は自分の上着を彼女にかけて、そのまま姫抱きをした。
こういうのは王子とか、攻略対象者の仕事だろうけど、今は周りに人もいないししょうがない。
「え、っちょ⁉」
「ごめんね。ちょっとそのままでいてね」
寮に戻れば、着替えも風呂もある。だから目指すべきは女子寮なのだろうけれど、こっちの世界の私はモブとはいえ、一応男子。女子寮に送ることはできない。
そのため、救護室へと向かった。
「失礼しまーす。あれ。先生は……いないのか」
「ちょっと、いい加減降ろしてよ!」
「あ、ごめんね。そっち座ってて。タオルと着替えを出してくるから」
降ろしたルーチェは、わなわなと震えていた。初対面の野郎に担がれて、恥ずかしかったのだろう。申し訳ない。
棚からタオルと替えの制服を取り出し、ルーチェへと渡す。
ルーチェはびくりとしながらも、警戒するように距離を取った。
「……なによ」
「そのままだと風邪引くよ。着替えたほうがいい」
「用意がいいのね?」
「あー。まあね。慣れてるから……」
思わず目を反らす。
存在感が薄いとはいえ、注目の的であるリアと共にいることが多いと、絡まれることも多い。
第一王子の婚約者という立場上、リアの周りには媚びを売っておきたい輩が群がるからだ。
けれどリアはいつも私以外を傍に置こうとはしない。
その影響もあって、嫌がらせをする生徒が結構いるのだ。
特に何か優れた才能がある訳でも、容姿が秀でている訳でもないモブが、傍に居るのを許されているのが気に食わないのだろう。
もちろん私とて、大事な弟子に下心見え見えのまま近づいてくるやつらにやられるつもりはない。
喧嘩を売られたら、ノーモーションで買う。前世でもそうして弟を守ってきた。世の中、舐められたら終わりなのである。
そういうわけで、救護室のどこに何があるのか、すっかり記憶してしまったのだ。
「喧嘩っ早いのね?」
「そりゃあね。やられたら倍返しは基本でしょう?」
「え⁉」
そう言えば、ルーチェは目を丸くした。
「こっちの世界でもそういうルールがあるの……?」
「あれ? こっちにはそう言うことわざ的なものって、ないんだっけ?」
「え。まって。ことわざって……。もしかして、あなたも転生者?」
「あ」
しまった。順を追って話していくつもりだったのに、思わぬところで暴露してしまった。
「ちょっと待って。ってことは、ここがこんなありさまになっているのって、あなたのせい?」
「あ~~~~。えーーーっと。これには深いわけがありまして……」
ぎろりと睨まれ、変な汗が出てくる。説明しろと、目が物語っていた。
仕方がない。予期していなかったけれど、こうなったらやけだ。
ルーチェが着替えている間に、自分の身の上を話すことになった。
―――
――
―
「――……なるほどね。それで、悪役令嬢は王子様系に。第一王子はかまってちゃんになった訳ね」
「はい」
「……いや。どうするの、これ?」
「どう……しましょうね?」
「あたしが聞きたいんだけど⁉」
「すみません」
頭を抱えるルーチェを見て、苦笑いしか出ない。
ルーチェは予想通り、転生者だった。前世は日本の女子高生で、宵リュミの大ファンだったらしい。
アプリの大型アップデートの前日の朝、道路に飛び出した子供を助けようとして、気がついたらルーチェになっていたそうだ。
混乱したけれど、夢にまでみた宵リュミの世界だ。
そう思って入学してきたのにシナリオとはかけ離れたキャラ達を見て、途方に暮れていたところだったようだ。
どうりで哀愁漂う横顔だったわけだ。
「本当にどうするのよ。このままじゃ……」
ルーチェは深刻そうに爪を噛んだ。
「ごめん。で、でもほら。私もまだ他のキャラ達には会っていないし、もしかしたら、誰か一人くらいまともなキャラがいてくれるかもしれないから、攻略もできるかもしれないよ?」
「はあ?」
そう言えば、ぎろりと睨まれてしまった。
どうやらフォローが逆鱗に触れてしまったようだ。
「男の攻略なんて、どうでもいいのよ! っていうか、そんなこと言ってられないの! あなた、事の重大さが分かっていないわね⁉」
「え、ええ?」
攻略などどうでもいいと言われてしまうと戸惑う。
だって、乙女ゲームアプリだよ? 男性キャラ攻略に興味がないとなると、一体他に何があるのか。
「いい? よく聞いて。あたしはこっちの世界に来る前日まで、超難易度の『悪役令嬢ルート』を攻略中だったの」
「あ、悪役令嬢ルート?」
「そうよ! 物語の裏側。悪役令嬢・キャメリアの過去が明かされていくルート。そのあまりの悲劇に、他の攻略対象を凌いで、圧倒的に人気なキャラルートよ? 知らないの?」
一応ゲームは一通りクリアした記憶はあるのに、悪役令嬢ルートの記憶は一切ない。
キャメリアを断罪して、キャラ達と幸せな生活になりました。で終わりだったはずだ。
首をひねっていると、ルーチェは「もしかして」と口にした。
「……あなた、ルート解禁前に転生したんじゃない? いつこっちにきたの?」
「えーっと」
記憶を辿れば、私がアプリをプレイしていたのは、隠しキャラの公爵子息ルートが解禁されたところまでだったはずだ。
「……公爵子息ルートか。だいぶ前なのね。それじゃあ、知らないのも無理ないわ」
そう告げるとルーチェはため息をついた。そして、説明するように口を開く。
「悪役令嬢ルートは、シナリオの裏側と過去が書かれていたっていうのはさっき言ったわね。そこには、キャメリアが悪役になっていく過程が書かれていたわ」
「過程……というのは、もしかして国王と伯爵夫妻の?」
「あら。これだけ変わっていても、そこは同じなのね」
握った手に、力が入る。やはり、原作でもリアの過去は悲惨だったようだ。
「知っているのなら、話しが早いわ。その過去から人を信じられなくなったキャメリアは、こんな国など滅んでしまえばいいと、悪逆の限りを尽くす。だから宵リュミの悪役は彼女だと、誰もが思い込んでいた。でもそれだけじゃないの」
「?」
「協力者がいたのよ。流石に、一人で国を転覆させる力はなかったみたい」
「協力者……」
「そう。キャメリアに注目を集め、その裏で暗躍していたの。……だから、その協力者を突き止められないと、国が亡ぶことになるわ」
「っはあ⁉」
頭を殴られた様な衝撃を覚えた。
国が亡ぶって? 話が大きくなりすぎていて、理解が追いつかない。
「滅ぶって、どうして?」
「それが分からないの。悪役令嬢ルートは、まだ未完成だったから……」
ルーチェは少しうつむいた。
どうやら次の大型アップデートで、その後のストーリーが解禁される予定だったらしい。
「っそうだ。リアは⁉ キャメリアはどうなるの⁉」
ハッとした。
だってルーチェの話を信じるのなら、国が亡ぶ原因にリアが関わっていることになる。
その先がどうなるかなんて……。
「悪役令嬢ルートの初めに、国が滅びた後のキャメリアが映ったのを覚えているわ。……キャメリアは黒幕に手を伸ばして叫んでいたから、たぶん、捨て駒にされたのだと思う」
「そ、そんな」
頭が真っ白になった。
せっかくリアが壊れることのない生活を送れているというのに、そんな未来など受け入れる訳がない。
「なにか……。なにか、そうならないようにする方法はないの?」
縋るように口にすれば、ルーチェからため息がもれた。
「その運命からキャメリアを救うためのルートが、悪役令嬢ルートなの。どうすればいいのかは分からないけれどね。……でも今この瞬間も、黒幕が暗躍している可能性は、十二分にあるわ。つまり、クリアできなければ、あたしたちも無事では済まないってことね。だから、未来を変えたいのなら、あなたも協力してよね」
「え?」
「え? じゃないわよ。あたしたちが動かないと国が亡んじゃうんだから。だからどうしてもキャメリアを攻略しないといけないの!」
「……あ、そっか」
よくよく考えたらルートが存在する以上、国が亡ばないルート、ひいてはキャメリア生存ルートが存在するはずだ。攻略対象キャラが死亡エンドだけだったら、乙女ゲームは成立しないのだから。
「リアを攻略できれば、国も救えるし、リア自身も助けられるかもしれないということだね!」
「そういうこと」
「ならもちろん手伝うよ! どうすればいいの?」
わずかに希望が戻ってきた。
がんばり次第で運命が変えられるのなら、どんなことでもやってみせる。
私は意気込んでルーチェを見つめた。
「そうねぇ。本来だったら、キャメリアとの会話からヒントを導き出したり、尾行したりで協力者をあぶりだしていくのだけど……」
言葉が濁された。
深刻そうにしていた理由が、やっとわかった。
それだけ重要なキーパーソンを、シナリオの原型すらないくらいに改造してしまったからだ。
「大変、申し訳ありませんでした」
どうやら、取り返しのつかないことをしてしまったようだ。
冷や汗がだらだらと流れてくる。
「……はあ。まあ、過ぎたことを言っても仕方がないわよ。とはいえ、あたしがキャメリアに近づくきっかけになるはずだった今日のイベントは、始まる前に終わっちゃったわけだし……。どうしたものかしらね」
「だったら、私がリアの攻略をしてみるよ!」
「あなたが?」
「そう! 別にヒロインが攻略しなきゃいけない、ってわけじゃないでしょう?」
「それはそうだけど……」
ルーチェは、上から下までじっくりと私を見つめると、一つ頷いた。
「それもアリかもね。この世界線のキャメリアは、なぜかあなただけを傍に置いているようだし。じゃあキャメリアはあなたに任せるわ」
「了解!」
「あたしは他のキャラ達からヒントを得られないか、探ってみるわ。お互い無事でいられるように、定期的に情報を共有しましょう」
差し出された手に、自分の手を重ねる。
奇妙な共闘関係が成立した瞬間だった。
――バンッ!
ちょうどそのとき、大きな音をたてて扉が開かれた。
驚いて振り返ると、そこにいたのは先生に呼び出されたはずのリアだった。
リアは私たちに視線をむけるとニコリと笑みを浮かべ、私の腕を引っ張って抱き寄せた。
「え⁉ ちょっと、リア?」
「……この子は、だめだよ」
リアはそのまま私の腕を引き、部屋を後にする。
突然のことに戸惑い、後ろを振り返れば、呆然としたルーチェと目があう。
「っ、ごめん! また今度!」
視界が壁に遮られる前にそれだけ言い残したが、果たして、届いただろうか。
◇◇◇
二人が去った救護室で、ルーチェは一人、ぽつりとつぶやいた。
「……キャメリアもヤンデレ化するって、言いそびれちゃった」
宵リュミのキャラたちはヤンデレ化しやすい。それは悪役令嬢ルートでも、例外ではなかった。
一応そのことを伝えておかなければと思ったのだが、告げる間もなく連れ去られてしまった。
「あれってやっぱり、そう言うこと……よね?」
キャメリアが部屋を出ていく際、ルーチェに向けた視線。それは明らかな敵意だった。
どうやらモーヴスと二人でいただけで、敵認定されてしまったらしい。
そして、モーヴスに向けるあの視線……。
「……予想以上にややこしいことになっていそうだけど、大丈夫かしら?」
ルーチェは遠い目をしながら、連れ去られた友人を思った。
◇◇◇
リアに連れてこられたのは、人通りのない校舎裏だった。
掴まれていた腕が離されたと思ったら、壁とリアの体で退路を絶たれる。
「……なんの」
「え?」
「なんの話をしていたのかな?」
リアはいつもの笑みを消していた。ただならぬ雰囲気に、思わず後ずさってしまった。
そんな私を行き止まりまで追いつめると、リアは私の顔の横の壁へと手を着いた。
間近で見るリアの顔は無表情なのに、不機嫌さがにじみ出ている。
「……リア?」
「目移りするなんて、悪い子だなぁ。モーヴスは、ああいうのが好みなの?」
「ええ?」
「僕だって、君が望むならああいう女になれるよ? ……それとも」
リアの細い指が、私の顎をすくった。
「僕じゃ不満なの?」
しっかりと合わされた視線は、不安と怒りを孕んでいた。
これは――。
(師匠を取られるかもしれないっていう、やきもち⁉)
リアは昔から、私に関心をよせられることを第一に考えていた傾向があった。
身の回りの大人に構ってもらえない分、私に構ってもらえるのが嬉しかったのだろう。
だからこそその関心をルーチェに取られる思い、不安になっているのだ。
つまりそれだけ懐いてくれているということだ。
私は目を輝かせた。
だって、これから彼女を攻略しなくてはいけないのだから、嫌われているよりは懐かれていた方がいいに決まっている。
後は好感度を上げつつ、友情エンドまで持っていけばいい。
「……大丈夫。私にとっては、リアが一番。だからリアは何も心配しないでいいんだよ」
リアは私の自慢の弟子だ。
一番弟子だ。なにがあろうとも、それは間違いない。
「本当?」
「本当、本当!」
「でも、あの子を抱きかかえて救護室にいったって……」
「ああ、それはね。私が急に声を掛けちゃったせいで、彼女、噴水に落ちちゃって。だから着替えを用意するために向っただけだよ。女子寮には入れないからね」
「なら、手を繋いでいたのはなんで?」
「手? ……あー」
確かにつないだ。でもあれは協力関係になったからだ。
でもそれをどうやって伝えたものか……。
「やっぱり」
「わー! 違う違う! 手を握っていたのは、ただの挨拶だよ。ほら、私とルーチェは初対面だったし」
実際は少し違うけれど、そう言うしかない。
「……そっか。じゃあ僕の早とちりだったんだね。よかった。もし本当に目移りされていたら、どうしようかと思っていたよ」
リアは少しだけくらい顔をしていたが、やがて頷いた。
「勘違いして、ごめんね?」
「う、ううん。大丈夫。それより、リアの用事は大丈夫だったの?」
雰囲気の戻ったリアにほっと息をつくと、ふと思い出す。
リアは先生からの呼び出しに応じていたはずだ。先生からの呼び出しというと、何かあったのか心配になってしまう。
「ああ。もうすんだよ。王妃様からの伝言を預かってくれていたらしい」
「王妃様から?」
「うん。エレファース殿下のことでね」
「あぁ……」
納得してしまった。恐らく、今日の問題行動についてだろう。
「王族は常に見られているからね」
そう言ってリアはクスリと笑った。
どうやらエレファース殿下の行動は、筒抜けのようだ。それにしても、あの件が終わってすぐに伝言を入れるとは。王妃様はものすごく仕事が早いようだ。
「というか、婚約者的にどうなの? 殿下のあれは」
エレファース殿下は昔からリアに対抗心を持っていたそうだ。
ことある毎に突っかかってきて、勝負事へと発展させるのである。
それは勉学に始まり、礼儀作法、剣技などに至る。ありとあらゆる面で自分の力を誇示しようと必死なのだ。
だが、今まで一度も勝てたことはなく、だんだんとヒートアップしていった。
その結果が先ほどの「婚約者に女性ファンとの仲の良さを見せつける」、という行動へ発展したらしい。
いくらなんでも、やりすぎだと思う。
婚約者がいる身で他の女と仲良くなるどころか、見せつけにやってくる男など、私だったら願い下げだ。
「そうだねぇ。僕は別に、優っているとか劣っているとか、そう言うのはどうでもいいのだよね。でも、殿下はそうじゃないみたい。僕が何をいっても、聞き入れてもらえないし」
不満を露わにする私に、リアは少しだけ困ったようにほほえんだ。
「……でも、殿下の行動は王の器としては不合格かなぁ。王妃様たちも、そう思っているみたい。じきに、婚約も解消されるんじゃないかな」
「え、えぇ⁉」
今、婚約の解消と言っただろうか。
思わず声を上げてしまう。
「え、そ、それは大丈夫なの⁉」
「ふふ。大丈夫だよ。今日の出来事で、陛下も納得したらしいし。もっとも、陛下はずっと僕を退けたがっていたからね。ちょうどいいと思ったんじゃないかな」
「ええ⁉」
またもや初耳である。
国王がリアを遠ざけようとしていただなんて、シナリオではありえない。
「言ってなかったっけ? 僕がこうだったからさ、もっと好みの娘を宮廷に入れたがっていたんだよ。ほら、王子妃は妃教育として、宮廷で生活するからさ」
「あんの王は……」
ロワクリム王国では妃教育の一環として、王子妃を王妃の下につけて生活させる。王妃から直々に教育を受け、王女の話し相手にもなる義務があるのだ。
そのため、王宮に居住することになる。
つまり、手を出しやすい場所に自分好みの娘を囲っておきたい、ということだろう。
思わず呪詛のようなうめき声が出てしまった。
「理由はどうあれ、僕としてはありがたいけどね。……でも、メディウム伯爵夫妻は怒るだろうなぁ。計画がご破算になるわけだし」
「あ、そっか。伯爵家の人たちとは仲が悪いんだっけ。大丈夫なの?」
リアは伯爵家の人たちと関係がよくない。先妻の娘という立場もあって、特に現伯爵夫人からは相当な扱いを受けてきた。
美少女だったリアを疎み、第一王子の婚約者という建前の貢ぎ物にしたのも現夫人だ。
言ってしまえば、リアを売り、王との繋がりを得たわけだ。
色欲に溺れた王に好みの娘をあてがえば、家の繁栄につながると思ったのだろう。
事実、リアが王子妃になって以降、メディウム伯爵家は金回りがよくなったと言われている。
今まで散々享受してきた恩恵が絶えるとなれば、黙っていることはないだろう。
「大丈夫、とは言い難いとは思うけど。幸い、王女様が専属の侍女兼護衛にならないかって言ってくれているからね。どうにでもなると思うよ」
「そうなんだ。それなら、まだ安心かな」
王子妃でなくなるのならば、新たな婚約も結ばれることになるのだろう。変な相手にされないかが不安ではあるが、王女様の侍女になるのならば、その辺りは心配いらないだろう。
むしろ、「我こそは」と名乗りを上げる人が多そうだ。……もしかしたら、女性から求婚を申し込まれることもあるかもしれない。
攻略しなくてはいけない身としては、頭の痛い話である。
とにかく、次にルーチェに会う時に対策を練らなくては。
「そのことで……。実は少し、お願いがあるんだ」
一人頭を悩ませていると、リアは不安そうに上目遣いで見つめてきた。
いくら王子様のように紳士的な彼女でも、これだけ環境が変わるとなれば、不安に思うのだろう。
「お願い?」
「うん」
「珍しいね。なんだろう」
そう問えば、リアは恥ずかしそうに頬を掻いて、目を反らしてから口を開いた。
「えっとね。その……。モーヴスに、僕の新しい婚約者になってもらいたいんだ」
「うんうん。なるほど。…………えっ⁉」
言われた意味を理解した瞬間、思わず大きな声をもらしてしまった。
(あれ? もしかして、攻略って婚約とか結婚がゴールだったりする?)
ふと気がついた。
私は、ヒロインと悪役令嬢の友情エンドが攻略完了だと思っていた。
でも、もしかしたら女性同士ということもなくはないわけで。
(それに、今の私は男なわけだし……)
婚約エンドの可能性は、十分にあるわけだ。
婚約者になれれば、よりヒントを探せるようになる。攻略が婚約で完了するのなら、受けないという手はない。
ただ……。
(リアのことは好きだけれど、それは親愛であって、そもそもそういう目で見たことがなかったし……)
そんな気持ちで、この話を受けてもいいのか。
それをすれば、慕ってくれる弟子の気持ちをもてあそぶことになる。
困ったことになった。
「あっ、突然すぎたね。ごめん。婚約といっても契約的なものだよ」
「契約……?」
驚きと困惑で固まっている私を見ると、リアは慌ててそう付け加えた。
「うん。殿下との婚約が解消されるとね、やっぱり、伯爵家が口を出してくる可能性が高いんだ。王妃様たちも、そこを気にしてくださっていてね。いっそのこと、婚約解消を発表するよりも前に、新しい婚約者を見繕ったらどうかって」
詳しく聞くと、リアが決めた人を王妃様が推薦したという形にしてくれるという。
王妃様からの推薦であれば、伯爵家と言えど無視はできないからだろう。
ただ新しい婚約者が誰でもいいかというと、そうではないらしい。
「僕の立ち位置に理解を示してくれる人で、信頼できる人、っていうのが条件でね。僕、顔は広い方だけど、信頼できる人というと……君以外考えられなくて」
「なるほど……」
つまり伯爵家があてがう男から、リアを守るための防波堤になってほしいということだ。
秘密を守り、リアが信頼を置ける都合の良い男を探していたのだろう。だからこそのお願いだったのだ。
「うん。君には面倒を掛けてしまうことになるけれど、仕事はもちろん紹介するし、悪いようにはしないと約束するよ」
「ふむ」
いきなり婚約の話をされて驚いたが、よくよく考えれば、私にも悪い話ではない。
だって私は次男だから爵位は貰えないし、子爵家とは関わりを断って久しいから、子爵家関係の仕事につけないし。
つまり将来は市井に下るか、女性しか生まれなかった貴族の家に婿入りするかの二択しかない。
とはいえ実質平民の私を婿に取りたいというようなもの好きなど、そうそういないわけで。
つまりは実質一択。
そこに新たな選択肢が見えたのなら、渡りに船。
将来的にも、攻略的にも、この話、乗らないわけにはいかない。
「……うん。分かった。仮初の婚約者を名乗ればいいってことだね」
「本当⁉ よかった、嬉しいよ!」
リアは頬を染めて喜んだ。その姿を見ていると、こちらも嬉しくなる。
「こうしちゃいられない! 王妃様に報告しなくちゃ!」
「あはは、そんなに喜ぶこと?」
「そりゃあね。これで――」
リアは何かを言いかけて止まった。
「ん?」
「ううん。なんでもない! それじゃあ、今日は寮に戻って、手紙をしたためてくるね」
「あ、うん」
手を振りながら走っていくリアを見送ると、その場にへたり込んだ。
いろいろなことがあって、どっと疲れてしまったのだ。
ルーチェに報告することはたくさんあるが、今日はもうそんな体力は残っていなかった。
(……まあいっか、明日で)
すでに陽が沈みかけているし、ルーチェは着替えたとはいえびしょ濡れになったのだ。とっくに寮へと戻っているだろう。
すべては明日から。
リアとの契約婚約の内容を詰めるのも、ルーチェと今後のことを話すのも。すべては明日から始めよう。
私はそう思い、男子寮へと戻る。ベッドに倒れこむとすぐに眠気が襲ってきた。
私は襲い来る眠気の波に抗うことなく、眠りについたのだった。
この日から、私の運命は大きく変わり始めた。
この後、私をめぐって熾烈な戦いが繰り広げられるようになるのだが、この時の私は知る由もない。
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